フェニモア・クーパー『モヒカン族の最後』（1826年）と言う小説がある。映画化もされている。
「インディアン」＝「高貴な野蛮人」パターンの歴史メロドラマなのだが、アメリカ人には珍しい「滅びの美学」で貫かれている。あの「敗者には何もやるな」のアメリカ人がである。
本書を読んで、「モヒカン族悲話」がアメリカ人のお涙をちょうだいできた理由が、何となく分かった。
「インディアン」は、ただ追い払われたのではない。ただのおジャマ虫ではない。アメリカ建国神話に、無くてはならないカタキ役だったのだ。
もしもバビロン帝国が古代イスラエル人を虐（しいた）げなかったら、救世主（メシア）信仰は芽生えず、旧約聖書の世界観も成立しなかったろう。
もしもカルタゴとの長年の抗争に勝利しなかったら、ローマ帝国の建国神話は気の抜けたサイダーみたいに成っていただろう。
アメリカ人にも「あらかじめ敗北を運命づけられた」お手頃なカタキ役が必要だったのだ。
このためアメリカ人と「インディアン」との交渉史は、「インディアン」の事をエレベーターみたいに持ち上げたり、落としたりである。要は、都合良く利用してきたのだ。
別に尊敬しているワケでもないくせに、「インディアン」由来の地名や商標がゴマンとあるのも、そのせいだ。「インディアン」から、「実」だけでなく「名」も奪ったのである。
共産主義者をUn America（非国民）扱いして、問答無用でツブしたのとは、似ているようだが違う。
なぜか、映画「ゴッド・ファーザー」を思い出した。ずっと非白人扱いされてきたイタリア系アメリカ人が、時代の風に乗って、エスタブリッシュメントに食い込んで行く話である。
「インディアン」はアメリカの周縁部に追いやられてしまったが、じゃあ、誰がアメリカの中心部にいるのか？
アメリカ合衆国の歴代大統領には、既にアイリッシュが3人、カトリックが2人、非白人も1人いる。やはり、私の理解が及ばない国ではある。
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