残酷画とは、残酷な行為、残酷な光景を描いた絵のこと。本書は、神話、聖書の残酷場面、殉教者の拷問処刑、魔女裁判、異端者、悪党の拷問処刑、政治家暗殺、食人肉、天災、戦争、戦下の大虐殺、ペスト、梅毒、残酷手術等、残酷画として考えられるテーマをほぼ網羅し,約120枚程度のカラー絵(他はモノクロ絵)を掲載した文庫オリジナル本で、テーマがテーマだけあって、「官能の美術史」以上の迫力である。
今や、文庫本であっても、カラー絵の少ないヌード絵画史は商品価値の低い時代になってしまったが、残酷画のカラー効果はヌード画以上である。さすがに、首と胴体の離れた絵や、内臓の飛び出た絵のカラーとなるとショッキングで、小心者としては、こういうのはモノクロでもよかった、と思わないこともない。しかし、まあ、本書は、網羅的で、よくまとまり、珍しいカラー絵がたくさんついて、解説も簡潔的確な、西洋残酷美術史の好著であると思う。
絵を見ての私的感想
本書の絵の中には「魔女のサバト」、「漁師とセイレーン」のような残酷さのない官能美だけの絵、「ルクレチア」「アヤックスとカッサンドラ」のように、残酷性があまり気にならない絵もあるが、多くの絵はなかなか厳しい。
面白いのは、建前としては、殉教聖女の拷問処刑の絵は、聖女賞賛の目的で作成され、異教徒魔女の拷問処刑の絵は、異教徒魔女非難の目的で作成されているはずなのだが、できた絵は、同様の官能味付け残酷絵であり、両者に大きな差はないことである。現代多数日本人がこれらを見て感じるのは、宗教感覚ではなく、視覚的快感(または不快感)と思う。そして、建前は別として、本音として、当時の絵の作成者が目指し、当時の鑑賞者が享受したのも、賞賛教訓ではなく、視覚的官能的快感ではなかったかと疑う。たとえば、151頁の聖バルバラの拷問の絵は、まさに、現代のエロ産業によく見られる構図である。
最後に
著者が自ら語る本書のテーマは、「はじめに」の10頁10行目から11頁6行目までに見事にまとめられている。しかし、それに続く11行ほどの文章での主張、「本書で描いたのは普通の人々を取り巻いていた負の側面」「圧倒的多数のはずの一般大衆による、延々と続く退屈な日々の連なりこそが人類の歴史」は、本書全体の内容とはあまり一致しないよう思うのだが・・・本書の絵を見て、退屈、ということはありえない。
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残酷美術史: 西洋世界の裏面をよみとく (ちくま学芸文庫 イ 55-2) 文庫 – 2014/12/10
池上 英洋
(著)
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- 本の長さ271ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2014/12/10
- 寸法10.6 x 1.4 x 14.9 cm
- ISBN-104480096523
- ISBN-13978-4480096524
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登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2014/12/10)
- 発売日 : 2014/12/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 271ページ
- ISBN-10 : 4480096523
- ISBN-13 : 978-4480096524
- 寸法 : 10.6 x 1.4 x 14.9 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 128,187位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 435位ちくま学芸文庫
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2014年12月13日に日本でレビュー済み
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2022年3月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
完全に個人の尺度ですが、全然グロくないし童話絵本感覚でした。
別に買わなくてよかったかもって感じ。
別に買わなくてよかったかもって感じ。
2016年5月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
また丁寧な梱包に大変感謝しています。商品の状態も大変良く満足しています。この度はどうもありがとうございました。
2024年2月2日に日本でレビュー済み
勉強にはなりましたが、著者の解説はそれほど高度とは思えませんでした。
「19世紀まで、画家個人の考えなどというものは画面には反映させることは出来ず、表現された何物にも意図があって描かれている」
この一文はとても披瀝されました。
しかし全体では、この本のテーマである残酷描写の背後にどのような西洋の世界観があり、キリスト教がこれらの絵画が書かれた時代にどのような影響を及ぼし、その結果、これらの絵にどのような形で発揮されたのか、という因果関係、起承転結が明確でないので、全体では殉教、拷問、処刑などの色々な形での「死にざま」をテーマごとに並べた西洋絵画における死体のカタログ集、というまとまりのない傾向は否めません。
といって、死や残酷のなかにある官能美やタナトスを指摘すると言う訳でもなく、何百枚も絵を集めれば全体のレベルは次第に低下していくのは世の常で、これは絵画において残酷をいかに描写してきたかの解説がテーマですので、美的体験はそんなにないのは仕方ないですが、結果的には美術書でもなければ西洋文化の解説としても尖ったものではないという、突出した個性は感じられない本でした。
この本そのものはマニアックとはいえ、西洋文化への入門編的な位置づけになる著述なので、初心者向けのガイドブック、師表になる本だからこそ、それらの残酷さの背後にある西洋の精神といった総合的な所にも目配りを頂ければ、より高度な作品になったと残念です。
労作ですが、説明はイマイチ、一言で言えばオタク向けのカタログです。
「19世紀まで、画家個人の考えなどというものは画面には反映させることは出来ず、表現された何物にも意図があって描かれている」
この一文はとても披瀝されました。
しかし全体では、この本のテーマである残酷描写の背後にどのような西洋の世界観があり、キリスト教がこれらの絵画が書かれた時代にどのような影響を及ぼし、その結果、これらの絵にどのような形で発揮されたのか、という因果関係、起承転結が明確でないので、全体では殉教、拷問、処刑などの色々な形での「死にざま」をテーマごとに並べた西洋絵画における死体のカタログ集、というまとまりのない傾向は否めません。
といって、死や残酷のなかにある官能美やタナトスを指摘すると言う訳でもなく、何百枚も絵を集めれば全体のレベルは次第に低下していくのは世の常で、これは絵画において残酷をいかに描写してきたかの解説がテーマですので、美的体験はそんなにないのは仕方ないですが、結果的には美術書でもなければ西洋文化の解説としても尖ったものではないという、突出した個性は感じられない本でした。
この本そのものはマニアックとはいえ、西洋文化への入門編的な位置づけになる著述なので、初心者向けのガイドブック、師表になる本だからこそ、それらの残酷さの背後にある西洋の精神といった総合的な所にも目配りを頂ければ、より高度な作品になったと残念です。
労作ですが、説明はイマイチ、一言で言えばオタク向けのカタログです。
2015年6月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
カラーが多くて読みやすいです。
海外の美術展、絵画にはしばしば日本人の感覚からすると目を覆いたくなるような残酷な絵画があります。
この本はテーマごとに残酷な絵の持つメッセージや意図が歴史的背景とともに解説してあります。
海外の美術館には「聖人」「殉教」「ギリシャ神話」に基づく絵画が多くあるので(しかも残酷な)この本を
読んでおくと鑑賞も奥深くなるでしょう。
それにしても「美術解剖学」のジャンルにあるヴェネリーナ (小さなビーナス)蝋人形による人体解剖模型図は
リアルな上に美しすぎる。ヨーロッパでこれでもかという位、正確な解剖に基づいた医学が急速に発展した理由も
わかるような気がします。
海外の美術展、絵画にはしばしば日本人の感覚からすると目を覆いたくなるような残酷な絵画があります。
この本はテーマごとに残酷な絵の持つメッセージや意図が歴史的背景とともに解説してあります。
海外の美術館には「聖人」「殉教」「ギリシャ神話」に基づく絵画が多くあるので(しかも残酷な)この本を
読んでおくと鑑賞も奥深くなるでしょう。
それにしても「美術解剖学」のジャンルにあるヴェネリーナ (小さなビーナス)蝋人形による人体解剖模型図は
リアルな上に美しすぎる。ヨーロッパでこれでもかという位、正確な解剖に基づいた医学が急速に発展した理由も
わかるような気がします。
2015年2月8日に日本でレビュー済み
ちくま学芸文庫から同著者が出した『
官能美術史: ヌードが語る名画の謎
』の姉妹編ともいうべき書です。
神々同士が残虐な殺し合いを繰り広げたギリシア・ローマ神話の世界。
理不尽ともいうべき理由と手段で神が人間を滅ぼし続ける聖書の物語。
異教徒を容赦なく殺戮した宗教戦争の歴史。
善人も悪人も分け隔てすることなく、“公平に”襲いかかる疫病の残忍性――。
そういった人類史を彩ってきた無情な諸事を画面に落とし込んだ美術作品を多数取り上げていくという趣向の本です。
近代以前の絵画作品は、純粋に個人の趣味として創作されたものなどなく、したがってこうした残酷な作品には、誰かに何かを伝えようとした意図や必要性があったはずです。
神への畏怖の念、貞節や善行の奨励、死を意識した上での充実した生の促進、疫病に対する護符など、様々な理由から、人々はあえて残虐な図像(ずぞう)を愛でてきました。
掲載されている苛烈な内容の図版の連続に、目を覆いたくなることも一再ならずあります。魔女狩りによって絞首刑に処せられた人々の絵や、麻酔も施されることなくおこなわれた頭蓋穿孔手術の図などは、正視に堪えません。
しかし著者が巻頭で記すように、歴史を表から眺めるだけではほとんど知りえない、ごく普通のひとびとを取り巻いてきた負の側面が、こうした作品群によって明確に提示されていきます。そしてこうした作品を眺めることで、西洋美術史――というよりは西洋史をより深く理解する足掛かりになると著者は主張します。
「ごく少数の英雄的な物語ではない、圧倒的多数のはずの一般大衆による、延々と続く退屈な日々の連なりこそが人類の歴史なのだから。」(11頁)
通勤途上の読書には不向きかもしれませんが、人間の奥深さを覗くことのできる興味深い書であることは間違いありません。
*ヴィンチェンツォ・フェレールという聖人について、「聖地スペインではヴィセンテ・フェレル」(118頁)であると表記していますが、これは正しくありません。スペイン語で「v」で綴られる音は英語の/v/のように下唇を軽く噛んで発音するわけではありません。むしろ/b/の音だと考えてよいので、片仮名表記するならば「ビセンテ」のほうが原音に近いといえます。
神々同士が残虐な殺し合いを繰り広げたギリシア・ローマ神話の世界。
理不尽ともいうべき理由と手段で神が人間を滅ぼし続ける聖書の物語。
異教徒を容赦なく殺戮した宗教戦争の歴史。
善人も悪人も分け隔てすることなく、“公平に”襲いかかる疫病の残忍性――。
そういった人類史を彩ってきた無情な諸事を画面に落とし込んだ美術作品を多数取り上げていくという趣向の本です。
近代以前の絵画作品は、純粋に個人の趣味として創作されたものなどなく、したがってこうした残酷な作品には、誰かに何かを伝えようとした意図や必要性があったはずです。
神への畏怖の念、貞節や善行の奨励、死を意識した上での充実した生の促進、疫病に対する護符など、様々な理由から、人々はあえて残虐な図像(ずぞう)を愛でてきました。
掲載されている苛烈な内容の図版の連続に、目を覆いたくなることも一再ならずあります。魔女狩りによって絞首刑に処せられた人々の絵や、麻酔も施されることなくおこなわれた頭蓋穿孔手術の図などは、正視に堪えません。
しかし著者が巻頭で記すように、歴史を表から眺めるだけではほとんど知りえない、ごく普通のひとびとを取り巻いてきた負の側面が、こうした作品群によって明確に提示されていきます。そしてこうした作品を眺めることで、西洋美術史――というよりは西洋史をより深く理解する足掛かりになると著者は主張します。
「ごく少数の英雄的な物語ではない、圧倒的多数のはずの一般大衆による、延々と続く退屈な日々の連なりこそが人類の歴史なのだから。」(11頁)
通勤途上の読書には不向きかもしれませんが、人間の奥深さを覗くことのできる興味深い書であることは間違いありません。
*ヴィンチェンツォ・フェレールという聖人について、「聖地スペインではヴィセンテ・フェレル」(118頁)であると表記していますが、これは正しくありません。スペイン語で「v」で綴られる音は英語の/v/のように下唇を軽く噛んで発音するわけではありません。むしろ/b/の音だと考えてよいので、片仮名表記するならば「ビセンテ」のほうが原音に近いといえます。
2017年10月3日に日本でレビュー済み
美術を通して歴史を学びました。実に刺激的な本。
若桑みどり先生がご健在だった頃、ある絵画の解釈について外国の学者から「あなたの解釈は素晴らしい。でもそれを発表するのは危ない」旨のことを真顔で言われたことがあるというエピソードを披瀝されていましたが、この本の著者はそれ以上に勇気があると感じます。
『モチーフで読む〜』よりはるかに優れた本だと感じました。
ただ、『美少女美術史』でもそうですが、この本でもウラノスを去勢したクロノスを時の神としているのは誤解ではないでしょうか。時の神クロノスは別の神であると某無料百科事典サイト(評者はかなり寄付したので有料)で説明されているのですが。
若桑みどり先生がご健在だった頃、ある絵画の解釈について外国の学者から「あなたの解釈は素晴らしい。でもそれを発表するのは危ない」旨のことを真顔で言われたことがあるというエピソードを披瀝されていましたが、この本の著者はそれ以上に勇気があると感じます。
『モチーフで読む〜』よりはるかに優れた本だと感じました。
ただ、『美少女美術史』でもそうですが、この本でもウラノスを去勢したクロノスを時の神としているのは誤解ではないでしょうか。時の神クロノスは別の神であると某無料百科事典サイト(評者はかなり寄付したので有料)で説明されているのですが。
2018年4月7日に日本でレビュー済み
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マジ?と思うようなことが数多く記載されています。
読んでいて気持ち悪くなりました。
読んでいて気持ち悪くなりました。