著者のカウリーはアメリカの詩人で批評家ですが、邦訳では『八十路から眺めれば』があるくらいでそれほど知られている人ではありません。
本書はカウリーの高校生時代から30代前半までの自伝的エッセイです。1960年に『亡命者帰る』という題で抄訳が出版されていますが、本書は全訳。表題である「ロスト・ジェネレーション」という言葉は使い古されて、もとの意味がわからなくなっていますが、カウリーやヘミングウェイのように第一次世界大戦後からヨーロッパに住みはじめたアメリカ出身の芸術家や作家たちの呼び名でした。名付け親のガートルード・スタインと同じく、彼らのほとんどはパリで活動を始めます。
芸術家たちの略伝を中心とした文学史、文明批判が個人的回想に入りまじっているところ、ゲルツェンの『過去と思索』に似てますが、カウリーの自己分析にはさらに甘さがない感じ。同時代のジョイスやプルーストだけではなくドストエフスキーのような古い作家をとりあげて、彼がいかにロシア気質を世界文学のレベルまで育てあげたかを論じ、さらにアメリカ文学との比較を試みていたりします。私のような外国文学の愛好家にとって内容の密度、描写の鮮やかさともに十分でした。
巻末の索引・人名辞典を見れば、1920年代に青年期を過ごすロスト・ジェネレーションとはどれほど才能豊かな人がひしめきあっていたのか、考えこんでしまうのではないでしょうか。
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