本書によると、即席めん：いわゆる「インスタント・ヌードル」の消費量は年間１千億食（2016年で974億食以上）という。
つまり、国連によると現在76億人の世界人口なので、世界すべての人がもれなくインスタントヌードルを食べているとしたら、
ひとりあたり年に13個を食べているという計算になる。
本書は早稲田大学の経営学の大家である川邉信雄名誉教授によって書かれた学術書であるが、
それだけに裏づけと内容がしっかりしているものの、学術書の堅苦しさはなくて
一般の人でも楽しく読書に没入できると思われる。
本書の構成は以下のとおりである。
序章：即席麺はなぜ世界食になったのか
第１章：日本における即席麺産業の生成と発展
第２章：南北アメリカへの進出
第３章：東南アジア諸国への進出
第４章：中国市場の台頭
第５章：欧州・インド・アフリカ・中近東市場への進出
終章：発見事実と今後への課題
インスタントラーメンの発明の動機は1945年にさかのぼるという。
安藤百福は大阪駅前の焼け野原になった場所で何軒かのラーメン屋台に行列ができているのを見て、
「このラーメンを工場生産で作ることができて、家で食べられるようにできれば、将来、喜ばれる仕事になるのではないか」
と思ったという。こうして安藤百福は研究の末、1958年に即席めん「チキンラーメン」を開発し販売を始めたという。
こうして一般家庭で食べられるようになった即席めんが、どのようにして海外進出を果たして
日本の国民食から世界食へと飛躍をとげてきたのかを、本書は膨大な資料をもとに見事に明らかにしている。
本書を読むべき見込み読者はおそらく以下のような方々だと思う。
１、食品メーカーに限らず、企業のマーケティング担当者
２、食品メーカーに限らず、企業の国際部門担当者
３、企業経営者
４、歴史好きな読者
５、即席めん好きな読者
６、マーケティング研究者
なおレビュアーは、知人の外国人医師との会話で「最近どんな本を読んだか？」と訊かれたのでこの本の内容を英語で話したところ、
きわめて興味を持たれ「是非読みたい」といわれたが、
「残念ながら本書は日本語で書かれており、まだ英訳されていない」と答えざるを得なかった。
本書はできるだけ速やかに、日本語が堪能なるネイティブスピーカーによって英訳されるべき本であると、
レビュアーは確信するにいたった。
いずれにせよ、本書は、即席麺に関して、
マーケティング、国際経営学、異文化マネジメント、特許管理論、広告戦略、製品開発、イノベーション、M&A、ファイナンス、
政府規制、といった広範な問題にインターディシプリナリーに触れつつ書いているのがとにかくすばらしい。
視野がきわめて広い著者ならではの手腕が惜しみなく縦横無尽に展開されている。
レビュアーが今年読んだ本の中でイチオシの良書である。
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