読んでいて驚いたことあった。それはは詳細な「訳者解説」がついていること。訳者解説から始めるというのは奇妙かもしれないが、「訳者解説」にこの本の読み方についての警句のようなものがあり、それは傾聴すべきものであった。
監訳者（受田宏之氏）は、２の穏健派の立場、戦略的な観点からみたラディカリズムの功罪の冒頭で、次のように述べる。「訳者は、多くの日本人に手にとってもらい、アグロエコロジーについて知ってもらうことを期待して、本書を日本語に訳した。だが、訳出の過程で、著者らのラディカリズムに納得できないと感じたことがあったのも事実である。p.148」。氏の納得できない点は以下のようなことであろう。
著者らはアグロエコロジー全体がラディカルな方向に進まなくてはならないと説き、多様な環境保全型農業の共存を認めない。工業的な農業の全否定。アグロエコロジーの生産効率の指標ではその優位性を示すのに十分ではない。市場経済への不信からアグロエコロジーの産物を売る工夫についての考察が不足していること。市場向け販売であっても自立の否定ではない。キューバの有機農業の急成長は外的要因が大きかったことなど。そして解説の最後で受田氏は次のようにまとめる。本書の価値は、その一語一句の妥当性にあるのではなく、現状とは違う見方や実践があることを読者に気付かせ、改善にむけての議論を喚起することにある。pp151-152。
この本に書かれていることを全面的に信じるな、批判的に読め、その上で「違った見方」が可能だというのならそれでもよかろう、といった警句である。この本の内容には一種の怖さがあり、訳者の責任として、警句をこめた解説を書かざるを得なかったと推察。そういう警句を踏まえて読むのがよい。
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