月岡芳年と言えば誰もが真っ先に思い浮かべるのは「血みどろ絵」ではなかろうか。
だが、その一部の作品群が余りにも衝撃的、且つ生々しい所為で却って芳年が正しく評価されていないように感じるのは恐らく私だけではないと思う…そんな中、芳年の生きた時代を考察し、これまで余り注目されて来なかったジャンルにも目を向けながら改めて「本物の絵師」としての芳年を論じたのが本書である。
本書は先ず「月岡芳年の人物像」に於いてこれ迄の彼の評価を辿ると同時に残された史料を基に彼の生涯も紹介し、次に幕末と言う時代に目を向けて彼の「血みどろ絵」が描かれた背景に迫った上で、明治時代以降の芳年については、新しい分野…即ち、メディアとしての浮世絵に着目しながら、例えば「西南戦争錦絵」や「歴史画」を通して彼の活躍を論じている。
尚「月岡芳年と江戸」と題された最終章では、本書のサブ・タイトルにもある「幕末明治の狭間」という激動の時代を考え直し、「江戸への回帰志向」と「江戸時代に戻れない現実」という狭間の中での芳年の作風が如何なる様相を示したかを紹介しているし、更にはとかく低く評価されがちな彼の美人図についても、この時代の眼を通して再評価している。
そして、同時代に活躍した小林清親と豊原国周、或いは芳年の弟子達にも言及しながら、この時代における芳年の立ち位置を確認して本書は幕を閉じており、実に読み応えがあった。
本書の中で特に認識を新たにしたのは歴史学にしても美術史にしても、現代の価値観で量ってはいけないという事であろうか…例えば「血みどろ絵」については、芳年が精神を病んで亡くなった事実とも相俟って、まるで芳年独特の作品でもあるかのように捉えられてしまうが、実はこうした残酷な作品は彼の専売特許ではない。
即ち、この時代は内戦もあり凄惨な事件もあった為、恐らく芳年もこうした光景を目にする機会もあったであろうし、正しく“幕末明治”に生まれるべくして生まれた作品だったのだ。
そして、芳年の美人画が何故か低評価である事についても、そもそも“美人”の基準は時代に依って変化する事を考えるべきであり、それを無視して「歌麿こそが美人画の最高峰」という後世の価値観を基準にすれば公正な評価は出来ない事は明らかであろう。
確かに、時代が移り代わろうとも不変の芸術もあるかもしれない…然しながら、浮世絵は世相と共に変遷する芸術であり、また時代を敏感に反映してこその浮世絵でもあるのだ。
上記に挙げたのは本書の中のほんの僅かな部分だけではあるが、全章に亘って常に彼の作品と時代とを対比させながら丁寧に分析する姿勢は真摯でもあり、これまで語られて来た“月岡芳年の虚像”を覆してくれると言っても過言ではないと思う。
芳年の作品に溢れる迫力には前知識や言葉はいらないと思うかもしれないが、やはり彼の作品の魅力の全てを知るには、冷静に時代背景を分析する必要がある。
本書を読めば、成程、月岡芳年が人気絵師として時代を一世風靡した理由も良く解るし、何よりも誤った解釈を正す事が出来ると同時に、新たな魅力を再発見出来るので、幕末明治の時代を駆け抜けた一絵師の生きた証としても本書を推薦したいと思う。
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月岡芳年伝 幕末明治のはざまに 単行本 – 2018/9/3
菅原真弓
(著)
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□□第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞(評論等)受賞作□□
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■■重版出来! ! ■■
「最後の浮世絵師」とも称される月岡芳年(つきおか・よしとし、1839-1892)。
「江戸」に生まれ「東京」で歿した芳年は、幕末から明治期という未曾有の大転換期に、絵師としてどのように向き合ったのか。
残された資料や作品の精緻な博捜に基づき、客観的かつ立体的に芳年の生涯と画業を描き出す、芳年論の決定版!
- 本の長さ456ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論美術出版
- 発売日2018/9/3
- 寸法15.3 x 3.1 x 21.6 cm
- ISBN-10480550854X
- ISBN-13978-4805508541
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著者について
大阪市立大学大学院文学研究科教授。学習院大学大学院人文科学研究科哲学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(哲学)。主な著書に『浮世絵版画の十九世紀―風景の時間、歴史の空間』(ブリュッケ、2009年)。共著に『月岡芳年 和漢百物語 (謎解き浮世絵叢書)』(二玄社 、2011年)、『激動期の美術―幕末・明治の画家たち 続』(ペリカン社、2008年)など。
登録情報
- 出版社 : 中央公論美術出版; 初版 (2018/9/3)
- 発売日 : 2018/9/3
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 456ページ
- ISBN-10 : 480550854X
- ISBN-13 : 978-4805508541
- 寸法 : 15.3 x 3.1 x 21.6 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 358,550位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 70位浮世絵・絵巻物
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