私のブログにコメントが書かれていたのでパラパラと眺めてみました。
作動流体として水を用いた場合、サイフォンの原理の説明に「鎖モデル」を用いている時点で流体力学的には誤っているので、これを理科の教材として利用することはお勧めできません。(本書内でも紹介されていますが、世の中には「鎖モデル」を補強するようなゲルを用いた「教材」もあるので困ったものです。高分子のゲルは粘弾性体といって「ねじる」変形(せん断応力)に対して復元力を示すので、水のようなニュートン流体とは違う力学で動作しているのです。)
わたしたちが日常的に出会うサイズのサイフォンは、統計物理学的には巨視的なサイズの流体の現象ですから、分子間力のような微視的な説明ではなく、圧力、粘性のような巨視的な量を用いた考察をしなくてはいけません。(ちなみに水のような密度の高い流体で、分子間力のような微視的な力から、どのようにして圧力、粘性のような巨視的な力が導かれるのかという問題は、2013年現在の非平衡統計力学のホットな話題のひとつであり、先端の研究者でないと扱えない難しい話題です。)
サイフォンの中を水が流れる原因は、サイフォンの管の両端の水圧に差があるからですが、この水圧の差は管の「外」にある流体の液面の高さの差によって生じています。ですから、サイフォンの動作原理の説明で管の「外にある」流体が「主」になっていない説明は眉に唾をつけて読む必要があります。
ところがこの書籍では「鎖モデル」を補強する形で解説、実験が構成されており(ただし流体が流れる原因はいずれも水圧の不釣り合いによって説明できるものばかりです)、誤概念の巣窟となっています。とくに途中で何回か折れ曲がった管を用いた実験では、最後の流出部を必ず「下向き」に設定してあり、読者をミスリードするように実験が仕掛けられています。流出部を上向きになるように管を曲げても、水は必ず流出します。(ちなみに小学生向けの実験としては、ストローを繋いだものよりも、熱帯魚コーナーに売っているようなシリコンチューブの方がさまざまなパイプ形状を実現しやすいので便利でしょう。)
サイフォンのパイプの形状はいくらでも変えられますから、「重力の向き」と「流体の運動の向き」が単純に一致しているようなサイフォンの説明は眉に唾をつけて読む必要があります。
微視的な説明をしようとして間違う例としては、クルックスの羽根車に陰極線を当てて「電子がぶつかって回る」と説明する例があります。これは「ラジオメーター効果」と言って羽根車が陰極線で熱せられて発生する風で回っています。サイフォンの「鎖モデル」もまちがった微視的なイメージを用いた誤概念の典型と言えるかもしれません。(ちなみに2010年にオーストラリアの大学教授が「辞書の定義が間違っている」として話題になりましたが、氏の説明も「鎖モデル」を用いた誤ったものでした。)
困ったことは、以上のことは流体力学の基礎的な知識の範囲を越えないので、流体力学の研究論文にならないことです。
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サイフォンの科学史―350年間の間違いの歴史と認識 単行本 – 2012/12/20
宮地 祐司
(著)
- 本の長さ259ページ
- 言語日本語
- 出版社仮説社
- 発売日2012/12/20
- ISBN-10477350238X
- ISBN-13978-4773502381
登録情報
- 出版社 : 仮説社 (2012/12/20)
- 発売日 : 2012/12/20
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 259ページ
- ISBN-10 : 477350238X
- ISBN-13 : 978-4773502381
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,114,905位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2013年6月13日に日本でレビュー済み
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2017年2月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
これまでのレビューがひどすぎると思いいました。真空中でもサイフォン現象が見られることが重要です。それを他のどんな本が指摘していますか?液体中には負の圧力、すなわち張力、が発生できます。著者はそれを分子の鎖と表現しているだけです。なかなか類書がないのでこれが優れた本であることがあまり理解されずに、頭の硬い人が月並みな考えで非難していると思いました。
2018年9月20日に日本でレビュー済み
サイフォン現象は古代から利用されてきた技術であるが,その理論的な解明には長い歴史が必要であった。本書はその「間違いの歴史」を明らかにしている。
しかし,残念ながら著者が「大気圧説」に代わるメカニズムとして「水分子の鎖の張力」で説明したことは,流体力学的に間違いであった。それに対する専門家の批判がこの本に多く寄せられている。そのため現在ではこの本は出版社と著者の意向で廃刊となっている。
しかし,私はこの本はそれでも十分読む価値があると考えている。それはこの本が「サイフォンの仕組みが大衆の真理となっていない現状」を私たちに気づかせてくれたからである。それだけでもこの本は十分素晴らしい。
この件に関してほとんどの専門家は「ベルヌーイの法則」を持ち出して,数式で説明して「証明終わり」としている。流体力学の参考書もほとんどそうである。しかし,これではいつまでたっても,サイフォンの流体力学は「誰でも分かる科学的真理」とはならない。それが350年の歴史だと著者は明らかにしたのある。
科学の知見はただ専門家が明らかにすればそれで良いというものではない。それは大衆のものになって初めて真理となるのである。現代の職業科学者(いわゆる専門家)の多くはそのところが全く分かっていないのだろう。そこを著者は指摘したのである。たとえ鎖説が間違っていても,その「大衆のものになっていない現状」は今でもそのまま正しく通用する指摘である。専門家だけが分かっていても,それは本当に分かったことにはならない。それを誰にでも分かるような形にまで研究を仕上げて,初めて「本当に分かった」と言えるのである。
それでは「科学を大衆のものにする」にはどうしたらよいのだろうか。多くの専門家には未だに理解されていないが,「ある科学的概念を誰でも分かるものにする」には,単にわかりやすく説明するだけではたいていうまくいかなくて,認識過程を明らかにする専門的な研究が必要なのである。それが「科学教育を研究する目的」であり,「科学教育研究の専門性」なのである。著者はその研究結果として「授業書(だれでもたのしく分かるような授業のためのテキスト)」もこの本で公表している。そこには「間違うには間違うだけの理由がある」という認識の問題が明らかにされている。これこそ,著者の科学教育の専門的研究無しでは決して明らかにできなかったことなのである。著者の「大気圧説」の歴史的研究によって,それは「科学者でも陥る間違い」であると明らかになったことは,「多くの人が同じ間違いをしやすい」ということだ。この研究結果は流体力学を教えるための手がかりが得られたということだ。「数式で証明終わり」でこと足れりとしてしまうのでは,このような事実には決して気がつかなかっただろう。事実,現代の専門家の現状を見ればそうなっている。現象の「実体的イメージ」まで明らかにできて,はじめて「誰でも分かるように」伝えられるのだ。
この本は「流体力学入門としてのサイフォン現象」は「科学教育の未解決の問題」であることを明らかにしたのである。その研究は残念ながら未完に終わったが,この本を第一歩にして,「流体力学的に正しい実体的イメージ」を作る研究を進めることが,私たちがやらなければならないことなのである。その研究が完成したとき,初めて流体力学は誰でも分かる理論と言えるようになる。科学教育の関係者はさらなる研究を積んで,この本を乗り越えてほしいと思う。
しかし,残念ながら著者が「大気圧説」に代わるメカニズムとして「水分子の鎖の張力」で説明したことは,流体力学的に間違いであった。それに対する専門家の批判がこの本に多く寄せられている。そのため現在ではこの本は出版社と著者の意向で廃刊となっている。
しかし,私はこの本はそれでも十分読む価値があると考えている。それはこの本が「サイフォンの仕組みが大衆の真理となっていない現状」を私たちに気づかせてくれたからである。それだけでもこの本は十分素晴らしい。
この件に関してほとんどの専門家は「ベルヌーイの法則」を持ち出して,数式で説明して「証明終わり」としている。流体力学の参考書もほとんどそうである。しかし,これではいつまでたっても,サイフォンの流体力学は「誰でも分かる科学的真理」とはならない。それが350年の歴史だと著者は明らかにしたのある。
科学の知見はただ専門家が明らかにすればそれで良いというものではない。それは大衆のものになって初めて真理となるのである。現代の職業科学者(いわゆる専門家)の多くはそのところが全く分かっていないのだろう。そこを著者は指摘したのである。たとえ鎖説が間違っていても,その「大衆のものになっていない現状」は今でもそのまま正しく通用する指摘である。専門家だけが分かっていても,それは本当に分かったことにはならない。それを誰にでも分かるような形にまで研究を仕上げて,初めて「本当に分かった」と言えるのである。
それでは「科学を大衆のものにする」にはどうしたらよいのだろうか。多くの専門家には未だに理解されていないが,「ある科学的概念を誰でも分かるものにする」には,単にわかりやすく説明するだけではたいていうまくいかなくて,認識過程を明らかにする専門的な研究が必要なのである。それが「科学教育を研究する目的」であり,「科学教育研究の専門性」なのである。著者はその研究結果として「授業書(だれでもたのしく分かるような授業のためのテキスト)」もこの本で公表している。そこには「間違うには間違うだけの理由がある」という認識の問題が明らかにされている。これこそ,著者の科学教育の専門的研究無しでは決して明らかにできなかったことなのである。著者の「大気圧説」の歴史的研究によって,それは「科学者でも陥る間違い」であると明らかになったことは,「多くの人が同じ間違いをしやすい」ということだ。この研究結果は流体力学を教えるための手がかりが得られたということだ。「数式で証明終わり」でこと足れりとしてしまうのでは,このような事実には決して気がつかなかっただろう。事実,現代の専門家の現状を見ればそうなっている。現象の「実体的イメージ」まで明らかにできて,はじめて「誰でも分かるように」伝えられるのだ。
この本は「流体力学入門としてのサイフォン現象」は「科学教育の未解決の問題」であることを明らかにしたのである。その研究は残念ながら未完に終わったが,この本を第一歩にして,「流体力学的に正しい実体的イメージ」を作る研究を進めることが,私たちがやらなければならないことなのである。その研究が完成したとき,初めて流体力学は誰でも分かる理論と言えるようになる。科学教育の関係者はさらなる研究を積んで,この本を乗り越えてほしいと思う。
2013年2月8日に日本でレビュー済み
現在(2013年)手に入るほとんどの辞書・事典には、「サイフォン中の液体が動くのは、大気圧が原因」と書いてある。『広辞苑』も『OED』もそう。
しかし、この本の著者は「大気圧が原因ではない」と主張している。しかも、何人かの論証と実験を元にして。
だとすれば、辞書・事典の執筆者は、著者の論に答えるべきだろう。
サイフォンは古代からある技術。それもほとんど動力なしで、大量の液体を移動することができる。まったくエコな道具なのだ。たしか、福島第一原発の燃料プールにも、サイフォンが使われていたと思う。
本書にはさまざなサイフォンも紹介されていて、この古くてエコな道具にまだまだ未来があることを感じさせてくれる。
学校の授業にも使える授業書(仮説実験授業で使用するテキスト)もついている。
しかし、この本の著者は「大気圧が原因ではない」と主張している。しかも、何人かの論証と実験を元にして。
だとすれば、辞書・事典の執筆者は、著者の論に答えるべきだろう。
サイフォンは古代からある技術。それもほとんど動力なしで、大量の液体を移動することができる。まったくエコな道具なのだ。たしか、福島第一原発の燃料プールにも、サイフォンが使われていたと思う。
本書にはさまざなサイフォンも紹介されていて、この古くてエコな道具にまだまだ未来があることを感じさせてくれる。
学校の授業にも使える授業書(仮説実験授業で使用するテキスト)もついている。
2020年8月8日に日本でレビュー済み
図書館でかりました。良い本なのに、鎖説が間違いということで評価が低いのは残念です。NS解いたらわかると言っても、それじゃ小学生にも相手にされない。”専門家”の皆さんも知恵を出して、小学生にもわかる説明や実験考えて、この本の続編出してほしいです。サイフォンは、良い教材だと思いますよ。PEOのところは、レオロジーの人が読むと、あー勘違いしてますねって程度で、それ程目くじら立てないと思いますけど。むしろ、サイフォンの授業の締めくくりに、実はこんなのもあるんだよね~って管なしサイフォンの実験やって、チラッとレオロジーとかいう言葉を出してくれれば、未来のド・ジャンが育ってくれるかもしれないし。