文庫クセジュは私の好きな文庫の一つである。その簡潔にして、どこか合理主義的な構成は、フランスにおける文庫クセジュの立ち位置を示すものであるかも知れない。本書「コーラン−構造・教義・伝承」もそのような文庫クセジュの一冊である。
本書は主に、コーランの概説というよりも、コーランという書物を文献学的アプローチから見ようとするものである。具体的には、コーランは如何にして成立し、如何に伝わり、どのような内容を持つにいたったか、といういうような構成になっている。したがって、イスラーム教におけるコーランの教義的側面について、特に知りたいと思われている方にとっては、まったく記述が無いわけではないが、物足りなく感じることもあるかもしれない。
しかし、コーランというイスラーム教の聖典を文献学の視点から、検討していく過程は読んでいて非常に面白い。コーランを一つの書籍として扱い、その教義の解釈や形態の変遷を詳細に叙述する本書は、その内容的な充実のみならず、コーランに対する我々の認識を変化させるかもしれない。
本書を読み、コーランそのものやイスラーム教に関心を持たれた方には、岩波文庫から出ている井筒俊彦「コーラン 上・中・下」や中公文庫の井筒俊彦「イスラーム生誕」「イスラーム思想史」、牧野信也「ハディース 全６巻」もお勧めしたい。
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