良い点
・分量は初学者向け
・ほぼ全ての定理が証明付きである
・関数解析の和書としては珍しく線型作用素の成す半群の理論が書かれてある(偏微分方程式論(※1)で重要)
・有限次元空間と無限次元空間の共通点や相違点が明確であり詳しい
・和書には珍しくボホナー積分の詳しい解説もある
・具体例において関数の変数を関数空間の要素を表すx, y以外の文字にしている
・問題は理論的にも重要な物が多い
・ハーン-バナッハの定理の証明がわかりやすく, しかもその有用性があらゆる場面で身に染みてわかる
・連立一次方程式の解の存在定理を一般化した美しい「ブレッドホルムの交代定理」の証明がわかりやすい
・論理の流れにおける行間や誤植が非常に少ない
良くない点
・ハーン-バナッハの定理の証明に先立つ順序集合の説明が論理的におかしい(既習者は容易に訂正できる程度だが)
・本書に限らないが, 内積の連続性を暗黙の了解で用いている(※2)
・一様有界性定理において添え字集合が無限集合であるという仮定は不要である
・本書に限らないが, ノルム空間における三角不等式
| ||x||−||y|| |≦||x−y|| (※3)
を既知としている. しかし本質的に同じ不等式が序盤に定理の証明において現れているのみである(定理1.1)
・入門者向けの想定なのか, 閉作用素だが有界作用素ではない重要な例であるソボレフ空間における微分作用素が出てこない. ソボレフ空間における微分作用素の代わりにC^1[a, b]における微分作用素を挙げているがソボレフ空間も関数解析や偏微分方程式論では重要である(※4).
・これもそうなのか, 具体例が1変数関数に偏りがちである. 319ページ目と368ページ目に1つずつ偏微分方程式がある.
関数解析の入門書としては,
藤田-黒田-伊藤「
関数解析
」
黒田「
関数解析
」
岡本-中村「
関数解析
」
谷島「
新版 ルベーグ積分と関数解析
」
邦訳「
函数解析の基礎 上
」
(同)「
函数解析の基礎 下
」
をおすすめしたいが, 文庫本であり分量が多くない本書で入門事項を学ぶのも悪くはないだろう. 本書で扱われていない自己共役作用素のスペクトル分解は, 上から4冊が参考になる. ボホナー積分については「
新訂版 数理解析学概論
」も参考になる. ノルム空間の距離空間としての完備化がバナッハ空間になることの証明は宮島の「
関数解析
」あるいは「
関数解析の基礎 ∞次元の微積分
」が参考になる.
なお指数p=1の場合のp乗可積分数列空間(ℓ^1)は(ℓ)と(*), p=1の場合のp乗可積分関数空間L^1(a, b)はL(a, b)と略記されている.
半群理論におけるヒレ-吉田の定理が大好きな私としては, それが載っているだけで高く評価したくなる.「ヒレ-吉田の不等式」は美しい形で書いているのも非常にすばらしい.
(※3)
||x||≦||x−y||+||y||, かつ
||y||≦||y−x||+||x||=||x−y||+||x||
から従う.
(※2)
Hを内積空間, {x_n}⊂H, x_n→x∈H, {y_n}⊂H, y_n→y∈H, (・,・)をHの内積とする. 三角不等式とシュワルツの不等式と収束列の有界性より||y_n||≦Mとすると(或いは||y_n||→||y||を使うと)
|(x_n, y_n)−(x, y)|
=|(x_n − x, y_n)+(x, y_n − y)|
≦||x_n − x|| ||y_n||+||x|| ||y_n − y||
≦M||x_n − x||+||x|| ||y_n − y||
→0.
ゆえにlim_(n→∞)(x_n, y_n)=(x, y).
(※1), (※4)
ブログを参照されたい.
(*) p乗総和可能数列空間と言うかもしれないが, 特に広まった呼び方はないように思えるし, 数列の項の和は数え上げ測度による数列という関数のルベーグ積分ゆえ, このように書いた. 私はもっとこの観点が広まれば良いと思っている.
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関数解析 (ちくま学芸文庫) 文庫 – 2018/11/9
宮寺 功
(著)
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偏微分方程式論への応用をもつ関数解析。バナッハ空間論からベクトル値関数、半群の話題まで、その基礎理論を過不足なく丁寧に解説。解説 新井仁之
- 本の長さ384ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2018/11/9
- 寸法10.8 x 1.6 x 14.9 cm
- ISBN-104480098895
- ISBN-13978-4480098894
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商品の説明
著者について
1925-2017年。東京生まれ。東北大学理学部数学科卒業。東京都立大学理学部助手、早稲田大学理工学部助教授、同大学教育学部助教授等を経て同大学教育学部教授。著書に『線形作用素入門』(槇書店)、『非線形半群』(紀伊國屋書店)などがある。
登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2018/11/9)
- 発売日 : 2018/11/9
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 384ページ
- ISBN-10 : 4480098895
- ISBN-13 : 978-4480098894
- 寸法 : 10.8 x 1.6 x 14.9 cm
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著者について
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イメージ付きのレビュー
5 星
ボホナー積分と線型作用素の成す半群が書かれた貴重な本
良い点・分量は初学者向け・ほぼ全ての定理が証明付きである・関数解析の和書としては珍しく線型作用素の成す半群の理論が書かれてある(偏微分方程式論(※1)で重要)・有限次元空間と無限次元空間の共通点や相違点が明確であり詳しい・和書には珍しくボホナー積分の詳しい解説もある・具体例において関数の変数を関数空間の要素を表すx, y以外の文字にしている・問題は理論的にも重要な物が多い・ハーン-バナッハの定理の証明がわかりやすく, しかもその有用性があらゆる場面で身に染みてわかる・連立一次方程式の解の存在定理を一般化した美しい「ブレッドホルムの交代定理」の証明がわかりやすい・論理の流れにおける行間や誤植が非常に少ない良くない点・ハーン-バナッハの定理の証明に先立つ順序集合の説明が論理的におかしい(既習者は容易に訂正できる程度だが)・本書に限らないが, 内積の連続性を暗黙の了解で用いている(※2)・一様有界性定理において添え字集合が無限集合であるという仮定は不要である・本書に限らないが, ノルム空間における三角不等式 | ||x||−||y|| |≦||x−y|| (※3)を既知としている. しかし本質的に同じ不等式が序盤に定理の証明において現れているのみである(定理1.1)・入門者向けの想定なのか, 閉作用素だが有界作用素ではない重要な例であるソボレフ空間における微分作用素が出てこない. ソボレフ空間における微分作用素の代わりにC^1[a, b]における微分作用素を挙げているがソボレフ空間も関数解析や偏微分方程式論では重要である(※4).・これもそうなのか, 具体例が1変数関数に偏りがちである. 319ページ目と368ページ目に1つずつ偏微分方程式がある.関数解析の入門書としては,藤田-黒田-伊藤「関数解析」黒田「関数解析」岡本-中村「関数解析」谷島「新版 ルベーグ積分と関数解析」邦訳「函数解析の基礎 上」(同)「函数解析の基礎 下」をおすすめしたいが, 文庫本であり分量が多くない本書で入門事項を学ぶのも悪くはないだろう. 本書で扱われていない自己共役作用素のスペクトル分解は, 上から4冊が参考になる. ボホナー積分については「新訂版 数理解析学概論」も参考になる. ノルム空間の距離空間としての完備化がバナッハ空間になることの証明は宮島の「関数解析」あるいは「関数解析の基礎 ∞次元の微積分」が参考になる.なお指数p=1の場合のp乗可積分数列空間(ℓ^1)は(ℓ)と(*), p=1の場合のp乗可積分関数空間L^1(a, b)はL(a, b)と略記されている.半群理論におけるヒレ-吉田の定理が大好きな私としては, それが載っているだけで高く評価したくなる.「ヒレ-吉田の不等式」は美しい形で書いているのも非常にすばらしい.(※3)||x||≦||x−y||+||y||, かつ||y||≦||y−x||+||x||=||x−y||+||x||から従う.(※2)Hを内積空間, {x_n}⊂H, x_n→x∈H, {y_n}⊂H, y_n→y∈H, (・,・)をHの内積とする. 三角不等式とシュワルツの不等式と収束列の有界性より||y_n||≦Mとすると(或いは||y_n||→||y||を使うと)|(x_n, y_n)−(x, y)|=|(x_n − x, y_n)+(x, y_n − y)|≦||x_n − x|| ||y_n||+||x|| ||y_n − y||≦M||x_n − x||+||x|| ||y_n − y||→0.ゆえにlim_(n→∞)(x_n, y_n)=(x, y).(※1), (※4)ブログを参照されたい.(*) p乗総和可能数列空間と言うかもしれないが, 特に広まった呼び方はないように思えるし, 数列の項の和は数え上げ測度による数列という関数のルベーグ積分ゆえ, このように書いた. 私はもっとこの観点が広まれば良いと思っている.
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2019年1月17日に日本でレビュー済み
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良い点
・分量は初学者向け
・ほぼ全ての定理が証明付きである
・関数解析の和書としては珍しく線型作用素の成す半群の理論が書かれてある(偏微分方程式論(※1)で重要)
・有限次元空間と無限次元空間の共通点や相違点が明確であり詳しい
・和書には珍しくボホナー積分の詳しい解説もある
・具体例において関数の変数を関数空間の要素を表すx, y以外の文字にしている
・問題は理論的にも重要な物が多い
・ハーン-バナッハの定理の証明がわかりやすく, しかもその有用性があらゆる場面で身に染みてわかる
・連立一次方程式の解の存在定理を一般化した美しい「ブレッドホルムの交代定理」の証明がわかりやすい
・論理の流れにおける行間や誤植が非常に少ない
良くない点
・ハーン-バナッハの定理の証明に先立つ順序集合の説明が論理的におかしい(既習者は容易に訂正できる程度だが)
・本書に限らないが, 内積の連続性を暗黙の了解で用いている(※2)
・一様有界性定理において添え字集合が無限集合であるという仮定は不要である
・本書に限らないが, ノルム空間における三角不等式
| ||x||−||y|| |≦||x−y|| (※3)
を既知としている. しかし本質的に同じ不等式が序盤に定理の証明において現れているのみである(定理1.1)
・入門者向けの想定なのか, 閉作用素だが有界作用素ではない重要な例であるソボレフ空間における微分作用素が出てこない. ソボレフ空間における微分作用素の代わりにC^1[a, b]における微分作用素を挙げているがソボレフ空間も関数解析や偏微分方程式論では重要である(※4).
・これもそうなのか, 具体例が1変数関数に偏りがちである. 319ページ目と368ページ目に1つずつ偏微分方程式がある.
関数解析の入門書としては,
藤田-黒田-伊藤「[[ASIN:4000078100 関数解析]]」
黒田「[[ASIN:4320011066 関数解析]]」
岡本-中村「[[ASIN:400730534X 関数解析]]」
谷島「[[ASIN:4254116063 新版 ルベーグ積分と関数解析]]」
邦訳「[[ASIN:4000051660 函数解析の基礎 上]]」
(同)「[[ASIN:4000051679 函数解析の基礎 下]]」
をおすすめしたいが, 文庫本であり分量が多くない本書で入門事項を学ぶのも悪くはないだろう. 本書で扱われていない自己共役作用素のスペクトル分解は, 上から4冊が参考になる. ボホナー積分については「[[ASIN:476870462X 新訂版 数理解析学概論]]」も参考になる. ノルム空間の距離空間としての完備化がバナッハ空間になることの証明は宮島の「[[ASIN:B005LFO2CG 関数解析]]」あるいは「[[ASIN:4753600998 関数解析の基礎 ∞次元の微積分]]」が参考になる.
なお指数p=1の場合のp乗可積分数列空間(ℓ^1)は(ℓ)と(*), p=1の場合のp乗可積分関数空間L^1(a, b)はL(a, b)と略記されている.
半群理論におけるヒレ-吉田の定理が大好きな私としては, それが載っているだけで高く評価したくなる.「ヒレ-吉田の不等式」は美しい形で書いているのも非常にすばらしい.
(※3)
||x||≦||x−y||+||y||, かつ
||y||≦||y−x||+||x||=||x−y||+||x||
から従う.
(※2)
Hを内積空間, {x_n}⊂H, x_n→x∈H, {y_n}⊂H, y_n→y∈H, (・,・)をHの内積とする. 三角不等式とシュワルツの不等式と収束列の有界性より||y_n||≦Mとすると(或いは||y_n||→||y||を使うと)
|(x_n, y_n)−(x, y)|
=|(x_n − x, y_n)+(x, y_n − y)|
≦||x_n − x|| ||y_n||+||x|| ||y_n − y||
≦M||x_n − x||+||x|| ||y_n − y||
→0.
ゆえにlim_(n→∞)(x_n, y_n)=(x, y).
(※1), (※4)
ブログを参照されたい.
(*) p乗総和可能数列空間と言うかもしれないが, 特に広まった呼び方はないように思えるし, 数列の項の和は数え上げ測度による数列という関数のルベーグ積分ゆえ, このように書いた. 私はもっとこの観点が広まれば良いと思っている.
・分量は初学者向け
・ほぼ全ての定理が証明付きである
・関数解析の和書としては珍しく線型作用素の成す半群の理論が書かれてある(偏微分方程式論(※1)で重要)
・有限次元空間と無限次元空間の共通点や相違点が明確であり詳しい
・和書には珍しくボホナー積分の詳しい解説もある
・具体例において関数の変数を関数空間の要素を表すx, y以外の文字にしている
・問題は理論的にも重要な物が多い
・ハーン-バナッハの定理の証明がわかりやすく, しかもその有用性があらゆる場面で身に染みてわかる
・連立一次方程式の解の存在定理を一般化した美しい「ブレッドホルムの交代定理」の証明がわかりやすい
・論理の流れにおける行間や誤植が非常に少ない
良くない点
・ハーン-バナッハの定理の証明に先立つ順序集合の説明が論理的におかしい(既習者は容易に訂正できる程度だが)
・本書に限らないが, 内積の連続性を暗黙の了解で用いている(※2)
・一様有界性定理において添え字集合が無限集合であるという仮定は不要である
・本書に限らないが, ノルム空間における三角不等式
| ||x||−||y|| |≦||x−y|| (※3)
を既知としている. しかし本質的に同じ不等式が序盤に定理の証明において現れているのみである(定理1.1)
・入門者向けの想定なのか, 閉作用素だが有界作用素ではない重要な例であるソボレフ空間における微分作用素が出てこない. ソボレフ空間における微分作用素の代わりにC^1[a, b]における微分作用素を挙げているがソボレフ空間も関数解析や偏微分方程式論では重要である(※4).
・これもそうなのか, 具体例が1変数関数に偏りがちである. 319ページ目と368ページ目に1つずつ偏微分方程式がある.
関数解析の入門書としては,
藤田-黒田-伊藤「[[ASIN:4000078100 関数解析]]」
黒田「[[ASIN:4320011066 関数解析]]」
岡本-中村「[[ASIN:400730534X 関数解析]]」
谷島「[[ASIN:4254116063 新版 ルベーグ積分と関数解析]]」
邦訳「[[ASIN:4000051660 函数解析の基礎 上]]」
(同)「[[ASIN:4000051679 函数解析の基礎 下]]」
をおすすめしたいが, 文庫本であり分量が多くない本書で入門事項を学ぶのも悪くはないだろう. 本書で扱われていない自己共役作用素のスペクトル分解は, 上から4冊が参考になる. ボホナー積分については「[[ASIN:476870462X 新訂版 数理解析学概論]]」も参考になる. ノルム空間の距離空間としての完備化がバナッハ空間になることの証明は宮島の「[[ASIN:B005LFO2CG 関数解析]]」あるいは「[[ASIN:4753600998 関数解析の基礎 ∞次元の微積分]]」が参考になる.
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半群理論におけるヒレ-吉田の定理が大好きな私としては, それが載っているだけで高く評価したくなる.「ヒレ-吉田の不等式」は美しい形で書いているのも非常にすばらしい.
(※3)
||x||≦||x−y||+||y||, かつ
||y||≦||y−x||+||x||=||x−y||+||x||
から従う.
(※2)
Hを内積空間, {x_n}⊂H, x_n→x∈H, {y_n}⊂H, y_n→y∈H, (・,・)をHの内積とする. 三角不等式とシュワルツの不等式と収束列の有界性より||y_n||≦Mとすると(或いは||y_n||→||y||を使うと)
|(x_n, y_n)−(x, y)|
=|(x_n − x, y_n)+(x, y_n − y)|
≦||x_n − x|| ||y_n||+||x|| ||y_n − y||
≦M||x_n − x||+||x|| ||y_n − y||
→0.
ゆえにlim_(n→∞)(x_n, y_n)=(x, y).
(※1), (※4)
ブログを参照されたい.
(*) p乗総和可能数列空間と言うかもしれないが, 特に広まった呼び方はないように思えるし, 数列の項の和は数え上げ測度による数列という関数のルベーグ積分ゆえ, このように書いた. 私はもっとこの観点が広まれば良いと思っている.
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2018年11月27日に日本でレビュー済み
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関数解析の基礎理論は1960年代には既に確立されており、吉田耕作先生や加藤敏夫先生のテキストが標準的な教科書として当時は良く読まれていたと聞く。1970年代に入ると、これらの大家のお弟子さんや影響を受けた研究者により、日本語の標準的な入門書がいくつか刊行された。藤田宏・黒田成俊・伊藤清三『関数解析』(1978、以下【FKI】と記す)や田辺広城『関数解析 上』(1978、以下【T】と記す)などがその典型をなす書であろうが、本書(初版、1972)もその一冊として挙げることができる。【FKI】の「あとがき」で書名を知っていたが、「ちくま学芸文庫」の一冊として復刊されたのを機に一読してみた。
読後の感想は「とても良い入門書である」と言うことに尽きる。その理由として、
- この分野の初学者が読者であることを考慮して、一般的な線形位相空間を取り上げることなく、バナッハ空間とその線形作用素に限定して議論を展開している
- 基礎理論を重視し関数解析の基本三原理である「一様有界性原理」、「開写像原理」(開写像定理と閉グラフ定理)、「拡張原理」(ハーン-バナッハの拡張定理)を前半の第3章までに解説し、それらが後半部において如何に重要な役割を果たしているか読者が明確に読み取れる叙述となっている
- コンパクト作用素(完全連続作用素)の「リース-シャウダー理論」と線形作用素の半群に関する「ヒレ-吉田理論」という美しい理論を詳述し、関数解析的な偏微分方程式論への学習に誘ってくれる。また、第5章でバナッハ空間値関数の積分である「ボッホナー積分」がコンパクトに解説されており非常に有用である
- 各章末の演習問題に本文の補足や展開に関するものが数多く収録され、全てに詳しい解答が付されている。ミスプリントが「皆無と言えるほど少ない」こと、
などを挙げたい。
本書を読んでみようと思われる方々を想定して、気づいたことを以下に少し述べてみたい。
本書ではルベーグ積分論の基礎知識(ルベーグの収束定理、ファトゥの補題、フビニの定理、ラドン-ニコディムの定理、など)が前提とされている。もちろん知っているほうが良いけれども、未習でもそれらの定理の意味と使い方を(ネットや他書で調べて)理解できれば、通読に支障はないと思う。
本書では概念(定義)や定理の具体例が少ないので、定評のある標準テキストである【FKI】や【T】などの該当箇所を併せて読まれると参考になり、理解が深まるのではないかと思う。
本書で最も印象に残ったのは、ヒレ-吉田理論を解説する第7章の最終第20節で述べられている、(C0)半群の生成作用素Aの特徴付けを与える定理20.2の素晴らしさである。特に、稠密な定義域を持つ閉線形作用素に関する発展方程式と同値な積分方程式の一意可解性が、Aが(C0)半群の生成作用素であることを意味する(同値である)という事実とその証明の美しさに感動を覚える【付記に関連する式を簡単に記述するので、参考にして頂きたい】。本書が契機となり、関数解析の高度な理論や関数解析的な偏微分方程式の理論、例えば生成作用素Aが時間に依存する発展方程式や非線形の発展方程式の理論、などをさらに勉強してみようと思われる方が増えることを期待したい。
【付記】 以下は経験者の方には良く知られた事かもしれないが、本書の定理20.2に関連する事柄として記しておきたい。
バナッハ空間Xの線形作用素をAとし、Xに値を持つ関数u(t)(t≧0)に関する微分方程式の初期値問題(CP): du(t)/dt = Au(t)、u(0) = xを解くことを考える。(CP)はそれを積分した積分方程式 u(t) = A ∫u(s)ds + x (積分区間は【0,t】)と同値である。Aを生成作用素とする(C0)半群T(t)が存在すると仮定すると、u(t) = T(t)x は(CP)の解である(定理17.3)。ここで注目したいのは、AのレゾルベントR(λ;A) = (λI-A)^-1を用いてR(λ;A)xがT(t)xのラプラス変換で表示される、即ち R(λ;A)x = ∫exp(-λt)T(t)xdt (積分区間は【0,∞))という事実である(定理17.7)。従って、T(t)xはラプラス逆変換により、T(t)x = (1/2πi) ∫exp(tλ) {(λI-A)^-1}xdλ (積分路はAのスペクトルσ(A)を全てその左側に見る虚軸に平行な直線)で求められそうなことが分かる【Dunford積分で表示される上式の右辺と複素解析のコーシーの積分公式との類似から、u(t) = T(t)x がexp(tA)xに相当することも推察できる】。
上述したことから以下のことが分かる。
(定義域がXで稠密な閉作用素)Aを生成作用素とする(C0)半群T(t)が存在する為の必要十分条件を述べる「ヒレ-吉田の定理」(定理19.2、系19.3)の重要性とその条件が上記の積分方程式を満たす強連続関数u(t):【0,∞)→Xの一意的な存在と同値であるという事実(定理20.2)の素晴らしさを理解して頂けると思う。
(C0)半群の生成作用素Aが有界作用素となるのは、(C0)u半群という限定された(C0)半群の場合だけである(定理19.1)。微分作用素のようにAが有界でない場合には、適当な有界作用素Aλ(λは下付き)で近似して半群を生成し、近似列の極限として目的の半群を生成するという手法の重要性が理解できる(例えば、(C0)半群の表現定理18.3において、λ→∞として近似する有界作用素はλAR(λ;A)であり、λR(λ;A)は恒等作用素Iに強収束することに注意したい)。Aが非有界作用素の場合でも、スペクトルが複素平面左側の扇形に限られるという解析的半群(放物型半群ともいう)では、T(t)がDunford積分で表示できることが知られている【例えば、【FKI】7.4節、【T】12-7節】。また、本書の第7章の問題で言及されている縮小半群の生成作用素となる消散作用素の場合でも、類似の結果が知られている。詳しくは、【FKI】7.5、7.6節などを参照されると良いと思う。
読後の感想は「とても良い入門書である」と言うことに尽きる。その理由として、
- この分野の初学者が読者であることを考慮して、一般的な線形位相空間を取り上げることなく、バナッハ空間とその線形作用素に限定して議論を展開している
- 基礎理論を重視し関数解析の基本三原理である「一様有界性原理」、「開写像原理」(開写像定理と閉グラフ定理)、「拡張原理」(ハーン-バナッハの拡張定理)を前半の第3章までに解説し、それらが後半部において如何に重要な役割を果たしているか読者が明確に読み取れる叙述となっている
- コンパクト作用素(完全連続作用素)の「リース-シャウダー理論」と線形作用素の半群に関する「ヒレ-吉田理論」という美しい理論を詳述し、関数解析的な偏微分方程式論への学習に誘ってくれる。また、第5章でバナッハ空間値関数の積分である「ボッホナー積分」がコンパクトに解説されており非常に有用である
- 各章末の演習問題に本文の補足や展開に関するものが数多く収録され、全てに詳しい解答が付されている。ミスプリントが「皆無と言えるほど少ない」こと、
などを挙げたい。
本書を読んでみようと思われる方々を想定して、気づいたことを以下に少し述べてみたい。
本書ではルベーグ積分論の基礎知識(ルベーグの収束定理、ファトゥの補題、フビニの定理、ラドン-ニコディムの定理、など)が前提とされている。もちろん知っているほうが良いけれども、未習でもそれらの定理の意味と使い方を(ネットや他書で調べて)理解できれば、通読に支障はないと思う。
本書では概念(定義)や定理の具体例が少ないので、定評のある標準テキストである【FKI】や【T】などの該当箇所を併せて読まれると参考になり、理解が深まるのではないかと思う。
本書で最も印象に残ったのは、ヒレ-吉田理論を解説する第7章の最終第20節で述べられている、(C0)半群の生成作用素Aの特徴付けを与える定理20.2の素晴らしさである。特に、稠密な定義域を持つ閉線形作用素に関する発展方程式と同値な積分方程式の一意可解性が、Aが(C0)半群の生成作用素であることを意味する(同値である)という事実とその証明の美しさに感動を覚える【付記に関連する式を簡単に記述するので、参考にして頂きたい】。本書が契機となり、関数解析の高度な理論や関数解析的な偏微分方程式の理論、例えば生成作用素Aが時間に依存する発展方程式や非線形の発展方程式の理論、などをさらに勉強してみようと思われる方が増えることを期待したい。
【付記】 以下は経験者の方には良く知られた事かもしれないが、本書の定理20.2に関連する事柄として記しておきたい。
バナッハ空間Xの線形作用素をAとし、Xに値を持つ関数u(t)(t≧0)に関する微分方程式の初期値問題(CP): du(t)/dt = Au(t)、u(0) = xを解くことを考える。(CP)はそれを積分した積分方程式 u(t) = A ∫u(s)ds + x (積分区間は【0,t】)と同値である。Aを生成作用素とする(C0)半群T(t)が存在すると仮定すると、u(t) = T(t)x は(CP)の解である(定理17.3)。ここで注目したいのは、AのレゾルベントR(λ;A) = (λI-A)^-1を用いてR(λ;A)xがT(t)xのラプラス変換で表示される、即ち R(λ;A)x = ∫exp(-λt)T(t)xdt (積分区間は【0,∞))という事実である(定理17.7)。従って、T(t)xはラプラス逆変換により、T(t)x = (1/2πi) ∫exp(tλ) {(λI-A)^-1}xdλ (積分路はAのスペクトルσ(A)を全てその左側に見る虚軸に平行な直線)で求められそうなことが分かる【Dunford積分で表示される上式の右辺と複素解析のコーシーの積分公式との類似から、u(t) = T(t)x がexp(tA)xに相当することも推察できる】。
上述したことから以下のことが分かる。
(定義域がXで稠密な閉作用素)Aを生成作用素とする(C0)半群T(t)が存在する為の必要十分条件を述べる「ヒレ-吉田の定理」(定理19.2、系19.3)の重要性とその条件が上記の積分方程式を満たす強連続関数u(t):【0,∞)→Xの一意的な存在と同値であるという事実(定理20.2)の素晴らしさを理解して頂けると思う。
(C0)半群の生成作用素Aが有界作用素となるのは、(C0)u半群という限定された(C0)半群の場合だけである(定理19.1)。微分作用素のようにAが有界でない場合には、適当な有界作用素Aλ(λは下付き)で近似して半群を生成し、近似列の極限として目的の半群を生成するという手法の重要性が理解できる(例えば、(C0)半群の表現定理18.3において、λ→∞として近似する有界作用素はλAR(λ;A)であり、λR(λ;A)は恒等作用素Iに強収束することに注意したい)。Aが非有界作用素の場合でも、スペクトルが複素平面左側の扇形に限られるという解析的半群(放物型半群ともいう)では、T(t)がDunford積分で表示できることが知られている【例えば、【FKI】7.4節、【T】12-7節】。また、本書の第7章の問題で言及されている縮小半群の生成作用素となる消散作用素の場合でも、類似の結果が知られている。詳しくは、【FKI】7.5、7.6節などを参照されると良いと思う。
2019年12月5日に日本でレビュー済み
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この本は,まさしく宮城野に咲いた仙台萩のようです。遠く淵源は源義経に仕える佐藤兄弟の『功良し』から来るものか?
実直かつ剛健な東北魂そもものの気がします。
ともかく、この本をポケットに忍ばせ、通勤電車に乗れるということは、日本人たるものの特権です。
関数解析の“精神”が学べます。F.Rieszの凄さを改めて認識しました。
P29のエンセンの不等式については、渡部隆一『不等式入門』の5章累乗和が参考になります。
実直かつ剛健な東北魂そもものの気がします。
ともかく、この本をポケットに忍ばせ、通勤電車に乗れるということは、日本人たるものの特権です。
関数解析の“精神”が学べます。F.Rieszの凄さを改めて認識しました。
P29のエンセンの不等式については、渡部隆一『不等式入門』の5章累乗和が参考になります。