著者の吉田耕作先生といえば「微分方程式の解法」や「積分方程式論」などの教科書でご存知の方も多いでしょう。
この本はかつてはハードカバー本で出版されていたものを文庫本で復刊したものです。
微積分学といえばニュートンがこの世に顕してから無限小量の扱いなどの批判を受けながらも、その発想は支持され多くの大数学者を魅了し豊かな結果をもたらしました。関数の概念が厳密に整備され、収束や極限の概念が精密化され基礎の部分が正当化されるのはようやく２０世紀になってからのことです。
この本ではニュートンの方法を、高校数学の延長の知識から出来る限り初等的な範囲の技法によって、微積分学が様々な力学的問題の解決や自然現象の記述の為にどのように発展してきたのかを追うように著者の工夫をこらした方法で伝えられます。
著者は関数解析・関数方程式論の大家であられたこともあり、微積分の入門書ではあまり扱われない微分方程式と力学についてのトピックが後半にあります。
また、ε-δ論法などは使わずにほぼ一貫して初等的な範囲で高校生や非数学科の学生が読み始められるように書かれており、それ以上進むと厳密な数学的な定義が必要である場合などは、読み手がはみ出さないように注意して補っておられます。
著者の狙いは、初等関数の微積分の範囲を具体的計算を通じて慣れてもらい、その先に力学や数値計算などの応用例を通じてその豊かな結果を感じ取ってもらいたいというものでしょう。
そのために初等関数、一変数の微積分に話題を絞り、読み手がズンズンと迷わずに進んでいけるように、そして出来るだけ”self-contained"な構成になるように仕上げておられます。このあたりも、著者はご自身の入門書についての考え方である「読者が読了できる本」ということを目指したのだろうとおもいます。
この本の最後に俣野博先生による解説文があり、内容の構成や簡単な注意が書かれております。
書店で見かけられたならば、先ずこの解説に目を通されてから内容を判断されるのが良いでしょう。
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