日本古代史では比較的若手?(1980年生まれだそうな)の研究者・十川氏による「律令初期の天皇の側近の役割とはなんぞや?」と言う一冊。
「側近」という分かりやすいような、しかし制度としてみれば曖昧で分かりにくい厄介な代物を扱った本です。
内容は下記の通り
・側近とは何か
・日本古代史における側近の可能性(平安初期の政局と側近たち、律令官僚制と側近の間)
・側近の手がかり-天皇周辺の事業から-(古代の都作り、都作りに動員される人々、造宮官司と官人たち)
・側近の具体像・内臣(内臣とその淵源、八世紀の天皇家産と藤原氏、仲麻呂と紫微中台)
・側近の諸相(称徳女帝の側近たち、側近になるメリット、ある側近の人生)
・内臣の変質と新しい側近の姿(新しい王統と側近の展開、平安時代への展開、側近から見た日本の古代国家)
この本の目的は「個別の政変・政局との関係を越えて、国家の中での側近を位置づける」(p.10)ことだったようなのですが、最初に書いたように「側近」というのが意外に曖昧な存在なので、非常に苦労されたように感じられました。
最初は御陵作りや都作りの幹部となった人物が特定氏族に偏っていることから、そちらの方向から「側近」を探そうとしたりされたようですが、結局は、奈良時代で「側近」と言えば頭に浮かぶ人が多数いるだろう「内臣」から迫っていかれることになります。…とはいっても、この「内臣」自体がまだその実態が確定したわけではなく、多数の論がある代物なのはみなさんご存じかと思います。十川氏は割とマイナー説?な鷺森浩幸氏の「内臣=天皇家の財産の管理にかかわっていた人」説を採用して、奈良時代に初めて臣下出身の皇后として藤原光明子が誕生し、彼女の事業に藤原房前が「内臣」として関わることで側近化し、また、その息子の永手も「侍従」として光明子の正倉院事業に関わるなど側近化したこと、後に「紫微内相」となった藤原仲麻呂も天皇家の財産の管理に関わっていたこと、彼らが律令官僚制から外れた立場で天皇家の財産を差配し、迅速に天皇の命を奉じて国家事業を行うことで「側近」となり得たという論を展開されています。実は私は鷺森説にはちょっと懐疑的だったんですが、こちらの本を読んで、「ああ、そういう考え方もありかも」と感じました。
その後、更に藤原氏から2人の内臣(藤原良継、魚名)が登場する物の、彼らは天皇家の財産に関わるよりは太政官の主導者としての役割を果たしていたこと、その代わりに?藤原百川、縄麻呂、是公が「側近」として以前の「内臣」の役割を果たしていたのではないかという推察は興味深く読みました。
そして、奈良時代末から平安時代初期にかけて官僚機構が大きく改革されたことで、本来天皇家が持っていた財産も国家が持っていた財産と一体化し、令外官である「内臣」が天皇家の財産に関わる必要が無くなり、平安時代以降は天皇の皇太子時代から着いていた臣下が「側近」化していったのではないかと考えられています。
「内臣」と「中衛大将」との関係を示唆されていたのも興味深かったです(が、紙面の関係か深いつっこみがなかったのが少し残念)。
「内臣」がもともとは阿倍氏と関係のある職種だったのではないかという指摘、藤原氏の直接のご先祖である中臣弥気が推古天皇の側近的立場にいたという話も面白く読みました。
上記で出した内臣連中のような有名どころばかりではなく、一見下っ端官人にしか見えない人が側近だったのではないかという話も登場し、興味深く読みました。
ちなみに表紙を飾っている写真は有名な正倉院文書の一つですが、ここに署名しているひとのうち、もう一人が「側近」として紹介されています(藤原仲麻呂、永手は上で書いたように紹介済)。詳しくは読んでのお楽しみですが、そのひとが失脚せずに生き延びたことを知って驚きました。
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天皇側近たちの奈良時代 (歴史文化ライブラリー 447) 単行本 – 2017/4/20
十川 陽一
(著)
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古代日本における天皇の側近とは、いかなる存在だったのか。都造りなど天皇周辺の事業から手がかりを探り、藤原・阿倍氏らが担った内臣の職の起源と展開を軸に、聖武天皇・光明皇后を中心とした人間関係などを読み解きながら側近の具体像に迫る。天皇家と律令制の構造の中で側近たちが果たした役割を位置づけ、彼らを通して古代国家像を描く。
- 本の長さ192ページ
- 言語日本語
- 出版社吉川弘文館
- 発売日2017/4/20
- ISBN-104642058478
- ISBN-13978-4642058476
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商品の説明
著者について
1980年千葉県に生まれる。2003年慶應義塾大学文学部史学科日本史学専攻卒業。2009年慶應義塾大学大学院文学研究科史学専攻日本史学分野単位取得退学。現在日本学術振興会特別研究員(PD)博士(史学) ※2012年12月現在 【主な編著書】「日唐における「散位」と「散官」」(『東方学』121、2011年)、「百済大寺造営の体制とその特質」(『古代文化』64―2、2012年)、「大宝令制下の外散位について」(『ヒストリア』234、2012年)
登録情報
- 出版社 : 吉川弘文館 (2017/4/20)
- 発売日 : 2017/4/20
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 192ページ
- ISBN-10 : 4642058478
- ISBN-13 : 978-4642058476
- Amazon 売れ筋ランキング: - 83,218位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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