著者の向谷地生良氏は、1955年生まれのソーシャルワーカーである。本書にも述懐しているように、向谷地氏は相当な型破りのソーシャルワーカーであり、またそうでなければ「べてるの家」のような発想は生まれなかったであろう。
「べてるの家」とは、1984年に設立された北海道浦河町にある精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点で、社会福祉法人浦河べてるの家の下に生活支援だけでなく、様々な福祉活動や経済活動を行っている。元々は1978年に、浦河赤十字病院の精神科を利用する統合失調症等をかかえた、当事者達による活動が端緒となっており、浦河教会の旧会堂で一緒に生活をしながら共に日高昆布の産地直送などの起業を通じた、社会進出を目指すということで誕生した(Wikipediaを参考にした)。本書の著者向谷地氏は、この「べてるの家」の創設時代からソーシャルワーカーとして関わっている。
1978年頃の日本の精神医療の現場は、向谷地氏が本書の冒頭で述懐しているように、「医学=囲学」「看護=管護」「福祉=服祉」、つまり入院患者は「囲い」込まれ、「管」理され、「服」従を強いられていた。北海道浦河町を含む日高地方はその典型だったという。日本全体としてみればおそらくこの実態は現在でもさほど変わっておらず、世界から50年遅れていると評される。実際、隔離や拘束といった人権侵害が横行し、精神病床の平均在院日数推移の国際比較では日本の在院日数が桁違いに長い。何十年も入院している患者さんが珍しくないのである。
これに対して、「べてるの家」で向谷地氏らが創出した方法は「当事者研究」と呼ばれるもので、精神障害の「妄想」「幻聴」「爆発」などに苦しむ当事者同士が集まり、自らの体験をユーモラスに語り合う中で試行錯誤手的に解決策を見出そうというものである。本書では「当事者研究」の多くの事例が生々しくユーモラスに語られている。決して安易なものではないが、上述した従来型の精神医療に比べて、開放的環境で自立にむけて踏み出せることは間違いない。「べてるの家」の活動は、このような遅れた日本の精神医療に風穴をあけるような画期的活動であり、多くの人々から注目されている。2015年に東京大学の先端科学技術研究センターに、当事者研究の講座(代表熊谷晋一郎准教授)が立ち上がり、研究所ができた。当事者研究が、一つの学問領域となったのである!
本書を読み、つくづく考えるのは、2016年7月26日未明に神奈川県相模原市の県立知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」にて発生した大量殺人事件(相模原事件)である。殺人などの罪で逮捕・起訴された植松聖被告は2020年3月に横浜地方裁判所における裁判員裁判で死刑判決を言い渡され、自ら控訴を取り下げたことで死刑が確定した。事件の全貌はまだ明らかではないが、植松被告がスタッフとして「津久井やまゆり園」に勤務していた頃に障害者の殺害を思い立ったことは間違いないようである。本件に関連した記事を参照すると、「津久井やまゆり園」は従来型の入居者支援業務を行っていた(もちろん関係者は懸命に努力されていたことと思う)。このような実態を見て植松被告は恐るべき殺意を抱いたのである。もしも「当事者研究」のような活動が行われていたら、植松被告の考え方も間違いなく違ってきたのではないだろうか。
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増補改訂 「べてるの家」から吹く風 (いのちのことば社) 単行本(ソフトカバー) – 2018/6/10
向谷地 生良
(著)
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購入オプションとあわせ買い
今日も、明日も、明後日も、順調に問題だらけ
精神障害と生きる新しい時代の生き方
初版から12年、増補改訂版
北海道浦河町にある「べてるの家」の黎明期の人々の物語。
「べてるの家」は1984年に発足した。精神障害をかかえる当事者による地域貢献、社会進出を旗印に「商売」として日高昆布の産地直送、紙おむつの宅配に挑戦。93年には、「べてるの家」のメンバーのほか、全国の出資者を得て有限会社福祉ショップべてるを設立。2002年には、全国ではじめて当事者が理事長・施設長に就任、社会福祉法人を設立。さらに小規模授産施設、グループホームを運営し、地域と一体となった事業を展開している。笑いあり涙ありのエピソード集。
増補改訂にあたり、バングラデシュの精神障害の方々のお宅への「突撃訪問記」も収録した。サイズ:四六判
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増補改訂にあたり、バングラデシュの精神障害の方々のお宅への「突撃訪問記」も収録した。サイズ:四六判
- 本の長さ224ページ
- 言語日本語
- 出版社いのちのことば社
- 発売日2018/6/10
- 寸法12.8 x 1.4 x 18.8 cm
- ISBN-104264039010
- ISBN-13978-4264039013
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登録情報
- 出版社 : いのちのことば社 (2018/6/10)
- 発売日 : 2018/6/10
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 224ページ
- ISBN-10 : 4264039010
- ISBN-13 : 978-4264039013
- 寸法 : 12.8 x 1.4 x 18.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 373,863位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 8,816位宗教 (本)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2020年9月6日に日本でレビュー済み
2022年12月3日に日本でレビュー済み
何かべてるの家を理想郷か桃源郷のように考えている患者や家族、福祉関係者がいるが、べてるの家は医療機関ではないので病気が回復するわけではなく、北海道浦河町という僻地に囲い込まれて暮らすだけである。それも24時間べてるの家に管理されながら。有名?な当事者研究も、その成果が具体的に示されていないし、それで病気自体が治ったという話しも聞かない。詰まる所、自分は退院後に地域で普通に暮らしたかっただけで、他の患者も同様だろう。身体疾患と違い精神疾患だけ、こんな閉鎖的な宗教的福祉施設で暮らすことが素晴らしいことにされるのか、さっぱり分らない。治る分まで病気を回復させて、地域生活支援を受けながら地元で暮らす。たぶん欧米の患者はそうやって暮らしているだろうし、べてるの家のやり方を標準化するべきではないと思う。べてるの家の家に関係する川村医師が、全国の優秀な精神科医より優れているとも思えないし。地域で普通に治療して普通に仕事して、普通に暮らそうよ。何も浦河町に行ったり、当事者研究をしなくてもさ。というのが自分の提案。本当に皆行きたいの、べてるの家に?