…今日重要なほとんどすべてのことは、善いことも悪いことも、あのときに決まった…(P.14)
…長々とした歴史分析だけで満足することはできない。全体がまとまって、ある<時点>ある<日時>を構成するあらゆる出来事の詳細にまで入り込む必要がある。(P.13)
一四九二年の研究は明らかに近代の歴史的情報が欠落しているのだ。(P.419)
世界史と地理を混ぜて読んでいるようです。
世界地図が頭の中をくるくる回りながら読んでいましたが、スケールが大きすぎて、世界地図帳を引っ張り出したほどです。
ヨーロッパを中心に世界中の出来事が綴られる中で、歴史人物や地名といった固有名詞が立て続けに挙げられ、それが世界遺産となっているところが多いと気づいた時は、なぜ世界遺産が世界遺産となったのか、世界遺産の基準のようなものが見えてくる感じでした。
リレーのように世界各地の出来事が引き続いて淡々と語られていますが、ちょこっと挿入されるアタリ氏のつぶやきは面白いです。
アタリ氏は、1943年アルジェリア生まれのユダヤ系フランス人。
原書は、「1492 Jacques ATTALI」(Fayard 1991/1992)で、
「1492」とは、コロンブスが、西インド諸島に到達した年です。
1492年の500年後の1992年、コロンブスのアメリカ到達五百周年記念として、数多くの関連本が出版される中、批判的かつ挑戦的な内容として本書は出版されます。
本書は、「序」のあと、「第Ⅰ部」で1492年直前、「第Ⅱ部」で1492年1月から12月、「第Ⅲ部」で1492年直後、そして「結び」という構成になっています。
第Ⅰ部では、1492年直前までのヨーロッパを中心に、世界中を俯瞰するように各地での出来事を列挙しながら、商人、数学者、外交官、芸術家、探検家たちが、ヨーロッパ発展に貢献したこと、そして、アメリカ大陸到達は必然であったことを導きます。
探検家について語られるところで、182ページになってはじめてコロンブスが当事者として登場します。
航海の資金援助を求めるため、コロンブスは、ポルトガル、スペインへ、コロンブスの弟はイギリス、フランスへと向かうところで、第Ⅰ部は終わります。
第Ⅱ部は、1492年の1月から12月までの出来事が、年表のように綴られます。
コロンブスの出港が決まり、スペインのパロスから西への出港、航海中、西インド諸島上陸の様子、一方で、ヨーロッパ最後のイスラム王国が、カトリック両王(イザベル女王とフェルナンド2世夫婦)に、スペインのグラナダを明け渡したことでスペインの力が強くなると同時に始まったユダヤ人追放、かたやイタリアでローマ教皇の死、メディチの死がきっかけで動き出すフランスとナポリ、ローマ、イギリスの動向が同時進行で詳細に語られます。
「一四九二年にインノケンティウス八世、ロレンツォ・デ・メディチ、カジミエシュ四世、アリ・ベルが死ぬ。マクシミリアンがイル・モーロの娘と結婚し、そこでブルターニュをあきらめ、反ピエモンテ同盟を固める。スペインではアラゴンのフェルナンドがかろうじて襲撃を免れる。ヘンリ七世は大陸への野望を断念する。ブルターニュが決定的にフランスのものとなり、ブルゴーニュの夢は永久に消え去る。」(P.207)
第Ⅲ部では、コロンブスが西インド諸島発見を支援者のスペインではなく競争相手のポルトガルに先に報告したこと、新大陸発見でスペインとローマ、ポルトガルが反応し、アメリゴ・ヴェスプッチ、ヴァスコ・ダ・ガマ、エルナン・コンテスなどの航海者が次々に登場し、マヤ、アステカ、インカ各帝国をはじめ新大陸の征服と発見地の命名、植民地化、先住民虐殺について語られます。
コロンブスの西インド諸島再上陸と行き詰まりと死、マゼランの世界周航で、「発見の時代」が終わります。
航路が出来、貿易が盛んになる、経済発達で市民階級(ブルジョワジー)が台頭し、金が芸術に。宇宙や人体に目を向け、科学、数学、解剖学が進展。梅毒が出て、結婚観が変わる。追放されたユダヤ系から、モンテーニュやスピノザなど近代知識人が生まれる…といった流れの一方で、人民の多種多様化に伴う同化と排斥問題、ユートピアの具現化、歴史の捏造が続いている現状に警鐘を鳴らしています。
目次は次の通りです。
序
第Ⅰ部 ヨーロッパを捏造する
1. 生の勝利
生まれる/暮らす/愛する/教育する/治療する/死ぬ
2. 信仰の衰え
信じる/排斥する/追放する
3. 自由の目覚め
読む/考える/計算する
4. お金の支配
耕す/製造する/交換する/輸送する/取引する/支配する
5. 法律の揺籃期
君臨する/統治する
6. ルネサンスの誕生
創造する/祝う
7. 偶然のアメリカ、必然の東洋
敢行する/夢見る/試みる/一周する/成功する
第Ⅱ部 一四九二年
一月
二月
三月
四月
五月
六月
七月
八月
九月
十月
十一月
十二月
第Ⅲ部 歴史を捏造する
1. 所有の論理
痕跡を残す/命名する/植民地化する
2. 進歩の力
支払う/混ぜ合わせる/増大する
3. 市民階級の表情
神聖化しない/抑制する/表現する
4. 曖昧さの眩惑
純化する/疑う/改革する
5. ナショナリズムの大時計
争う/寄せ集める
結び
お礼の言葉
訳者あとがき
文庫版あとがき
人名索引・参考文献
プライム無料体験をお試しいただけます
プライム無料体験で、この注文から無料配送特典をご利用いただけます。
非会員 | プライム会員 | |
---|---|---|
通常配送 | ¥410 - ¥450* | 無料 |
お急ぎ便 | ¥510 - ¥550 | |
お届け日時指定便 | ¥510 - ¥650 |
*Amazon.co.jp発送商品の注文額 ¥3,500以上は非会員も無料
無料体験はいつでもキャンセルできます。30日のプライム無料体験をぜひお試しください。
¥1,650¥1,650 税込
発送元: Amazon.co.jp 販売者: Amazon.co.jp
¥1,650¥1,650 税込
発送元: Amazon.co.jp
販売者: Amazon.co.jp
¥468¥468 税込
配送料 ¥300 6月4日-6日にお届け
発送元: 赤福書店いまご注文は2日に発送いたします 販売者: 赤福書店いまご注文は2日に発送いたします
¥468¥468 税込
配送料 ¥300 6月4日-6日にお届け
発送元: 赤福書店いまご注文は2日に発送いたします
販売者: 赤福書店いまご注文は2日に発送いたします
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
1492西欧文明の世界支配 (ちくま学芸文庫 ア 31-1) 文庫 – 2009/12/9
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥1,650","priceAmount":1650.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"1,650","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"hhyrwFUZQ664JTFSIrXtb4eu5SZmBDD4iEkc7Z5Hb9sq8EtpOUtVXHFjEgH%2FCj5lUabJRrZsL1uTGEp6W0i%2BtRHJi4HOyP6YsPJH1aqPacJ62FHC3BwqDgwYQCeX5dQM","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥468","priceAmount":468.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"468","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"hhyrwFUZQ664JTFSIrXtb4eu5SZmBDD46h3UBnK%2F6aBcBc%2FLKvRU0PtvnM6Vf9%2BRqsSBJ11dxKQckldi4SSvYyXigk%2FZNsIxZk3JB7rZ6uwr4TvdbO9AovMiOeR8yO%2BlDC4%2BY8ArAx4Rs5N5YCu5KIoQdCythPhxaLM4Ty7Hn5QmT1o2aYf0eQ%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
- 本の長さ467ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2009/12/9
- ISBN-104480092587
- ISBN-13978-4480092588
よく一緒に購入されている商品
対象商品: 1492西欧文明の世界支配 (ちくま学芸文庫 ア 31-1)
¥1,650¥1,650
最短で6月3日 月曜日のお届け予定です
残り4点(入荷予定あり)
¥1,100¥1,100
最短で6月3日 月曜日のお届け予定です
残り8点(入荷予定あり)
¥2,300¥2,300
最短で6月3日 月曜日のお届け予定です
残り5点 ご注文はお早めに
総額:
当社の価格を見るには、これら商品をカートに追加してください。
ポイントの合計:
pt
もう一度お試しください
追加されました
一緒に購入する商品を選択してください。
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2009/12/9)
- 発売日 : 2009/12/9
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 467ページ
- ISBN-10 : 4480092587
- ISBN-13 : 978-4480092588
- Amazon 売れ筋ランキング: - 70,306位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
1943年アルジェリア生まれ。パリ理工科学校を卒業、1981年大統領特別顧問、1991年欧州復興開発銀行初代総裁。1998年に発展途上国支援のNGOを創設(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 1492 西欧文明の世界支配 (ISBN-13: 978-4480092588 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2017年12月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2013年8月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書は3部から成り、コロンブスが「新大陸」に到達した1492を里程標として、1492以前、1492年、1492年以降のそれぞれについて、西欧文明が如何に世界支配の歴史的構造を捏造して行ったかと云うことの詳細な分析が行われる。厖大で幅広い分野に亘る事実の集積を背景に、随所に啓発的な見識が鏤められ、西欧文明を相対化する為の視点を獲得するにはどうしたら良いのかと云うヒントに満ちている。気の利いた舌鋒の鋭さも大したものだが、とにかくスケールが大きく、博覧強記の筆者の面目躍如と云ったところである。
但し読み易いとは言えない。例えば『銃・病原菌・鉄』の様な本が「何故そうなったか」を解き明かしているとすれば、本書は「如何にそうなったか」の視点に立って記述が為されている。目眩のする程大量の事実が列挙されるのだが、然乍ら短い警句を繋げて行った様に、個々のトピックス同士の関連性が必ずしも明らかではなく、大きな流れを読み込む為には、読者の方で創造力を駆使して行間を補完する作業が求められる。既存の歴史記述では無視されがちな細かい出来事を実に無造作に並べているので、本書を読んで統一されたヴィジョンを得る為には、無数の迷路の様なごちゃごちゃしたトリヴィアに頭から突っ込んで行く覚悟が必要になる。歴史の必然性を解き明かすと云う意味では「うんうん、ここはそうなんだよなぁ」と共感を覚えることは有ったとしても、読み終わっても「成る程、解った!」と云う感激には乏しい。西欧文明中心史観の批判と云う点では一貫している本ではあるが、「何故その様な史観が生まれたのか」と云う観点から答えを探している読者にとっては、特に目新しいことは無いかも知れない。読者によって評価の分かれる本だとは思う。
但し読み易いとは言えない。例えば『銃・病原菌・鉄』の様な本が「何故そうなったか」を解き明かしているとすれば、本書は「如何にそうなったか」の視点に立って記述が為されている。目眩のする程大量の事実が列挙されるのだが、然乍ら短い警句を繋げて行った様に、個々のトピックス同士の関連性が必ずしも明らかではなく、大きな流れを読み込む為には、読者の方で創造力を駆使して行間を補完する作業が求められる。既存の歴史記述では無視されがちな細かい出来事を実に無造作に並べているので、本書を読んで統一されたヴィジョンを得る為には、無数の迷路の様なごちゃごちゃしたトリヴィアに頭から突っ込んで行く覚悟が必要になる。歴史の必然性を解き明かすと云う意味では「うんうん、ここはそうなんだよなぁ」と共感を覚えることは有ったとしても、読み終わっても「成る程、解った!」と云う感激には乏しい。西欧文明中心史観の批判と云う点では一貫している本ではあるが、「何故その様な史観が生まれたのか」と云う観点から答えを探している読者にとっては、特に目新しいことは無いかも知れない。読者によって評価の分かれる本だとは思う。
2017年3月22日に日本でレビュー済み
コロンブスによるアメリカ到達の年である1492年前後の出来事から、ジャック・アタリ氏が「西欧文明の世界支配」について考察した本。近代ヨーロッパ史は数多くあるが、本書は、近代ヨーロッパ社会の成立に、商人が果たした役割について述べられているのが特徴だ。
近代から現代にいたる世界のあり方は、①世界が一つの巨大な市場となり、国(や地域)が、その分業体制に組み込まれていく、②ある国々は、“先進国”として工業製品を生産し、ほかの国々は、資源供給地とされたりプランテーションにされるなどの“後進国”とされる、③世界で取引される商品のうち、“付加価値が高く、広い地域に流通し得る商品(工業製品だけではなく、ソフトウェア系の商品も含む)”を生産できる国が、所得の高い国であり、それによって国際的な地位が定まってくる……というように、経済的なネットワークによって結びつけられた世界である。
では、このような“近代社会のしくみ”は、どのように成立したのか。アタリ氏は、1492以前の西洋史を、七つの項目(生活・カトリック教会の権力の衰え・学問・国家と王侯・芸術・航海技術の向上)から分析し、すでに近代の原型があったことを指摘している。
ヨーロッパは、カトリック教会の影響で「キリスト教国」という統一したイメージを持っていたが、競合する国家の「寄せ集め」であり、ローマ教皇も王侯も専制的な権力を振るいにくかったことから、“自由主義”の土壌があった。そして、ヨーロッパ産業の発達につれて、「スペインは牧畜国」、「イギリスは羊の国」、「ブルゴーニュ地方は風景全体が葡萄畑であり、アキテーヌ地方は大青であった」というように、ある程度の“分業化”が進行していた。そして、「大地主」たちの「大所有地」には、「スラブ人、タタール人、コーカサス人」や「アフリカ人」の“奴隷”がいた。
このようなヨーロッパに、「驚くべき知的変動」をもたらしたのは、1434年の「印刷術の出現」であった、とアタリ氏は述べる。社会に影響力を持つ知識階級が、聖職者から商人へとシフトしたのである。印刷術によって広められた学問的な成果を、“実業”として活用できるのは、商人だったからだ。「知識人である商人は書物や地図が読め、地理、気象学、宇宙形状誌、言語、数学を知らなければならない。冒険家である商人は不正行為をしたり、ごまかしたり、殺人を行うこともあえてしなければならない。支配者である商人は管理し、命令し、組織し、解雇し、自らの規則を押し付けなければならない。計算機である商人は資本を集め、それをさまざまの企業に投資し、貸付方法を考案し、利潤を配分し、為替レートを計算し、公証人の前で作成された契約書の内容に応じて、他の商人、職人、法律家、大諸侯、聖職者から集められた資本を運用しなくてはならない」。
そして、コロンブス(スペイン)のアメリカ大陸への到達により、ヨーロッパは資源供給地(金・銀)と、プランテーション(インディオ・アフリカ人奴隷を使った、サトウキビの栽培)を手に入れた。アメリカ大陸と印刷術が、「西欧文明の世界支配」を可能にしたのである。
しかし、アタリ氏は、「アメリカの金がなかったならば、スペインはもっと幸運に恵まれていたかもしれない」と述べる。「金がスペインの産物の競争力をだめにし、努力する意欲を失わせる」。「経済力は天然資源によるよりも、それがあろうと<なかろうと>、むしろ経済および変化に対応する能力による」のである。
アタリ氏は、「今日重要なほとんどすべてのことは、善いことも悪いことも、あのとき(1492年)に決まったということを人々に理解してもらいたい」と書いている。この本には、近代の功罪がさまざまに描かれているので、読む人によって、いろいろな教訓が導き出される歴史書であると思う。
近代から現代にいたる世界のあり方は、①世界が一つの巨大な市場となり、国(や地域)が、その分業体制に組み込まれていく、②ある国々は、“先進国”として工業製品を生産し、ほかの国々は、資源供給地とされたりプランテーションにされるなどの“後進国”とされる、③世界で取引される商品のうち、“付加価値が高く、広い地域に流通し得る商品(工業製品だけではなく、ソフトウェア系の商品も含む)”を生産できる国が、所得の高い国であり、それによって国際的な地位が定まってくる……というように、経済的なネットワークによって結びつけられた世界である。
では、このような“近代社会のしくみ”は、どのように成立したのか。アタリ氏は、1492以前の西洋史を、七つの項目(生活・カトリック教会の権力の衰え・学問・国家と王侯・芸術・航海技術の向上)から分析し、すでに近代の原型があったことを指摘している。
ヨーロッパは、カトリック教会の影響で「キリスト教国」という統一したイメージを持っていたが、競合する国家の「寄せ集め」であり、ローマ教皇も王侯も専制的な権力を振るいにくかったことから、“自由主義”の土壌があった。そして、ヨーロッパ産業の発達につれて、「スペインは牧畜国」、「イギリスは羊の国」、「ブルゴーニュ地方は風景全体が葡萄畑であり、アキテーヌ地方は大青であった」というように、ある程度の“分業化”が進行していた。そして、「大地主」たちの「大所有地」には、「スラブ人、タタール人、コーカサス人」や「アフリカ人」の“奴隷”がいた。
このようなヨーロッパに、「驚くべき知的変動」をもたらしたのは、1434年の「印刷術の出現」であった、とアタリ氏は述べる。社会に影響力を持つ知識階級が、聖職者から商人へとシフトしたのである。印刷術によって広められた学問的な成果を、“実業”として活用できるのは、商人だったからだ。「知識人である商人は書物や地図が読め、地理、気象学、宇宙形状誌、言語、数学を知らなければならない。冒険家である商人は不正行為をしたり、ごまかしたり、殺人を行うこともあえてしなければならない。支配者である商人は管理し、命令し、組織し、解雇し、自らの規則を押し付けなければならない。計算機である商人は資本を集め、それをさまざまの企業に投資し、貸付方法を考案し、利潤を配分し、為替レートを計算し、公証人の前で作成された契約書の内容に応じて、他の商人、職人、法律家、大諸侯、聖職者から集められた資本を運用しなくてはならない」。
そして、コロンブス(スペイン)のアメリカ大陸への到達により、ヨーロッパは資源供給地(金・銀)と、プランテーション(インディオ・アフリカ人奴隷を使った、サトウキビの栽培)を手に入れた。アメリカ大陸と印刷術が、「西欧文明の世界支配」を可能にしたのである。
しかし、アタリ氏は、「アメリカの金がなかったならば、スペインはもっと幸運に恵まれていたかもしれない」と述べる。「金がスペインの産物の競争力をだめにし、努力する意欲を失わせる」。「経済力は天然資源によるよりも、それがあろうと<なかろうと>、むしろ経済および変化に対応する能力による」のである。
アタリ氏は、「今日重要なほとんどすべてのことは、善いことも悪いことも、あのとき(1492年)に決まったということを人々に理解してもらいたい」と書いている。この本には、近代の功罪がさまざまに描かれているので、読む人によって、いろいろな教訓が導き出される歴史書であると思う。
2016年10月3日に日本でレビュー済み
1492年、コロンブスが新大陸を発見するまでは、キリスト教徒のヨーロッパ人、もっと言えば、白人の生存圏はごく限られた地域に密集し、彼らはひしめき合うように暮らしていた。それが、1492年を境にいかにひっくり返されてきたのか。本書には、その答えが書かれています。それは,現在の国際秩序の礎にもなっています。興味深い視点からの世界史検証本です。