9歳で出家し、大東亜戦争後、39歳の時に事故で半身不随となった月心寺の村瀬明道尼(1924年~2013年)の含蓄深き本音の自叙伝は読みやすいだけでなく、その過酷な人生訓から多くの示唆に溢れ、時に苦しい恋愛話もあり、非常に読み応えがありました。
文中から印象に残る言葉や文章を以下にご紹介しますので、気になった方はぜひご購読ください。
・見えない何者かが私に走井の名水でごま豆腐をつくらせ、ひとさまをして「また訪ねたい」と感じせしめ、自然な形で(月心寺の小野小町や龍神さまと)縁を結ばせるよう仕向けているーそれしかないと私は本気で思っているのです。
・野菜は美味しく炊いて美味しくいただくことで成仏するのです。人間も同じように、何か大きな力にひきずられながらも、用がなくなるまで生かされ、いよいよ用を終えたらそこで終いになるだけなのです。だからそれまでの間、自分の仕事をまっとうすることに専念するしかない。そう私は思っています。
・これが今生の名残のときになるかもわからない。いつのときもそう思うようになりました。そう思うと、うぬぼれや甘えとは、ますます縁がなくなります。
・人と人とが真正面からぶつかれば、そこにはときに、血みどろになるほどの大きな葛藤が生まれます。ほんとうの出会いというものには、それだけの激しさが伴うのではないでしょうか。
・人生には、生きているうちに解決されない矛盾や、答えの得られない謎というものがあります。その一方で、長く生きたあとに、やっと見えてくる何かも必ずあります。やはり、時の力は偉大だと言わねばなりません。
・出家をするなら寂聴さんのような出家のしかたであるべきだと私は思います。お釈迦さまがそうであったように。
・事故後の私の力を試そうとするかのように、大きな仕事、大きな節目、大きなチャンスが私に訪れ、そのつど挑むような気持ちで取り組んできました。命のある限りは、勇躍してそれにぶつかるしかない。そんな思いがいつも私を駆り立てていたのです。
・人を恋いうることも知らずに三十二年間を生きてきました。その私を揺さぶり起こした相手(円山蒼谷)は、私に愛し愛されることの歓喜と、決して一緒になれないという煉獄の苦しみを同時に与えました。お互いがお互いにとってのかけがけのない存在であるという事実を知ったほんの数か月後にその人は病に倒れ、無償の愛に触れた実感だけを私に遺して他人の手に渡ってしまったのです。
・(九死に一生を得た事故後の病院で)「自分で息をしているのではなく、息をさせていただいているのや。今の私にはそれがわかる。自分でただ息をしていることの素晴らしさが、やっと私はわかったのや」
・どれほどの難関が待ち受けていようとも、人は浮上の過程にある限り、それを辛いと思わず乗り越えて行くことができるのです。
・小学校を出たばかりの女の子が、功徳を願わずに、ただ心のよりどころとして無心に筆を動かした。それがたまたま「法華経」であったということが、とても尊いと今ふりかえって思います。
・いちばん大事なことは、自分を偽らないこと。そして、真実を語ること。それに伴うリスクなど、一度死んだと思えばどうということもありません。そう、私は三十九歳で一度死んだのです。
・あの事故がなければ、今、生かされて、ここにあることの歓びを、真に理解することは難しかっただろうということです。
・料理は「君がため」につくるからこそおいしくできると信じているので、つくりおきをしたことは一度もなく、生きた仏さまのためには一切の手抜きもありません。私が嫌うのは、しきたりではなく、しきたりに縛られる心なのです。
・衆生本来仏なり。白隠禅師さまはそう説破されました。
・こういう勇気と元気を貰える。温かい人が今僕らの目の前にいてくれる、それだけで充分なのです。その人がたまたま尼さんなんだ、そういうことだけでいい、そう思います。(巻末の永六輔筆)
蛇足ですが、素晴らしい本書を頂いた四ッ谷荒木町イル・バッショの志賀さんに感謝いたします。
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「ごま豆腐天下一」の庵主さん一代記 ほんまもんでいきなはれ (文春文庫 む 14-1) 文庫 – 2009/2/10
村瀬 明道尼
(著)
温もりのある語りはテレビでおなじみ。精進料理は天下一。9歳で仏門に入った月心寺の「庵主さん」がたどった波乱万丈の感動人生!
- 本の長さ317ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2009/2/10
- ISBN-104167753480
- ISBN-13978-4167753481
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2009/2/10)
- 発売日 : 2009/2/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 317ページ
- ISBN-10 : 4167753480
- ISBN-13 : 978-4167753481
- Amazon 売れ筋ランキング: - 525,326位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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2019年12月31日に日本でレビュー済み
2010年3月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
走り井の井戸をNHKテレビの放送で見た時、秋の季節の時分で何か江戸時代から東海道の京の最後の休憩場所の趣が伝わるものがありました。
この井戸をお守りしている人とはどの様な方かと興味を持ち読まさして戴きました。
この井戸をお守りしている人とはどの様な方かと興味を持ち読まさして戴きました。
2013年7月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
尼さんの世界って余り良く知らなかったのですが 人生の良い勉強になったし とても面白かったです
他の本も是非読んでみたいと思いました
他の本も是非読んでみたいと思いました
2010年1月6日に日本でレビュー済み
千住真理子の奏でるバイオリンの美しい主題歌で心を和ませてくれたNHK朝の連続ドラマ『ほんまもん』のモデルとなった、実在の(いまでも健在)の尼僧が語る波乱万丈の人生。
これぞまさに波乱万丈、まことにもってすさまじいまでの激しい人生である。
京都の尼寺での厳しい修業の日々、生涯最大の恋愛とその後の瀕死の交通事故からの奇跡的な生還、そして「ごま豆腐」天下一になるまで。
「ごま豆腐」を毎日作り続ける毎日にも毀誉褒貶の評価がつきまとうが、これもまた仏道、と己の選んだ道を後悔せずに生き抜くすがすがしさ。
読みだすうちに、文庫本カバーのおだやかな笑顔からはうかがい知れない激しい人生を知り、本来は辛気臭いはずの尼僧の人生、お寺の経営問題にも興味をもって読みふけっている自分を見出した。
「ほんまもん」の人生がここにある。
これぞまさに波乱万丈、まことにもってすさまじいまでの激しい人生である。
京都の尼寺での厳しい修業の日々、生涯最大の恋愛とその後の瀕死の交通事故からの奇跡的な生還、そして「ごま豆腐」天下一になるまで。
「ごま豆腐」を毎日作り続ける毎日にも毀誉褒貶の評価がつきまとうが、これもまた仏道、と己の選んだ道を後悔せずに生き抜くすがすがしさ。
読みだすうちに、文庫本カバーのおだやかな笑顔からはうかがい知れない激しい人生を知り、本来は辛気臭いはずの尼僧の人生、お寺の経営問題にも興味をもって読みふけっている自分を見出した。
「ほんまもん」の人生がここにある。