流体力学を数学的に, あるいは逆に数学を流体力学的に理解することもできる, 珍しい本である.
位相空間に親しんでいる人向け, 複素解析の初歩を知っている人向けの面もあるが, 数学的精確性を重要視している. 脚注はそのためにも, また深い理解のためにも, 示唆のためにも多くある.
集合については, 和, 差, 共通部分, 集合族の和, 集合族の共通部分, 写像, 単射, 全射, 全単射, これらの意味と記法が分かれば, 全体が分かる. 集合族については既知でなくとも大丈夫だったかと思う.
位相空間の導入とその背景は微分積分の範囲内で理解できるが, 複素平面の位相を短く簡単に書いてから,
位相空間論
による内部と閉包および境界, 近傍, 写像の連続性, 同相, 基本近傍系, などが充分な説明は無く既知としている. 部分列(点列(p_n)_n∈Nに対して, 或る単調増加な自然数列(n_k)_k∈Nを作り, 新しく作られた点列(p_(n_k))_k∈N)の定義と全単射(単射: p≠q ⇒ f(p)≠f(q) かつ, 全射: fはA→Bへの写像ならf(A)=B であること)の定義は「明らかであろう」としている. 実軸R=R^1または複素平面C=R^2あるいは(N次元)数ベクトル空間R^Nの場合から, 推測, 言い換え, 特定ができるものは少なくも多くもない. しかし不正確にも不完全にも成り得る. リンク先とこのレビューの後半も参照されたい.
このような所や細部は流して, あるいは他書を参考にしながら, 時には感覚的に読むこともできる. それでも位相論で述べられている必要最低限の事項, 例えば, 連結⇔弧状連結, は実数の連続性で分かるように書かれてあるように思う.
第1章から先では, 上限や上極限など連続性と極限について, 1階と2階の定数係数線型微分方程式の初歩による解法, 正則関数を実在感を持って知ろうとすると, 高校物理のようなベクトルや公式による自然現象の解明に触れていること, 高校物理の簡単な力学を少し知っていること, が必要だと感じた.
ついでに, 複素数の積の絶対値は絶対値の積に等しい, という公式は, 極座標による表示を経由すれば, 瞬時に証明できる. そこから, 積がゼロなら少なくとも片方はゼロであることを, 高校数学流に文字を4つも用意せずに, 実数の場合を思い出せばすぐに示せる.
第1章では, 虚数単位 i は「定数係数線型2次代数方程式の解の公式」が発祥であるとして, 複素数の平方根は多価関数ゆえにリーマン面を必要とするから精確な定義は第3章に回して, 高校数学流に複素数の平方根の存在を感覚的に証明して, 複素数係数の場合に感覚的な解の公式を導出している.
第2章のそれを踏まえた「定数係数線型2階常微分方程式」によるオイラーの公式の導出は印象的だった. 現代数学では, 略記の記号としても微分方程式論によっても冪級数によっても, 指数関数を如何に定義しても結局オイラーの公式は定義式になるか定義式から自明になる. 本書でもオイラーの公式を「定義式」とする流儀の妥当性がよく伝わってくる. 裏に隠されている解の「一意性」も必要な範囲内だけ証明してあり安心感がある.
ちなみに, ここでは cos, sin が線型独立であることを利用している. cos, sin が線型独立であることの感覚的な意味は, 或る角θを固定したときの, x-軸上のベクトル (acosθ, 0), y-軸上のベクトル (0, bsinθ) が張る長方形または線分が1点につぶれるなら, xy-平面の原点oにつぶれることである.
そして主題となる特徴は, 正則関数の理論に入る前に, 平面上の初等的な流体力学の章を設けており, 正則関数を実在感を持って理解できるように工夫されていることである. コーシー-リーマンの方程式を「流体の流れ」で「証明」している. ここは理系人なら誰でも感動できると思う. さらに最終章のひとつ前の章では複素解析の流体力学への応用として, 翼の揚力を考察していて, かつて未解決であった問題「ダランベールのパラドックス」についても記されている. この本の複素解析が盛り込まれていて, 複素解析の実用性を確認できる. これらはとても貴重である.
なお, 多くの複素解析の本では, sinc(x)=sin(x)/x の実軸R上の積分 ∫_Rsinc(x)dx=π であることを証明する時に, 特異点0を上半平面の小さな円弧で迂回することにより, コーシーの積分定理と不等式による評価だけを用いているが, この本では下半平面の小さな円弧で迂回して留数定理を用いている. 自然な論理展開にするため, 留数定理の汎用性を示すため, 留数定理を用いても証明できることを示すために, 珍しい方法にしたのだろう.
複素数の定義以外では論理性を重視していて, 他の本では省略されそうな説明も前置きや多くの脚注で補っている. 理論的に重要であるか本文の内容の深化や応用などの章末の良問も多くて読み甲斐がある. 複素数の定義は「線型代数入門」(ブログ参照)「
入門複素解析15章
」(熊原)「
代数系入門
」などにある, 高校数学Ⅱで学んでおくべきとも言えるハミルトンの方法が最も簡単で短い. xy-平面に或る方法で四則演算を定義すると, x-軸上の複素数と実数の間に実数の四則演算と順応する1対1の対応がある. そこでx-軸上の複素数と実数を同一視する.
(0, 1)^2
=(0, 1)(0, 1)
=(0・0 − 1・1, 0・1+1・0)
=(−1, 0)
=−1
であるからi=(0, 1) とすると
(a, b)
=(a, 0)+(0, b)
=(a, 0)+(0, 1)(b, 0)
=a+ib
である. これらから定義を想像できると思う.
集合による表現または精確な長い説明がきつい場合は「
複素解析と流体力学
」もおすすめ.
※ 三角不等式は何個かの同心円を描くと計算によらない新しい納得ができる.
略証:
|a|=|(a−b)+b|≦|a−b|+|b|,
|b|=|(a−b)+(−a)|≦|a−b|+|a|
∴ |a|−|b|≦|a−b|, |b|−|a|≦|a−b|.
または |a|−|b|≦|a+b| においてbに−bを代入して |a|−|b|≦|a−b|, aとbを入れ変えて |b|−|a|≦|b−a|=|a−b|.
※ 集合が有界であることの定義:部分集合S⊂Cが有界であるとはSを含む或る開円板が存在すること, すなわち或る点α∈Sと或るr>0が存在してS⊆D(α, r)となること.
※ 内部(開核, interior)の定義:内点全体の集合. すなわち集合Sの内部とは, ∃ε>0, D(ζ, ε)⊆S となる点ζ全体の集合. どんな点にも, その充分近くにいくらでも多くの, その集合の点がある集合. 開円板D(α, r)が開集合であることを示す「分かりやすい図」を定式化すると
「D(ζ, ((r−|ζ−α|)/2))⊂D(α, r)」
である. 左辺にD(ζ, ((r−|ζ−α|)/2))の境界(後述)を付け足して閉円板にしても⊂D(α, r)である. これは
「D(ζ, ((r−|ζ−α|)/2))⊂⊂D(α, r)」
と書かれる. Sの内部をint(S)と書こう.
閉包の定義:その集合の触点(その点を含む任意の(充分小さい, 上記のε-近傍のような)開集合が, その集合と交わるような点)全体の集合;その集合とその導集合(集積点(後述)全体の集合)との和;その集合の点から成る, 任意の収束する点列の極限点を, その集合に入っていない点も含めて, 全て付け加えた集合. もとの集合を含んでいる. 感覚的には, その集合に密着している点を全て付け加えて作った集合;自身と外の「境界」との和すなわち周あるいは表面を含む集合. Sの閉包を cl(S) で表わそう.
閉集合の定義:自らの閉包(closure)と等しい集合;あるいは, その集合の点から成る任意の点列の極限が必ずその集合に属している(点列の極限をとる演算で閉じている)集合. 閉円板 cl(D(α, r)) が閉集合(すなわち閉円板の補集合が開集合)であることを示す「分かりやすい図」を定式化すると
「D(ζ, ((|ζ−α|−r)/2))⊂D(α, r)^c」
である. (ここでも左辺⊂⊂右辺. )
境界の定義:内点でも外点(補集合の内点)でもない「境目の」点の集合. 外部と内部の境に居る点の集合. ここでは∂Sで表そう.
近傍:本書においてはその点を含む(充分小さな)開集合. 開近傍とも言う.
int(S)∪∂S=cl(S), cl(S)−int(S)=∂S, int(S)⊆S⊆cl(S), ∂S⊆cl(S),
int((int(S))=int(S), cl((cl(S))=cl(S),
∂(S^c)=∂S=cl(∂S),
int(S)∪(∂S)∪(cl(S)^c)=C, int(S)∩(∂S)∩cl(S)=int(∂S)={ }.
「基本近傍系」とは「いくらでも小さな近傍を持つ」近傍の集合である.
※放物線の頂点や準線を求める計算でミスをしているので論理の運びに問題があるが(焦点はそれぞれ(−(c_1)^2, 0)と((c_2)^2, 0)で「共通の焦点」はない), 最終結論は正しい.
※一致の定理を述べている所で, 「Gの内点に集積点を持つ点列 (z_n) の上で」の部分で触点を集積点と勘違いしているが, 最終的な結論に変わりはない. 同じ点が繰り返し現れるのを防ぐために極限点は集積点と仮定しているのだが, 触点は集積点とは限らない. 点αが集合Sの集積点とは, Sからαを取り除いて作った集合S−{α}の閉包cl(S−{α})にαが入っていることである. すなわち点αの任意の近傍にα以外の集合Sの点が存在することである. cl(S−{α})は=Sにも≠Sにもなり, Sの集積点全体の集合をSの導集合という. これはS'またはS^dと書かれる. 極限点z*がGの集積点なら(ここではαを(z_n)の極限z*としてSをGとすれば任意のz_n∈Gとz*∈G'が異なる), 番号nが進むとき, (z_n)が異なるnに応じて同じz_nを繰り返すことは避けられる. 任意のz_n≠z*になるから.
1変数複素解析の初学者には「
新装版 解析学概論
」「
複素関数論の要諦
」「
入門複素解析15章
」「
複素関数入門
」がおすすめ.
ご参考になれば幸いです。(2020年1月23日, 2022年6月26日最終推敲)
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複素関数論 (現代基礎数学 9) 単行本 – 2013/10/3
柴 雅和
(著)
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- 本の長さ227ページ
- 言語日本語
- 出版社朝倉書店
- 発売日2013/10/3
- 寸法15 x 1.5 x 21 cm
- ISBN-104254117590
- ISBN-13978-4254117592
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登録情報
- 出版社 : 朝倉書店 (2013/10/3)
- 発売日 : 2013/10/3
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 227ページ
- ISBN-10 : 4254117590
- ISBN-13 : 978-4254117592
- 寸法 : 15 x 1.5 x 21 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,285,086位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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イメージ付きのレビュー
5 星
複素解析と流体力学
流体力学を数学的に, あるいは逆に数学を流体力学的に理解することもできる, 珍しい本である.位相空間に親しんでいる人向け, 複素解析の初歩を知っている人向けの面もあるが, 数学的精確性を重要視している. 脚注はそのためにも, また深い理解のためにも, 示唆のためにも多くある.集合については, 和, 差, 共通部分, 集合族の和, 集合族の共通部分, 写像, 単射, 全射, 全単射, これらの意味と記法が分かれば, 全体が分かる. 集合族については既知でなくとも大丈夫だったかと思う.位相空間の導入とその背景は微分積分の範囲内で理解できるが, 複素平面の位相を短く簡単に書いてから, 位相空間論による内部と閉包および境界, 近傍, 写像の連続性, 同相, 基本近傍系, などが充分な説明は無く既知としている. 部分列(点列(p_n)_n∈Nに対して, 或る単調増加な自然数列(n_k)_k∈Nを作り, 新しく作られた点列(p_(n_k))_k∈N)の定義と全単射(単射: p≠q ⇒ f(p)≠f(q) かつ, 全射: fはA→Bへの写像ならf(A)=B であること)の定義は「明らかであろう」としている. 実軸R=R^1または複素平面C=R^2あるいは(N次元)数ベクトル空間R^Nの場合から, 推測, 言い換え, 特定ができるものは少なくも多くもない. しかし不正確にも不完全にも成り得る. リンク先とこのレビューの後半も参照されたい.このような所や細部は流して, あるいは他書を参考にしながら, 時には感覚的に読むこともできる. それでも位相論で述べられている必要最低限の事項, 例えば, 連結⇔弧状連結, は実数の連続性で分かるように書かれてあるように思う.第1章から先では, 上限や上極限など連続性と極限について, 1階と2階の定数係数線型微分方程式の初歩による解法, 正則関数を実在感を持って知ろうとすると, 高校物理のようなベクトルや公式による自然現象の解明に触れていること, 高校物理の簡単な力学を少し知っていること, が必要だと感じた.ついでに, 複素数の積の絶対値は絶対値の積に等しい, という公式は, 極座標による表示を経由すれば, 瞬時に証明できる. そこから, 積がゼロなら少なくとも片方はゼロであることを, 高校数学流に文字を4つも用意せずに, 実数の場合を思い出せばすぐに示せる.第1章では, 虚数単位 i は「定数係数線型2次代数方程式の解の公式」が発祥であるとして, 複素数の平方根は多価関数ゆえにリーマン面を必要とするから精確な定義は第3章に回して, 高校数学流に複素数の平方根の存在を感覚的に証明して, 複素数係数の場合に感覚的な解の公式を導出している.第2章のそれを踏まえた「定数係数線型2階常微分方程式」によるオイラーの公式の導出は印象的だった. 現代数学では, 略記の記号としても微分方程式論によっても冪級数によっても, 指数関数を如何に定義しても結局オイラーの公式は定義式になるか定義式から自明になる. 本書でもオイラーの公式を「定義式」とする流儀の妥当性がよく伝わってくる. 裏に隠されている解の「一意性」も必要な範囲内だけ証明してあり安心感がある.ちなみに, ここでは cos, sin が線型独立であることを利用している. cos, sin が線型独立であることの感覚的な意味は, 或る角θを固定したときの, x-軸上のベクトル (acosθ, 0), y-軸上のベクトル (0, bsinθ) が張る長方形または線分が1点につぶれるなら, xy-平面の原点oにつぶれることである.そして主題となる特徴は, 正則関数の理論に入る前に, 平面上の初等的な流体力学の章を設けており, 正則関数を実在感を持って理解できるように工夫されていることである. コーシー-リーマンの方程式を「流体の流れ」で「証明」している. ここは理系人なら誰でも感動できると思う. さらに最終章のひとつ前の章では複素解析の流体力学への応用として, 翼の揚力を考察していて, かつて未解決であった問題「ダランベールのパラドックス」についても記されている. この本の複素解析が盛り込まれていて, 複素解析の実用性を確認できる. これらはとても貴重である.なお, 多くの複素解析の本では, sinc(x)=sin(x)/x の実軸R上の積分 ∫_Rsinc(x)dx=π であることを証明する時に, 特異点0を上半平面の小さな円弧で迂回することにより, コーシーの積分定理と不等式による評価だけを用いているが, この本では下半平面の小さな円弧で迂回して留数定理を用いている. 自然な論理展開にするため, 留数定理の汎用性を示すため, 留数定理を用いても証明できることを示すために, 珍しい方法にしたのだろう.複素数の定義以外では論理性を重視していて, 他の本では省略されそうな説明も前置きや多くの脚注で補っている. 理論的に重要であるか本文の内容の深化や応用などの章末の良問も多くて読み甲斐がある. 複素数の定義は「線型代数入門」(ブログ参照)「入門複素解析15章」(熊原)「代数系入門」などにある, 高校数学Ⅱで学んでおくべきとも言えるハミルトンの方法が最も簡単で短い. xy-平面に或る方法で四則演算を定義すると, x-軸上の複素数と実数の間に実数の四則演算と順応する1対1の対応がある. そこでx-軸上の複素数と実数を同一視する.(0, 1)^2=(0, 1)(0, 1)=(0・0 − 1・1, 0・1+1・0)=(−1, 0)=−1であるからi=(0, 1) とすると(a, b)=(a, 0)+(0, b)=(a, 0)+(0, 1)(b, 0)=a+ibである. これらから定義を想像できると思う.集合による表現または精確な長い説明がきつい場合は「複素解析と流体力学」もおすすめ.※ 三角不等式は何個かの同心円を描くと計算によらない新しい納得ができる.略証:|a|=|(a−b)+b|≦|a−b|+|b|,|b|=|(a−b)+(−a)|≦|a−b|+|a|∴ |a|−|b|≦|a−b|, |b|−|a|≦|a−b|.または |a|−|b|≦|a+b| においてbに−bを代入して |a|−|b|≦|a−b|, aとbを入れ変えて |b|−|a|≦|b−a|=|a−b|.※ 集合が有界であることの定義:部分集合S⊂Cが有界であるとはSを含む或る開円板が存在すること, すなわち或る点α∈Sと或るr>0が存在してS⊆D(α, r)となること.※ 内部(開核, interior)の定義:内点全体の集合. すなわち集合Sの内部とは, ∃ε>0, D(ζ, ε)⊆S となる点ζ全体の集合. どんな点にも, その充分近くにいくらでも多くの, その集合の点がある集合. 開円板D(α, r)が開集合であることを示す「分かりやすい図」を定式化すると「D(ζ, ((r−|ζ−α|)/2))⊂D(α, r)」である. 左辺にD(ζ, ((r−|ζ−α|)/2))の境界(後述)を付け足して閉円板にしても⊂D(α, r)である. これは「D(ζ, ((r−|ζ−α|)/2))⊂⊂D(α, r)」と書かれる. Sの内部をint(S)と書こう.閉包の定義:その集合の触点(その点を含む任意の(充分小さい, 上記のε-近傍のような)開集合が, その集合と交わるような点)全体の集合;その集合とその導集合(集積点(後述)全体の集合)との和;その集合の点から成る, 任意の収束する点列の極限点を, その集合に入っていない点も含めて, 全て付け加えた集合. もとの集合を含んでいる. 感覚的には, その集合に密着している点を全て付け加えて作った集合;自身と外の「境界」との和すなわち周あるいは表面を含む集合. Sの閉包を cl(S) で表わそう.閉集合の定義:自らの閉包(closure)と等しい集合;あるいは, その集合の点から成る任意の点列の極限が必ずその集合に属している(点列の極限をとる演算で閉じている)集合. 閉円板 cl(D(α, r)) が閉集合(すなわち閉円板の補集合が開集合)であることを示す「分かりやすい図」を定式化すると「D(ζ, ((|ζ−α|−r)/2))⊂D(α, r)^c」である. (ここでも左辺⊂⊂右辺. )境界の定義:内点でも外点(補集合の内点)でもない「境目の」点の集合. 外部と内部の境に居る点の集合. ここでは∂Sで表そう.近傍:本書においてはその点を含む(充分小さな)開集合. 開近傍とも言う.int(S)∪∂S=cl(S), cl(S)−int(S)=∂S, int(S)⊆S⊆cl(S), ∂S⊆cl(S),int((int(S))=int(S), cl((cl(S))=cl(S),∂(S^c)=∂S=cl(∂S),int(S)∪(∂S)∪(cl(S)^c)=C, int(S)∩(∂S)∩cl(S)=int(∂S)={ }.「基本近傍系」とは「いくらでも小さな近傍を持つ」近傍の集合である.※放物線の頂点や準線を求める計算でミスをしているので論理の運びに問題があるが(焦点はそれぞれ(−(c_1)^2, 0)と((c_2)^2, 0)で「共通の焦点」はない), 最終結論は正しい.※一致の定理を述べている所で, 「Gの内点に集積点を持つ点列 (z_n) の上で」の部分で触点を集積点と勘違いしているが, 最終的な結論に変わりはない. 同じ点が繰り返し現れるのを防ぐために極限点は集積点と仮定しているのだが, 触点は集積点とは限らない. 点αが集合Sの集積点とは, Sからαを取り除いて作った集合S−{α}の閉包cl(S−{α})にαが入っていることである. すなわち点αの任意の近傍にα以外の集合Sの点が存在することである. cl(S−{α})は=Sにも≠Sにもなり, Sの集積点全体の集合をSの導集合という. これはS'またはS^dと書かれる. 極限点z*がGの集積点なら(ここではαを(z_n)の極限z*としてSをGとすれば任意のz_n∈Gとz*∈G'が異なる), 番号nが進むとき, (z_n)が異なるnに応じて同じz_nを繰り返すことは避けられる. 任意のz_n≠z*になるから.1変数複素解析の初学者には「新装版 解析学概論」「複素関数論の要諦」「入門複素解析15章」「複素関数入門」がおすすめ.ご参考になれば幸いです。(2020年1月23日, 2022年6月26日最終推敲)
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流体力学を数学的に, あるいは逆に数学を流体力学的に理解することもできる, 珍しい本である.
位相空間に親しんでいる人向け, 複素解析の初歩を知っている人向けの面もあるが, 数学的精確性を重要視している. 脚注はそのためにも, また深い理解のためにも, 示唆のためにも多くある.
集合については, 和, 差, 共通部分, 集合族の和, 集合族の共通部分, 写像, 単射, 全射, 全単射, これらの意味と記法が分かれば, 全体が分かる. 集合族については既知でなくとも大丈夫だったかと思う.
位相空間の導入とその背景は微分積分の範囲内で理解できるが, 複素平面の位相を短く簡単に書いてから, [[ASIN:478531401X 位相空間論]]による内部と閉包および境界, 近傍, 写像の連続性, 同相, 基本近傍系, などが充分な説明は無く既知としている. 部分列(点列(p_n)_n∈Nに対して, 或る単調増加な自然数列(n_k)_k∈Nを作り, 新しく作られた点列(p_(n_k))_k∈N)の定義と全単射(単射: p≠q ⇒ f(p)≠f(q) かつ, 全射: fはA→Bへの写像ならf(A)=B であること)の定義は「明らかであろう」としている. 実軸R=R^1または複素平面C=R^2あるいは(N次元)数ベクトル空間R^Nの場合から, 推測, 言い換え, 特定ができるものは少なくも多くもない. しかし不正確にも不完全にも成り得る. リンク先とこのレビューの後半も参照されたい.
このような所や細部は流して, あるいは他書を参考にしながら, 時には感覚的に読むこともできる. それでも位相論で述べられている必要最低限の事項, 例えば, 連結⇔弧状連結, は実数の連続性で分かるように書かれてあるように思う.
第1章から先では, 上限や上極限など連続性と極限について, 1階と2階の定数係数線型微分方程式の初歩による解法, 正則関数を実在感を持って知ろうとすると, 高校物理のようなベクトルや公式による自然現象の解明に触れていること, 高校物理の簡単な力学を少し知っていること, が必要だと感じた.
ついでに, 複素数の積の絶対値は絶対値の積に等しい, という公式は, 極座標による表示を経由すれば, 瞬時に証明できる. そこから, 積がゼロなら少なくとも片方はゼロであることを, 高校数学流に文字を4つも用意せずに, 実数の場合を思い出せばすぐに示せる.
第1章では, 虚数単位 i は「定数係数線型2次代数方程式の解の公式」が発祥であるとして, 複素数の平方根は多価関数ゆえにリーマン面を必要とするから精確な定義は第3章に回して, 高校数学流に複素数の平方根の存在を感覚的に証明して, 複素数係数の場合に感覚的な解の公式を導出している.
第2章のそれを踏まえた「定数係数線型2階常微分方程式」によるオイラーの公式の導出は印象的だった. 現代数学では, 略記の記号としても微分方程式論によっても冪級数によっても, 指数関数を如何に定義しても結局オイラーの公式は定義式になるか定義式から自明になる. 本書でもオイラーの公式を「定義式」とする流儀の妥当性がよく伝わってくる. 裏に隠されている解の「一意性」も必要な範囲内だけ証明してあり安心感がある.
ちなみに, ここでは cos, sin が線型独立であることを利用している. cos, sin が線型独立であることの感覚的な意味は, 或る角θを固定したときの, x-軸上のベクトル (acosθ, 0), y-軸上のベクトル (0, bsinθ) が張る長方形または線分が1点につぶれるなら, xy-平面の原点oにつぶれることである.
そして主題となる特徴は, 正則関数の理論に入る前に, 平面上の初等的な流体力学の章を設けており, 正則関数を実在感を持って理解できるように工夫されていることである. コーシー-リーマンの方程式を「流体の流れ」で「証明」している. ここは理系人なら誰でも感動できると思う. さらに最終章のひとつ前の章では複素解析の流体力学への応用として, 翼の揚力を考察していて, かつて未解決であった問題「ダランベールのパラドックス」についても記されている. この本の複素解析が盛り込まれていて, 複素解析の実用性を確認できる. これらはとても貴重である.
なお, 多くの複素解析の本では, sinc(x)=sin(x)/x の実軸R上の積分 ∫_Rsinc(x)dx=π であることを証明する時に, 特異点0を上半平面の小さな円弧で迂回することにより, コーシーの積分定理と不等式による評価だけを用いているが, この本では下半平面の小さな円弧で迂回して留数定理を用いている. 自然な論理展開にするため, 留数定理の汎用性を示すため, 留数定理を用いても証明できることを示すために, 珍しい方法にしたのだろう.
複素数の定義以外では論理性を重視していて, 他の本では省略されそうな説明も前置きや多くの脚注で補っている. 理論的に重要であるか本文の内容の深化や応用などの章末の良問も多くて読み甲斐がある. 複素数の定義は「線型代数入門」(ブログ参照)「[[ASIN:4535785716 入門複素解析15章]]」(熊原)「[[ASIN:4000056344 代数系入門]]」などにある, 高校数学Ⅱで学んでおくべきとも言えるハミルトンの方法が最も簡単で短い. xy-平面に或る方法で四則演算を定義すると, x-軸上の複素数と実数の間に実数の四則演算と順応する1対1の対応がある. そこでx-軸上の複素数と実数を同一視する.
(0, 1)^2
=(0, 1)(0, 1)
=(0・0 − 1・1, 0・1+1・0)
=(−1, 0)
=−1
であるからi=(0, 1) とすると
(a, b)
=(a, 0)+(0, b)
=(a, 0)+(0, 1)(b, 0)
=a+ib
である. これらから定義を想像できると思う.
集合による表現または精確な長い説明がきつい場合は「[[ASIN:4535606013 複素解析と流体力学]]」もおすすめ.
※ 三角不等式は何個かの同心円を描くと計算によらない新しい納得ができる.
略証:
|a|=|(a−b)+b|≦|a−b|+|b|,
|b|=|(a−b)+(−a)|≦|a−b|+|a|
∴ |a|−|b|≦|a−b|, |b|−|a|≦|a−b|.
または |a|−|b|≦|a+b| においてbに−bを代入して |a|−|b|≦|a−b|, aとbを入れ変えて |b|−|a|≦|b−a|=|a−b|.
※ 集合が有界であることの定義:部分集合S⊂Cが有界であるとはSを含む或る開円板が存在すること, すなわち或る点α∈Sと或るr>0が存在してS⊆D(α, r)となること.
※ 内部(開核, interior)の定義:内点全体の集合. すなわち集合Sの内部とは, ∃ε>0, D(ζ, ε)⊆S となる点ζ全体の集合. どんな点にも, その充分近くにいくらでも多くの, その集合の点がある集合. 開円板D(α, r)が開集合であることを示す「分かりやすい図」を定式化すると
「D(ζ, ((r−|ζ−α|)/2))⊂D(α, r)」
である. 左辺にD(ζ, ((r−|ζ−α|)/2))の境界(後述)を付け足して閉円板にしても⊂D(α, r)である. これは
「D(ζ, ((r−|ζ−α|)/2))⊂⊂D(α, r)」
と書かれる. Sの内部をint(S)と書こう.
閉包の定義:その集合の触点(その点を含む任意の(充分小さい, 上記のε-近傍のような)開集合が, その集合と交わるような点)全体の集合;その集合とその導集合(集積点(後述)全体の集合)との和;その集合の点から成る, 任意の収束する点列の極限点を, その集合に入っていない点も含めて, 全て付け加えた集合. もとの集合を含んでいる. 感覚的には, その集合に密着している点を全て付け加えて作った集合;自身と外の「境界」との和すなわち周あるいは表面を含む集合. Sの閉包を cl(S) で表わそう.
閉集合の定義:自らの閉包(closure)と等しい集合;あるいは, その集合の点から成る任意の点列の極限が必ずその集合に属している(点列の極限をとる演算で閉じている)集合. 閉円板 cl(D(α, r)) が閉集合(すなわち閉円板の補集合が開集合)であることを示す「分かりやすい図」を定式化すると
「D(ζ, ((|ζ−α|−r)/2))⊂D(α, r)^c」
である. (ここでも左辺⊂⊂右辺. )
境界の定義:内点でも外点(補集合の内点)でもない「境目の」点の集合. 外部と内部の境に居る点の集合. ここでは∂Sで表そう.
近傍:本書においてはその点を含む(充分小さな)開集合. 開近傍とも言う.
int(S)∪∂S=cl(S), cl(S)−int(S)=∂S, int(S)⊆S⊆cl(S), ∂S⊆cl(S),
int((int(S))=int(S), cl((cl(S))=cl(S),
∂(S^c)=∂S=cl(∂S),
int(S)∪(∂S)∪(cl(S)^c)=C, int(S)∩(∂S)∩cl(S)=int(∂S)={ }.
「基本近傍系」とは「いくらでも小さな近傍を持つ」近傍の集合である.
※放物線の頂点や準線を求める計算でミスをしているので論理の運びに問題があるが(焦点はそれぞれ(−(c_1)^2, 0)と((c_2)^2, 0)で「共通の焦点」はない), 最終結論は正しい.
※一致の定理を述べている所で, 「Gの内点に集積点を持つ点列 (z_n) の上で」の部分で触点を集積点と勘違いしているが, 最終的な結論に変わりはない. 同じ点が繰り返し現れるのを防ぐために極限点は集積点と仮定しているのだが, 触点は集積点とは限らない. 点αが集合Sの集積点とは, Sからαを取り除いて作った集合S−{α}の閉包cl(S−{α})にαが入っていることである. すなわち点αの任意の近傍にα以外の集合Sの点が存在することである. cl(S−{α})は=Sにも≠Sにもなり, Sの集積点全体の集合をSの導集合という. これはS'またはS^dと書かれる. 極限点z*がGの集積点なら(ここではαを(z_n)の極限z*としてSをGとすれば任意のz_n∈Gとz*∈G'が異なる), 番号nが進むとき, (z_n)が異なるnに応じて同じz_nを繰り返すことは避けられる. 任意のz_n≠z*になるから.
1変数複素解析の初学者には「[[ASIN:4785315849 新装版 解析学概論]]」「[[ASIN:453578597X 複素関数論の要諦]]」「[[ASIN:4535785716 入門複素解析15章]]」「[[ASIN:4000068741 複素関数入門]]」がおすすめ.
ご参考になれば幸いです。(2020年1月23日, 2022年6月26日最終推敲)
位相空間に親しんでいる人向け, 複素解析の初歩を知っている人向けの面もあるが, 数学的精確性を重要視している. 脚注はそのためにも, また深い理解のためにも, 示唆のためにも多くある.
集合については, 和, 差, 共通部分, 集合族の和, 集合族の共通部分, 写像, 単射, 全射, 全単射, これらの意味と記法が分かれば, 全体が分かる. 集合族については既知でなくとも大丈夫だったかと思う.
位相空間の導入とその背景は微分積分の範囲内で理解できるが, 複素平面の位相を短く簡単に書いてから, [[ASIN:478531401X 位相空間論]]による内部と閉包および境界, 近傍, 写像の連続性, 同相, 基本近傍系, などが充分な説明は無く既知としている. 部分列(点列(p_n)_n∈Nに対して, 或る単調増加な自然数列(n_k)_k∈Nを作り, 新しく作られた点列(p_(n_k))_k∈N)の定義と全単射(単射: p≠q ⇒ f(p)≠f(q) かつ, 全射: fはA→Bへの写像ならf(A)=B であること)の定義は「明らかであろう」としている. 実軸R=R^1または複素平面C=R^2あるいは(N次元)数ベクトル空間R^Nの場合から, 推測, 言い換え, 特定ができるものは少なくも多くもない. しかし不正確にも不完全にも成り得る. リンク先とこのレビューの後半も参照されたい.
このような所や細部は流して, あるいは他書を参考にしながら, 時には感覚的に読むこともできる. それでも位相論で述べられている必要最低限の事項, 例えば, 連結⇔弧状連結, は実数の連続性で分かるように書かれてあるように思う.
第1章から先では, 上限や上極限など連続性と極限について, 1階と2階の定数係数線型微分方程式の初歩による解法, 正則関数を実在感を持って知ろうとすると, 高校物理のようなベクトルや公式による自然現象の解明に触れていること, 高校物理の簡単な力学を少し知っていること, が必要だと感じた.
ついでに, 複素数の積の絶対値は絶対値の積に等しい, という公式は, 極座標による表示を経由すれば, 瞬時に証明できる. そこから, 積がゼロなら少なくとも片方はゼロであることを, 高校数学流に文字を4つも用意せずに, 実数の場合を思い出せばすぐに示せる.
第1章では, 虚数単位 i は「定数係数線型2次代数方程式の解の公式」が発祥であるとして, 複素数の平方根は多価関数ゆえにリーマン面を必要とするから精確な定義は第3章に回して, 高校数学流に複素数の平方根の存在を感覚的に証明して, 複素数係数の場合に感覚的な解の公式を導出している.
第2章のそれを踏まえた「定数係数線型2階常微分方程式」によるオイラーの公式の導出は印象的だった. 現代数学では, 略記の記号としても微分方程式論によっても冪級数によっても, 指数関数を如何に定義しても結局オイラーの公式は定義式になるか定義式から自明になる. 本書でもオイラーの公式を「定義式」とする流儀の妥当性がよく伝わってくる. 裏に隠されている解の「一意性」も必要な範囲内だけ証明してあり安心感がある.
ちなみに, ここでは cos, sin が線型独立であることを利用している. cos, sin が線型独立であることの感覚的な意味は, 或る角θを固定したときの, x-軸上のベクトル (acosθ, 0), y-軸上のベクトル (0, bsinθ) が張る長方形または線分が1点につぶれるなら, xy-平面の原点oにつぶれることである.
そして主題となる特徴は, 正則関数の理論に入る前に, 平面上の初等的な流体力学の章を設けており, 正則関数を実在感を持って理解できるように工夫されていることである. コーシー-リーマンの方程式を「流体の流れ」で「証明」している. ここは理系人なら誰でも感動できると思う. さらに最終章のひとつ前の章では複素解析の流体力学への応用として, 翼の揚力を考察していて, かつて未解決であった問題「ダランベールのパラドックス」についても記されている. この本の複素解析が盛り込まれていて, 複素解析の実用性を確認できる. これらはとても貴重である.
なお, 多くの複素解析の本では, sinc(x)=sin(x)/x の実軸R上の積分 ∫_Rsinc(x)dx=π であることを証明する時に, 特異点0を上半平面の小さな円弧で迂回することにより, コーシーの積分定理と不等式による評価だけを用いているが, この本では下半平面の小さな円弧で迂回して留数定理を用いている. 自然な論理展開にするため, 留数定理の汎用性を示すため, 留数定理を用いても証明できることを示すために, 珍しい方法にしたのだろう.
複素数の定義以外では論理性を重視していて, 他の本では省略されそうな説明も前置きや多くの脚注で補っている. 理論的に重要であるか本文の内容の深化や応用などの章末の良問も多くて読み甲斐がある. 複素数の定義は「線型代数入門」(ブログ参照)「[[ASIN:4535785716 入門複素解析15章]]」(熊原)「[[ASIN:4000056344 代数系入門]]」などにある, 高校数学Ⅱで学んでおくべきとも言えるハミルトンの方法が最も簡単で短い. xy-平面に或る方法で四則演算を定義すると, x-軸上の複素数と実数の間に実数の四則演算と順応する1対1の対応がある. そこでx-軸上の複素数と実数を同一視する.
(0, 1)^2
=(0, 1)(0, 1)
=(0・0 − 1・1, 0・1+1・0)
=(−1, 0)
=−1
であるからi=(0, 1) とすると
(a, b)
=(a, 0)+(0, b)
=(a, 0)+(0, 1)(b, 0)
=a+ib
である. これらから定義を想像できると思う.
集合による表現または精確な長い説明がきつい場合は「[[ASIN:4535606013 複素解析と流体力学]]」もおすすめ.
※ 三角不等式は何個かの同心円を描くと計算によらない新しい納得ができる.
略証:
|a|=|(a−b)+b|≦|a−b|+|b|,
|b|=|(a−b)+(−a)|≦|a−b|+|a|
∴ |a|−|b|≦|a−b|, |b|−|a|≦|a−b|.
または |a|−|b|≦|a+b| においてbに−bを代入して |a|−|b|≦|a−b|, aとbを入れ変えて |b|−|a|≦|b−a|=|a−b|.
※ 集合が有界であることの定義:部分集合S⊂Cが有界であるとはSを含む或る開円板が存在すること, すなわち或る点α∈Sと或るr>0が存在してS⊆D(α, r)となること.
※ 内部(開核, interior)の定義:内点全体の集合. すなわち集合Sの内部とは, ∃ε>0, D(ζ, ε)⊆S となる点ζ全体の集合. どんな点にも, その充分近くにいくらでも多くの, その集合の点がある集合. 開円板D(α, r)が開集合であることを示す「分かりやすい図」を定式化すると
「D(ζ, ((r−|ζ−α|)/2))⊂D(α, r)」
である. 左辺にD(ζ, ((r−|ζ−α|)/2))の境界(後述)を付け足して閉円板にしても⊂D(α, r)である. これは
「D(ζ, ((r−|ζ−α|)/2))⊂⊂D(α, r)」
と書かれる. Sの内部をint(S)と書こう.
閉包の定義:その集合の触点(その点を含む任意の(充分小さい, 上記のε-近傍のような)開集合が, その集合と交わるような点)全体の集合;その集合とその導集合(集積点(後述)全体の集合)との和;その集合の点から成る, 任意の収束する点列の極限点を, その集合に入っていない点も含めて, 全て付け加えた集合. もとの集合を含んでいる. 感覚的には, その集合に密着している点を全て付け加えて作った集合;自身と外の「境界」との和すなわち周あるいは表面を含む集合. Sの閉包を cl(S) で表わそう.
閉集合の定義:自らの閉包(closure)と等しい集合;あるいは, その集合の点から成る任意の点列の極限が必ずその集合に属している(点列の極限をとる演算で閉じている)集合. 閉円板 cl(D(α, r)) が閉集合(すなわち閉円板の補集合が開集合)であることを示す「分かりやすい図」を定式化すると
「D(ζ, ((|ζ−α|−r)/2))⊂D(α, r)^c」
である. (ここでも左辺⊂⊂右辺. )
境界の定義:内点でも外点(補集合の内点)でもない「境目の」点の集合. 外部と内部の境に居る点の集合. ここでは∂Sで表そう.
近傍:本書においてはその点を含む(充分小さな)開集合. 開近傍とも言う.
int(S)∪∂S=cl(S), cl(S)−int(S)=∂S, int(S)⊆S⊆cl(S), ∂S⊆cl(S),
int((int(S))=int(S), cl((cl(S))=cl(S),
∂(S^c)=∂S=cl(∂S),
int(S)∪(∂S)∪(cl(S)^c)=C, int(S)∩(∂S)∩cl(S)=int(∂S)={ }.
「基本近傍系」とは「いくらでも小さな近傍を持つ」近傍の集合である.
※放物線の頂点や準線を求める計算でミスをしているので論理の運びに問題があるが(焦点はそれぞれ(−(c_1)^2, 0)と((c_2)^2, 0)で「共通の焦点」はない), 最終結論は正しい.
※一致の定理を述べている所で, 「Gの内点に集積点を持つ点列 (z_n) の上で」の部分で触点を集積点と勘違いしているが, 最終的な結論に変わりはない. 同じ点が繰り返し現れるのを防ぐために極限点は集積点と仮定しているのだが, 触点は集積点とは限らない. 点αが集合Sの集積点とは, Sからαを取り除いて作った集合S−{α}の閉包cl(S−{α})にαが入っていることである. すなわち点αの任意の近傍にα以外の集合Sの点が存在することである. cl(S−{α})は=Sにも≠Sにもなり, Sの集積点全体の集合をSの導集合という. これはS'またはS^dと書かれる. 極限点z*がGの集積点なら(ここではαを(z_n)の極限z*としてSをGとすれば任意のz_n∈Gとz*∈G'が異なる), 番号nが進むとき, (z_n)が異なるnに応じて同じz_nを繰り返すことは避けられる. 任意のz_n≠z*になるから.
1変数複素解析の初学者には「[[ASIN:4785315849 新装版 解析学概論]]」「[[ASIN:453578597X 複素関数論の要諦]]」「[[ASIN:4535785716 入門複素解析15章]]」「[[ASIN:4000068741 複素関数入門]]」がおすすめ.
ご参考になれば幸いです。(2020年1月23日, 2022年6月26日最終推敲)
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