「租税に関する事実の集合である」「知識」ではなく、「租税の『知識』を体系的に秩序立てて、自己の人生との関連で位置づける」「租税の『理解』」を目指して書かれた入門書だという。新書だが、著者のこれまでの研究を踏まえた重厚な書になっている。お気楽に読める入門書ではない。
著者は「1990年代以降の日本の租税政策の特色は、高額所得者と法人所得に焦点を絞って減税を実施していく点にあり(p.205)」、その背景には「トリクル・ダウン効果」に象徴される「上げ潮」的減税の論理があったが、それは現実的に破綻した(経済格差は広がり、しかも経済も成長しなかった)と述べる。
それに対して、著者が「ヴィジョン型税制改革のアジェンダ(p.240)」として挙げるのは、
①「所得税の累進性を高めていくこと(p.240)」
②「消費税を所得税と並ぶ基幹税として設定すること(pp.244)」
③補完税としての「環境関連税制(p.246)」と資産課税(p.248)を設定すること
④「地方分権の視点から税源配分を見直すということ(p.249)」
⑤「税務行政上の技術革新(p.249)」
である。
著者の批判は時に辛辣で
1 租税原則についての「人間の歴史の重さを理解せずに、日本のメディアは租税原則といえば、〝公平、中立、簡素〟だと思い込んでいます。(p.116)」「〝公平、中立、簡素〟という租税原則は、古き市民革命時代の租税原則の蘇りなのです。(p.122)」
2 「これまでの租税改革をみると、目先だけの利益を求める邪な力に繰り返し攻撃され、悲しいまでに選択を誤ってしまったということができる(p.250)」
等は日本政治・経済・社会への警鐘だろう。ちなみにメディアに限らず財務省も租税原則は「公平、中立、簡素」としている。
その他、
3 「シティからの政治的中立性を保ち、民主主義を守るために、グラッドストーンが考え出したのが、『郵便貯金』だった(p.58)」
4 (直接税である法人税についても)「法人が税転嫁するという多くの実証研究が発表されている(p.131)」
5 (付加価値税の前段階税額控除方式では)「免税業者は取引関係から排除され」また「納税について納税者間で相互にチェックする自動制御効果が働く(pp.177-178)」
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税金常識のウソ (文春新書) 新書 – 2013/1/20
神野 直彦
(著)
財政危機が叫ばれ、税と社会保障の一体改革が議論の遡上にのぼる一方で、あまりの複雑さゆえに、全体像がよくわからない日本の税体系。消費税増税は今後の日本経済にどういう影響を与えるのか、富裕税を課税すべきか否か、といった具体的な議論をするその前に、そもそも租税とは何かを知ることが大切なのではないか。日本がギリシャのように国家破綻などしない理由とは? 「納めるもの」というよりも「とられるもの」という日本人の租税に対する「悪」の意識はどこに起因するのか? といった疑問をひもときながら、財政政策に長年携わってきた著者が、社会をデザインするための租税の本質をわかりやすく説く。
- 本の長さ255ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2013/1/20
- ISBN-104166608975
- ISBN-13978-4166608973
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2013/1/20)
- 発売日 : 2013/1/20
- 言語 : 日本語
- 新書 : 255ページ
- ISBN-10 : 4166608975
- ISBN-13 : 978-4166608973
- Amazon 売れ筋ランキング: - 360,856位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2014年11月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
税金位常識とは難しいのですあります。
いい本です。
もっとよまなくては!
いい本です。
もっとよまなくては!
2013年1月26日に日本でレビュー済み
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おそらく学生やビジネスパースンにとって、財政学は金融論やファイナンス論のような華やさがなく、存在感も希薄な学問であろう。レビュアーが学生時代に受講した財政学の講義や教科書もまことに魅力に乏しいものであった。その後遺症か、随分と久しく財政学者の著作を手にしたことがなかった。しかし、ここ数年来の欧州危機の本質は他ならぬ財政問題であること、またわが国においても新政権の発足により、財政の健全化に向けた新たな取り組みが期待されていることから、財政問題への関心を新たにされた読書人も少なくないであろう。どのような問題であれ一流の研究者の問題提起と分析視点には教えられるところが多い。本書では、第1章「租税国家の危機」に示された財政と租税の本質論も鮮やかでわかりやすい。第7章「国と地方の分かち合い」、終章「未来のビジョン」も大変参考になった。財政問題における「将来世代」に属する若い学生諸君には特に一読を勧めたい。また、「おわりに」において示された奥さまに対する謝辞は、著者のお人柄が偲ばれるようであり、レビュアーは深い感銘を受けた。
2013年5月21日に日本でレビュー済み
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「公」とは、「社会構成員の誰でもが利用できるという事が前提となっている状態」を指す。その意味においては、日本には「公」の状態は存在していない。「官」という強制力を持つ違った姿の「公」が存在するだけである。
2016年9月28日に日本でレビュー済み
税金が高くて、とられるばっかり、しかも無駄遣いばっかりして。と愚痴っている人にぜひこの本を読んでほしいと思います。著者の神野さんは、財政学や租税論の大家です。政府税調の委員もされていたと思います。そんな作者が税金に対する日本の国民の意識が今、危機的な状況になっているのではないかとこの本では警鐘を鳴らしているのです。
まず、作者は財政赤字について、解説してくれています。ギリシャのようになるのではないか。でも作者は日本の借金である公債はすべて内国債として発行されているので、ギリシャのようにニッチもサッチにもいかないようなことはないとしています。しかし、公債を発行することは、金持ちと貧乏人の格差拡大につながるようになってしまうとも言っていますので、そこ租税の仕組みで調整する必要があるとも解説してくれています。
この本でも解説されていますが、日本の租税制度が一番いけないところは、税の累進性を弱めながら、小さな政府。つまり自己責任社会をつくろうとしているところにあると感じました。これでは、社会全体が分かち合いの感覚で、生活していくことにはなりません。どうしてもぎすぎすした人間関係になってしまうのではないかと思います。作者が再三述べていますが、税による分かち合いというものが行われるようになれば、国民統合というものはむしろ進むというのです。また、税金を安くすると民間の消費が伸びて、経済が成長するという幻想からも私たちは抜け出さないといけいません。トリクルダウンも同じです。存在しないってことは私たちは認識しないといけませんね。
まず、作者は財政赤字について、解説してくれています。ギリシャのようになるのではないか。でも作者は日本の借金である公債はすべて内国債として発行されているので、ギリシャのようにニッチもサッチにもいかないようなことはないとしています。しかし、公債を発行することは、金持ちと貧乏人の格差拡大につながるようになってしまうとも言っていますので、そこ租税の仕組みで調整する必要があるとも解説してくれています。
この本でも解説されていますが、日本の租税制度が一番いけないところは、税の累進性を弱めながら、小さな政府。つまり自己責任社会をつくろうとしているところにあると感じました。これでは、社会全体が分かち合いの感覚で、生活していくことにはなりません。どうしてもぎすぎすした人間関係になってしまうのではないかと思います。作者が再三述べていますが、税による分かち合いというものが行われるようになれば、国民統合というものはむしろ進むというのです。また、税金を安くすると民間の消費が伸びて、経済が成長するという幻想からも私たちは抜け出さないといけいません。トリクルダウンも同じです。存在しないってことは私たちは認識しないといけませんね。
2013年3月28日に日本でレビュー済み
文章に問題あり。たとえば,以下のような文章があります。
引用開始:
近代以前の社会では、封建領主に領有されていた本源的生産要素は、私的に領有され、要素市場で取引されます。
引用終了:
皆さんはこれをどう読みましたか。「私的に領有され、要素市場で取引され」るのは,
「本源的生産要素」でしょうが,いつの社会での話でしょうか。
「近代以前の社会」における話に読めませんか。
しかし,それでは意味が通じません。
著者の言いたかったことは,たぶんこうです。
近代以前の社会では、本源的生産要素は封建領主に領有されていたが、現代社会では、それらは私的に領有され、要素市場で取引されます。
この手の文章のまずさがいたるところに出てきます。本書(あるいは新書一般)の目的は,
読者が興味を持った主題を解説することにあるわけですから,文章の論理的な構成と理解のしやすさは,決定的に大切です。
残念ながら本書はそれが水準に達しているとは言えません。
あとがきには,本書が口述筆記で作られた可能性を示唆する記述がありますが,
そうだとすれば編集者の責任ですね。
某新聞の書評を見て買いましたが,残念です。
引用開始:
近代以前の社会では、封建領主に領有されていた本源的生産要素は、私的に領有され、要素市場で取引されます。
引用終了:
皆さんはこれをどう読みましたか。「私的に領有され、要素市場で取引され」るのは,
「本源的生産要素」でしょうが,いつの社会での話でしょうか。
「近代以前の社会」における話に読めませんか。
しかし,それでは意味が通じません。
著者の言いたかったことは,たぶんこうです。
近代以前の社会では、本源的生産要素は封建領主に領有されていたが、現代社会では、それらは私的に領有され、要素市場で取引されます。
この手の文章のまずさがいたるところに出てきます。本書(あるいは新書一般)の目的は,
読者が興味を持った主題を解説することにあるわけですから,文章の論理的な構成と理解のしやすさは,決定的に大切です。
残念ながら本書はそれが水準に達しているとは言えません。
あとがきには,本書が口述筆記で作られた可能性を示唆する記述がありますが,
そうだとすれば編集者の責任ですね。
某新聞の書評を見て買いましたが,残念です。
2013年9月30日に日本でレビュー済み
本書のタイトルから内容は税金の体系や計算ロジックの説明本と考えていたが、期待を良い意味で裏切る書物であった。本書はあるべき国家としての租税制度、つまり基幹税とするべき税、累進課税制度の必要性等を世界史的視野で解説している。
本書は日本としてあるべき租税の体系を考えさせられるものである。国家のあるべき姿を考え、そのためにどのような税体系が適しているかを考えさせられる。マスコミを通じて流布された税金の誤解を数値を上げて検証している点が、本書の奥深さであり、肝と言える。
現在日本では、財界を中心に法人税減税が声高に主張されている。法人税減税が企業の競争力を高め、ひいては日本国民の生活を豊かにするという理由で。本当にそうだろうか。本書では、逆に、租税負担率が高い方が経済成長することを各国の経済指標を用いて、解説している。租税負担が高いと、マクロ的に格差や貧困が抑えられるという。例としてスウェーデンが挙げられている。目からうろこの説明であった。その点から顧みると、日本について言えば、租税負担率等は国際的にみて極めて低い状態にあるという。
本書の最後の「おわりに」で執筆終了日が記されている。その日とは、「寒き冬の結婚記念日に」と書かれており、筆者の妻に対する思いが感じら、心温まるものであった。(2013/8/9)
本書は日本としてあるべき租税の体系を考えさせられるものである。国家のあるべき姿を考え、そのためにどのような税体系が適しているかを考えさせられる。マスコミを通じて流布された税金の誤解を数値を上げて検証している点が、本書の奥深さであり、肝と言える。
現在日本では、財界を中心に法人税減税が声高に主張されている。法人税減税が企業の競争力を高め、ひいては日本国民の生活を豊かにするという理由で。本当にそうだろうか。本書では、逆に、租税負担率が高い方が経済成長することを各国の経済指標を用いて、解説している。租税負担が高いと、マクロ的に格差や貧困が抑えられるという。例としてスウェーデンが挙げられている。目からうろこの説明であった。その点から顧みると、日本について言えば、租税負担率等は国際的にみて極めて低い状態にあるという。
本書の最後の「おわりに」で執筆終了日が記されている。その日とは、「寒き冬の結婚記念日に」と書かれており、筆者の妻に対する思いが感じら、心温まるものであった。(2013/8/9)
2013年4月27日に日本でレビュー済み
目が不自由になったというベテラン財政学者による、口述筆記らしい気配を残した租税評論。もっとも、論旨は十分に論理的で、入門書にふさわしい平明さもあった(消費税を解説した第5章を除く)。「租税の知識ではなく、理解を」(251頁)という関心を持つ向きには、おおむね推奨できる1冊だと思う。
まず、目を引いたのは、日本の財政赤字削減(財政再建)論には、国債が持つ特質に対する洞察が不足している、という指摘(第1章)。底流には、市場原理主義に立った「官から民へ」路線(をベースにした財政再建論)に対する批判が込められ、それが、財政再建には「本来の財政の機能」を取り戻すという視点が伴っていなければならないという主張につながっていく。単に財政赤字を減らせ、というだけでは一面的だということのようだ。また、多くの先進諸国では、まず歳出(予算)が法律として決定され、それに基づいて歳入(税収ほか)を決めていく「量出制入」が財政上の公準になっているのに、日本では歳入見込みが歳出を制約する、という逆の関係になっているとの批判(第3章)も、興味深かった。さらに、今後のヴィジョン型税制改革には、政府財政を「中央政府」「地方政府」「社会保障基金」の三つに分けて考えるべきだろう、というアイデア(第7章)には、それなりに触発されもした。
あとは余談。著者はドイツや英米の学者を紹介・引用するとき、「偉大な財政学者ワグナー」の「偉大な」みたいな冠をつけるケースと、名前だけを記すケースを使い分けている。著者の主観が入っているということだろうが、この点、面白く「深読み」させられた。もう一つは、島根大学の「保田武彦教授」のコメントの紹介(104頁)。ここはたぶん「保母武彦名誉教授」だろうと思う。個人名を間違ってはいけません。
まず、目を引いたのは、日本の財政赤字削減(財政再建)論には、国債が持つ特質に対する洞察が不足している、という指摘(第1章)。底流には、市場原理主義に立った「官から民へ」路線(をベースにした財政再建論)に対する批判が込められ、それが、財政再建には「本来の財政の機能」を取り戻すという視点が伴っていなければならないという主張につながっていく。単に財政赤字を減らせ、というだけでは一面的だということのようだ。また、多くの先進諸国では、まず歳出(予算)が法律として決定され、それに基づいて歳入(税収ほか)を決めていく「量出制入」が財政上の公準になっているのに、日本では歳入見込みが歳出を制約する、という逆の関係になっているとの批判(第3章)も、興味深かった。さらに、今後のヴィジョン型税制改革には、政府財政を「中央政府」「地方政府」「社会保障基金」の三つに分けて考えるべきだろう、というアイデア(第7章)には、それなりに触発されもした。
あとは余談。著者はドイツや英米の学者を紹介・引用するとき、「偉大な財政学者ワグナー」の「偉大な」みたいな冠をつけるケースと、名前だけを記すケースを使い分けている。著者の主観が入っているということだろうが、この点、面白く「深読み」させられた。もう一つは、島根大学の「保田武彦教授」のコメントの紹介(104頁)。ここはたぶん「保母武彦名誉教授」だろうと思う。個人名を間違ってはいけません。