本書は、主にアニメーターに焦点をあて、アニメ産業を下支えしつつも、一部のスターを除いてあまり日の目をあびなかった職能をめぐる当事者たちの意識と規範を調査した労作です。
アニメーターが過酷な労働環境に置かれているのは多くの人に知られるところで、それ自体を指摘する際の文体にも定型ができつつあります。本書が興味深いのは、単にそうした状況をなぞるのではなく、「それにもかかわらずなぜ、アニメーターは働き続けるのか/働き続けることができるのか」といった問いを設定している点です。
たとえばアニメ制作は、多数のアニメーターを動員してはじめて成立する「労働集約型」の現場です。したがって、アニメーターを搾取して現場から離れさせるのではなく、アニメーターが継続的に生活を営めるようにする必要があります。こうした産業論的前提から、一見すると単なるやりがい搾取に見える労働のありようを、当事者たちの意識や規範、労働に関与させ続ける仕掛けの観点から分析したのが本書です。
正直、いわゆる定型に慣れ親しんでいた身からすると、上記の問題設定自体が大変に面白く、啓発的でした。
加えて本書は、英語圏で厚みを増しつつあるメディア産業論やプロダクション・スタディーズの日本的な展開としても高く評価されると思います。近年のメディア産業論では、「産業を支える技術のデジタル化」と「デジタル技術の導入プロセス」を分けた上で、前者から技術決定論的に影響関係を導き出すのではなく、後者を丹念に記述していく論考が増えています。本書でも、アニメ制作現場にデジタル化が導入されるプロセスが慎重に記述されていて(アニメーターのなかでも、デジタル化を取り入れる人とそうでない人がいて、それぞれ合理性がある)、お手本のような論理展開となっています。
プロダクション・スタディーズにおいては、いわゆる「作者」と形容されるような人々ではなく、多様な職能につく人々が制作を支えているという前提から、不可視化されてきた労働に焦点を当てる必要性が議論されています。制作進行とアニメーターの関係を論じた章は、これまで低く見積もられてきた労働が、実はアニメ産業を支える鍵となっていることを明らかにしている点で、アニメ産業に対する政策提言の可能性も含めて、大変有意義なものとなっています。
業界関係者からメディア研究に関心を持つ人まで、幅広い人におすすめできます。
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産業変動の労働社会学――アニメーターの経験史 単行本 – 2022/1/30
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フリーランスであるアニメーターは、いかにして変わり続ける産業の中で仕事を続けることが可能になっているのか?
その条件を再考することでフリーランスと就業継続の問題を複合的に捉え、現代の労働を見通す視座を提示する。
アニメ産業は受注産業であり、その不安定な構造の中でも、長らく常時の生産ラインを抱えることなくフリーランスを中心として労働力を満たしてきた。だが、アニメ産業は同時に熟練した労働者が必要な労働集約的な産業でもある。そうした産業が継続されるには、労働者が長期にわたって「働き続けたい」と思う必要がある。一見すると不安定な状況下で就業継続しているアニメーターの「当事者の論理」に注目することで、フリーランスのキャリアを社会学的に捉える意義と可能性を提示する。
目次
序 章
アニメ産業における変動と「生活者」としてのアニメーター
──産業変動のなかのフリーランサー──
1 アニメーターの労働問題
2 フリーランサーとしてのアニメーター
3 文化産業としてのアニメ産業とネットワーク
4 産業変動におけるアニメーター達の対処とキャリア形成
5 本書で用いる調査について
6 本書の構成
第I部
理論・方法編
第1章
アニメ産業の概要
──既存調査から見る労働現場──
1 制作分数(放映分数)の推移
2 アニメ産業のビジネスモデル
3 商業アニメ制作の生産工程
4 アニメーターの労働条件
第2章
アニメ産業の変容史
──「ポスト・フォーディズム」化するアニメ産業──
1 「アニメ」の歴史とアニメーター
2 産業としてのアニメの成立要件
3 テレビアニメというモデルの確立と東映動画
4 ファン集団の浮上がもたらす変容
4-1 ファン集団とアニメ研究
4-2 アニメブーム期におけるファンと新たな市場
5 現代におけるアニメ産業の変容
第3章
文化産業・コンテンツ産業におけるアニメーター
──ネットワーク型組織のなかで働き続ける労働者──
1 コンテンツ産業の特徴
2 ポスト・フォーディズムと文化産業
3 アニメ産業の特殊性
4 ネットワーク型組織とそこでの労働問題
5 評判に基づく同業者評価
第4章
フリーランサーの経験史
──産業変動におけるキャリアの社会学的記述──
1 自営セクターの選択とネットワーク
2 産業変動のもとでのキャリアの記述
3 産業変動の経験史
4 キャリア継続における「同意」の問題と経験史
第II部
1980年代の産業変動と経験史
第5章
多様な表現を可能にする制作者の労働規範の変容
──アニメブームにおける「同世代ネットワーク」の形成過程──
1 市場変動の中での労働規範の変容
1-1 アニメブームという市場変動
1-2 制作者と消費者の連関
2 アニメーターの職務概要
3 雑誌からみる労働過程
3-1 分析枠組みとしての労働過程
3-2 雑誌『アニメージュ』の本章の分析上の位置づけ
4 アニメブーム期の労働を読み解く視点
4-1 アニメブームに伴う労働力不足
4-2 アニメ制作者における実力主義
5 制作者の労働規範の変容
5-1 裁量の制約の進行
5-2 制約のもとでの「職人」的な表現
5-3 同世代ネットワークに基づくフリーランス的な働き方
6 労働規範の変容と「同世代ネットワーク」
第6章
アニメ制作者にとって「実力」とは何か
──「浮動する規範」と準拠集団──
1 インフォーマルなOJTに基づく技能形成の可能性
1-1 OJTを通した技能形成に対する懐疑
1-2 「浮動する規範」と技能形成
2 アニメ産業における分業と組織編成の多様性
2-1 『この人に話を聞きたい』── 1990年代に台頭した制作者の語り
2-2 アニメ産業の特徴
2-3 アニメ産業をめぐる構造的条件
3 監督へのトラックからみるアニメ制作者の規範
3-1 制作進行・撮影出身者の規範
3-2 アニメーターから監督・演出への移行
4 アニメーターにおける「実力」
4-1 作家性の重視
4-2 他者との差異化を通したスキルの理解
4-3 表現を通した現場のマネジメント
5 関係知的なスキルとキャリア形成
第7章
フリーランスとして「キャリア」を積む
──アニメーターの専門性と二つの職業観──
1 アニメブームと揺れ動く専門性
2 フリーランスのキャリアと語り
2-1 フリーランスとしてのキャリア
2-2 「語り」としてのキャリアと職業観
2-3 キャリアの「語り」と経験史
3 アニメーターの職務に関する諸前提
4 ベテランアニメーターの職業観の複層性
5 変動期以前/以後の職業観
6 二つの職業観──絵描きと原画マン
6-1 キャリアの安定性
6-2 誰を意識していたのか
6-3 絵描き/原画マンとしての職業観
7 二つのキャリアと職業観
8 揺れ動く専門性とキャリア
第III部
2000年代以降の変化と産業の維持
第8章
デジタル化の経験とマネジメント
──アニメ産業における「表現」と「管理」の関係に着目して──
1 アニメ産業におけるマネジメントとデジタル化
1-1 アニメ産業におけるデジタル化
1-2 技術革新における「表現」と「管理」
2 マネジャーとしての制作進行
2-1 アニメ産業におけるデジタル化と制作者
2-2 マネジャー研究と制作進行の特徴
3 制作進行の職務の特徴とデータ
3-1 アニメーターと制作進行の職務
3-2 『経産省報告書』とその位置づけ
4 制作進行はいかなるマネジメントを行っているのか
4-1 コストの効率化による制作進行の業務変容
4-2 制作進行によるマネジメントの専門性
4-3 制作進行とアニメーターの関わり
5 「管理」の変容を可能なものとする論理
5-1 「管理」の効率化を可能にする技術
5-2 「表現」を変えることと「管理」を変えること
5-3 「表現」の変容と「管理」の変容
6 「管理」領域の縮減と「表現」への影響
第9章
ベテランアニメーターの技術への理解と「キャリア」
──熟練・準拠集団・産業変動──
1 アニメ産業における技術変容とその経験
2 アニメ産業の技術導入とキャリア
2-1 クリエイティブ産業におけるアニメ産業の特徴
2-2 アニメ産業における技術導入
2-3 労働社会学における技術導入と熟練
3 技能と組織横断性に関する類型
4 組織横断性が低いアニメーターの技術への語り
5 Aの事例──世代への準拠と技能の位置づけ直し
5-1 Aの職業生活上の転機の概要
5-2 業界におけるAの位置
5-3 「リアル系」表現の追求とデジタル化への理解
6 Eの事例──同じ技能を持つ集団への準拠と業界への懸念
6-1 Eの職業生活上の転機の概要
6-2 業界におけるEの立ち位置
6-3 デジタル化への多層的な理解
7 キャリアがもたらすデジタル化の経験と対処
8 産業変動と準拠集団
第10章
アニメ産業における労働者の定着志向とその構造的条件
──ネットワーク型組織におけるインフォーマルなコミュニティに着目して──
1 アニメーターとして働き続けることの「組織」的条件
1-1 アニメ産業における制作者の定着と同業者評価
1-2 能力評価とネットワーク型組織
2 フリーランスとして働く構造的条件
2-1 フリーランサーのネットワーク
2-2 インフォーマルなコミュニティと構造的変容
3 アニメーターの就労条件とその意味付け
3-1 生産工程の変容
3-2 産業変動の中での若手とベテラン
4 アニメーターにおけるコミュニティと能力評価
4-1 アニメーターの仕事におけるネットワーク型組織的特徴
4-2 インフォーマルなコミュニティに基づく能力評価
5 能力評価の不透明化を帰結する生産工程上の構造的条件の変化
5-1 産業への定着志向と若手の評価への不安
5-2 作画部門内の分業と責任の曖昧化
5-3 放映期間の短期化とコミュニケーション機会の減少
6 若手の定着志向を支える構造的条件
終 章
アニメーターとして働き続けること
──フリーランスとしての「キャリア」を考えるために──
1 本書の要約
2 アニメ研究における意義
3 産業変動の経験史
4 コンテンツ産業・フリーランス研究における意義
- 本の長さ230ページ
- 言語日本語
- 出版社晃洋書房
- 発売日2022/1/30
- 寸法22 x 15 x 3 cm
- ISBN-104771035555
- ISBN-13978-4771035553
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商品の説明
著者について
永田 大輔(ながた だいすけ)
1985年生まれ.明星大学・二松学舎大学・日本大学・日本体育大学等非常勤講師.専門は文化社会学・メディア史・映像文化論.編著に『アニメの社会学──アニメファンとアニメ制作者たちの文化産業論』(ナカニシヤ出版・松永との共編).論文に「コンテンツ消費における「オタク文化の独自性」の形成過程」(『ソシオロジ』59巻3号)・「ビデオをめぐるメディア経験の多層性──「コレクション」とオタクのカテゴリー運用をめぐって」(『ソシオロゴス』42号)「ビデオ受容空間の経験史──「趣味の地理学」と1980年代のアニメファンの経験の関係から」(『マス・コミュニケーション研究』99号)など.
松永 伸太朗(まつなが しんたろう)
1990年生まれ.長野大学企業情報学部准教授.専門は労働社会学・ワークプレイス研究.主著に『アニメーターの社会学:職業規範と労働問題』(2017年,三重大学出版会),『アニメーターはどう働いているのか:集まって働くフリーランサーたちの労働社会学』(2020年,ナカニシヤ出版,第43 回労働関係図書優秀賞受賞作).
1985年生まれ.明星大学・二松学舎大学・日本大学・日本体育大学等非常勤講師.専門は文化社会学・メディア史・映像文化論.編著に『アニメの社会学──アニメファンとアニメ制作者たちの文化産業論』(ナカニシヤ出版・松永との共編).論文に「コンテンツ消費における「オタク文化の独自性」の形成過程」(『ソシオロジ』59巻3号)・「ビデオをめぐるメディア経験の多層性──「コレクション」とオタクのカテゴリー運用をめぐって」(『ソシオロゴス』42号)「ビデオ受容空間の経験史──「趣味の地理学」と1980年代のアニメファンの経験の関係から」(『マス・コミュニケーション研究』99号)など.
松永 伸太朗(まつなが しんたろう)
1990年生まれ.長野大学企業情報学部准教授.専門は労働社会学・ワークプレイス研究.主著に『アニメーターの社会学:職業規範と労働問題』(2017年,三重大学出版会),『アニメーターはどう働いているのか:集まって働くフリーランサーたちの労働社会学』(2020年,ナカニシヤ出版,第43 回労働関係図書優秀賞受賞作).
登録情報
- 出版社 : 晃洋書房 (2022/1/30)
- 発売日 : 2022/1/30
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 230ページ
- ISBN-10 : 4771035555
- ISBN-13 : 978-4771035553
- 寸法 : 22 x 15 x 3 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 227,145位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 318位労働問題社会学
- - 1,256位漫画・アニメ・BL(イラスト集・オフィシャルブック)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2022年2月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2022年12月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
プロジェクトごとの契約でポストフォーディズム的な産業構造で
ネットワーク組織的なフリーランス集団で低賃金でやりがい搾取的な
構造を有するアニメーターという産業であることが良く分かります。
ある種のプロジェクトごとのIT産業や芸能にも似た構造でもあると
感じました。ギルド的な職人魂的な所もあるとは思いますが、想定した
より量産的な体制であり、インタビューが物語っているかと思います。
もっとアニメーターは脚光を浴びても良いし処遇も改善されるべきで
あると思いました。サラリーマンとは対極の存在です。アニメーターの
エッセイとか読みたくなる昨今です。偉大なモノは名も無き者から
造られるというのは歴史的必然なのかなと思ったりしました。
ネットワーク組織的なフリーランス集団で低賃金でやりがい搾取的な
構造を有するアニメーターという産業であることが良く分かります。
ある種のプロジェクトごとのIT産業や芸能にも似た構造でもあると
感じました。ギルド的な職人魂的な所もあるとは思いますが、想定した
より量産的な体制であり、インタビューが物語っているかと思います。
もっとアニメーターは脚光を浴びても良いし処遇も改善されるべきで
あると思いました。サラリーマンとは対極の存在です。アニメーターの
エッセイとか読みたくなる昨今です。偉大なモノは名も無き者から
造られるというのは歴史的必然なのかなと思ったりしました。