調和のとれた、理論(数式)的な美しさの際立つ電磁気学や量子力学、相対性理論などと比べると、(良くも悪くも)直感的・経験則的であることから、物理学において最も基本であるにも関わらず、他の物理分野との相性がいまいちよくない力学(一般力学、応用力学、工業力学、機械力学)の講義やテキスト等について、何らかの違和感を感じたことがある方も少なくないと思いますが(私もその一人)、そんな力学を、今一度見直してみて問題提起、新しい形を提案してみよう、という、きわめて学術的にも教育的にも意欲的な一冊であります。筆者は早ければ古典力学を概ね学び終わる学部2年次以降に読むのが望ましいと提唱していますが、現実的には大学院修士課程や高専専攻科の(古典・工業)力学特論みたいな科目の教科書として最適かと思います。
特に、ダランベールの定理の解釈に対する批判(こじつけ的に慣性抵抗を導入し、静力学の問題に帰着できる、という釈然としない説明に留まっている力学書がほとんど)、剛性(バネ定数)の逆数の弾性(本書では柔性)の概念を導入し、弾性を主役に置くことで、電磁気学の電圧と電流の関係のように、質量(従来の力学)と弾性(本書では柔性として定義)が調和のとれた関係性で結ばれる、従来の古典力学ではオマケ的に扱われがちであったエネルギーを主役に置く考え方が必要だ、という提案は目から鱗ともいえるでしょう。
では、このような古典力学に対する解釈が理論的に美しいだけ、というわけでは全くなく、電磁気学とのアナロジーをしやすい形にすることで、電気系技術者が学びやすい形の力学、機械系技術者が電磁気学を学びやすくするための力学の構成に有効ということに加え、機械・電磁気・熱・流体等の物理現象を統一・横断的に扱うことによるモデルベース設計・開発において、エネルギーが主役で対称性・調和の取れた理論体系が必須となってきます(詳細は
複合領域シミュレーションのための電気・機械系の力学
、
次世代ものづくりのための電気・機械一体モデル (共立スマートセレクション)
)。本書をもう少し易しくしたものが「原点から学ぶ 力学の考え方(コロナ社)」になる他、本書の考え方は1DCAEというコンピュータを駆使した現代的な機械の設計開発の考え方にも生かされているようです。
既存の古典力学に疑問を持っている、古典力学を教授する立場である、物理モデルによるシミュレーション・設計開発に従事している、古典力学の立場から量子力学・相対性理論を解釈してみたい(あるいはその逆)という方は必読です!
2024.1.29追記:本書は読者を機械系学科で力学を教授する立場の教員・研究者や機械系学問を専攻する大学院生、旧来の古典力学を概ね学び終えた学部2年次以上に学生、現場の機械系技術者を読者として想定しているようですが、美しい理論体系が構築されている電磁気学(一説によるとかのマクスウェルが一人で完成させたものではなく在野の技術者のオリヴァー・ヘヴィサイドがまとめ上げた理論体系だそうですが)に比べて、量子力学や相対性理論といった現代物理学と旧来の古典力学との接続が現状良くないという悩みは理学(特に物理)分野でも同様といえるかと思いますので、理学系や電気電子系の学科・専攻で古典力学を教えている教員・研究者の方々にもぜひとも一読して頂いて、機械系・電気電子系の研究者や教育者と一緒に大学理系教養レベルの古典力学教育の改革に関与して頂きたく思います。
もっとも、本書は従来〜現状の(古典)力学教育のカリキュラムを批判的に捉えているところがあるので、高校生が背伸びして読むのにはあまり向いていないかもしれない、とりあえずまずは大学理系一般基礎教養レベルの古典力学を一通り習って感じた批判的思考をもとに本書に進むのが望ましいのかなとは思います。
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機械の力学 単行本 – 2007/3/1
長松 昭男
(著)
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- 本の長さ242ページ
- 言語日本語
- 出版社朝倉書店
- 発売日2007/3/1
- ISBN-104254231172
- ISBN-13978-4254231175
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登録情報
- 出版社 : 朝倉書店 (2007/3/1)
- 発売日 : 2007/3/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 242ページ
- ISBN-10 : 4254231172
- ISBN-13 : 978-4254231175
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,138,740位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 672位総合機械工学関連書籍
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2009年6月11日に日本でレビュー済み
本書は、機械の力学のちょっとした改良ではなく、力学全体を根底から革新する意図で書かれている。わが国における従来の古典力学の教えでは、ダランベールの原理が動力学と静力学を統一する原理とされているが、本書はそのような概念そのものを根本的に否定していることに驚かされる。さらに、運動を記述する基本的な量を、変位ではなく速度にすることによって、運動方程式の形態などが大いに整理されることを、物理的考察にもとづいて懇切ていねいに記述している。この速度を基本とする考えは、読み始めは単に著者の好みによるものかと思って読みすすめると、実は量子力学の原理の一つとなっているプランクの法則、すなわちエネルギーが振動数に比例することや、相対性原理から必然的に誘導される証明がなされるに至って、腹の底から納得がゆく構成になっている推理小説のような仕掛けになっている。この本を読んで、その内容を右から左に使うということにはならないかもしれないが、いやしくも力学を講ずる教員ならば、絶対に読むべき書物である。2009年4月に出た第2刷では、図表や文章が大幅に改良され、読みやすくなっている。