原著はIncognito: The Secret Lives of the Brain (Vintage)、〈イタリア語〉匿名者の意味である。私が私だと意識しているものは、脳のほんの一部分に過ぎず、匿名であり、意識がコントロールできない部分を脳の大部分が占めるという衝撃の事実が述べられる。
しかも、4歳ぐらいであれば、脳の半分を失ったとしても、片方の脳が失った分を補い、普通に活動することすら可能なのだという。われわれの想像を超える複雑で天文学的な数のシナプスという名の回路の結びつきが意識をも構成するが、大部分は意識が立ち入り禁止されている活動であり、自分が決定しているという意識も、無意識での葛藤の結果にすぎないと著者は喝破する。
この本を読んで、悩むことが馬鹿らしくなった。あまりにも高機能な脳というコンピューター、つまりソフトなハードウェアを我々は個々に与えられているのである。書物により、事実や他の脳の思考を知ることはためになる一方、自分にあるほとんど無尽蔵とも思える脳という資源を活かさない手はない。
俗に霊というものを見れる人がいるし、ポルターガイスト現象もあり、霊界については私の遺言 (新潮文庫)を読むと信じたくなるのだが、これは、意識が入り込めない脳が見せているものであろう。だから、見えている人は嘘を言っているわけではない。しかし、その人の脳の中で見えているものなので、物理的に捕獲はできないし、他人が見ることはできない。
視点を変えて物事を見るには打って付けの書籍である。常識や他人からの暗示やハラスメントでがんじがらめになるほど馬鹿らしいことはないと、大きくものの考え方が前進した。
参考になった箇所の一部を下記に記す。
→隠れて活動しているのは、宇宙一複雑な1300グラムのピンク色でゼリー状の器官、脳
意識に上る「自分」が平穏に暮らせるよう、献身的に働いている脳という器官
→わたしたちは体液の満ちた管と、何十億という踊る細胞内部の通路を滑るように動く化学物質だけで成り立っている。
何兆ものシナプスが同時に会話している。
この広大な卵のような構造の超薄型回路は、現代科学には思いもよらないアルゴリズムを実行している。
私たち自身は私たちが内観で直感的に捉えていたより優れたものなのだ。
→人間の生物学の有意義な理論を科学と物理学に還元することはできない
進化、競争、報酬、欲求、評価、強欲、友情、信頼、飢餓といった独自の語彙で理解するべき
→生体内プロセスだけでも環境だけでも最終的な人格は決まらない
自分という人間をつくるメカニズムは単純ではなく、要素とパーツから心を組み立てる方法を科学が理解するには至っていない
遺伝子と環境の相互作用が計り知れないほど複雑
→しばしば神の声を聞く
歴史上の預言者、殉教者、そして指導者の一部は、側頭葉てんかんを患っていたようである
ジャンヌ・ダルク 16歳の少女
自分が大天使聖ミカエル、アレクサンドリアの聖カタリナ、聖マルガリタ、そして聖ガブリエルの声を聞いていると信じていた。そしてフランス人兵士に信じさせた。
脳のしかるべき場所で活動に火つくと、人は声を聞く
私たちの現実は生体がどうしているかに左右される
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意識は傍観者である: 脳の知られざる営み (ハヤカワ・ポピュラーサイエンス) 単行本 – 2012/4/6
デイヴィッド・イーグルマン
(著),
大田 直子
(翻訳)
人は通例、「自分」イコール「自分の意識」と思っている。あなたもそうだろう。では、あなたが日ごろ意識的に行なっていることは、脳の活動のどれほどを占めるかご存じだろうか。それは実は、氷山の一角でしかない。最新の脳科学の成果によれば、むしろあなたの意識は自分の脳について最も無知な、「傍観者」と言っていい存在なのである。 あなたは何かを見ているつもりでも、それは現実そのままではない。あなたの時間感覚も、現実とは微妙にズレている・・・・・・意識が動作を命じたとき、その動作はすでに行なわれているのだ! 巧妙な設定の実験によって確かめられている、これらのことが事実なら、結果が原因の先にあることになり、ものごとの因果関係が逆転してしまわないか。さらには、ヒトが自分の行動を意識でコントロールできないなら、その行動の責任は誰が、どう取るべきなのか……最新脳科学が明かす、心と脳の予想に反したあり方を、平易かつみずみずしく活写。ニューヨークタイムズ・ベストセラーリストに15週にわたって載った科学解説書が、満を持して登場。
- 本の長さ368ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2012/4/6
- ISBN-104152092920
- ISBN-13978-4152092922
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商品の説明
著者について
著者=デイヴィッド・イーグルマン(David Eagleman):アメリカ、ニューメキシコ州生まれ。イギリスのライス大学で英文学を修めたのちにベイラー医科大学で神経科学のPh.D.を取得。現在は同大学で認知行動学研究室を主宰する神経科学者。《サイエンス》《ネイチャー》等に科学論文が多数掲載されており、著書に英米でベストセラーとなった本書INCOGNITOのほか、『脳神経学者の語る40の死後の物語』、『脳の中の万華鏡』(リチャード・サイトウィックと共著)などがある。
訳者略歴=大田直子 (おおた・なおこ):翻訳家。東京大学文学部社会心理学科卒。訳書にグリーン『隠れていた宇宙』、サックス『心の視力』『音楽嗜好症』、リドレー『繁栄』(共訳)、オレル『明日をどこまで計算できるか?』(共訳、以上早川書房刊)、サトゥリス『徒歩で行く150億年の旅』、メレディス『インドと中国』、ロオジエ『関係の法則』ほか多数。
訳者略歴=大田直子 (おおた・なおこ):翻訳家。東京大学文学部社会心理学科卒。訳書にグリーン『隠れていた宇宙』、サックス『心の視力』『音楽嗜好症』、リドレー『繁栄』(共訳)、オレル『明日をどこまで計算できるか?』(共訳、以上早川書房刊)、サトゥリス『徒歩で行く150億年の旅』、メレディス『インドと中国』、ロオジエ『関係の法則』ほか多数。
登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2012/4/6)
- 発売日 : 2012/4/6
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 368ページ
- ISBN-10 : 4152092920
- ISBN-13 : 978-4152092922
- Amazon 売れ筋ランキング: - 258,686位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 10,512位医学・薬学・看護学・歯科学
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裏表紙が破れてた
まだ読んでませんが、届いたときから裏表紙が破れてました。ずっと置いてたらいつか破れるだろうからこのくらいなら許容しますが、イラッとはしましたよ。
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2012年11月17日に日本でレビュー済み
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2016年1月25日に日本でレビュー済み
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面白い本ですが少々くどい気がします、
前半だけで十分な感じですね。
前半だけで十分な感じですね。
2018年1月13日に日本でレビュー済み
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1990年のブッシュ大統領による「脳の10年宣言」で脳科学の研究は急速に進みました。様々な研究が発表され医学、教育、コンピューターなどに成果が顕著です。
アメリカの研究費は5800億円で日本の250億円と比べ、格段の差があります。
2013年にはオバマ大統領が「ブレイン・イニシャチブ」を発表し、さらに研究への取組が進んでいます。日本やEUもアメリカの後追いで脳科学研究に取り組んでいます。
「意識は傍観者である」は2013年発行で、最新の脳科学の成果が述べられています。脳研究の進展で、従来の法律判断がどう変わるべきかにも言及しています。
自然科学の成果が、社会科学へ影響が現れ始めています。
前半では、最新の脳科学研究について述べています。科学者達があれこれと色んな実験をして脳の実態に迫っています。なるほどと思うような新たな知識が得られます。
マイケル・サンデルの「これから正義の話をしよう」に出てくる、命の損得勘定のエピソードで「5人の命を救うために、あなたは一人を殺すべきか」という問題が出てきました。
サンデルはこの事例で、倫理・道徳・哲学を問うていますが、イーグクマンは、それぞれの事例で人を殺す時に脳が反応する部分が違っているという研究結果述べています。罪悪感も脳が反応する部分によって違うという研究結果を掲げて、問題を違った角度から捉えています。
哲学の問題でなく脳科学の問題だということです。
これは怖いことで、殺人に対する罪悪感を軽くする方法が可能だということを意味しています。戦場に赴く兵士に対するマインドコントロールに使われる可能性があります。もう使われているかも知れません。躊躇なく罪悪感のなしで敵を殺す兵士を有すれば軍隊の指揮者から見ると頼もしいことでしょう。
浮気の遺伝子解明も進んでおり、バソプレシン受容体遺伝子が多い人間ほど浮気をする傾向が強いことがデータで明確になりました。伴侶選択の際に、この遺伝子結果提出を要求されたら困る男女が出そうです。
今年3月、ドイツの飛行機が精神疾患により将来を絶望した副操縦士の自殺の道連れのような墜落で150名が亡くなりました。
日本でも1982年に統合失調症の機長が、羽田空港に着陸するとき、エンジンを逆噴射させ墜落させ24名が亡くなりました。機長は、心神喪失で不起訴で罪を問われていません。亡くなった乗客とその家族はふんだり蹴ったりでした。
様々な脳疾患による異常行動と犯罪は、罰することが出来るのかという問いを投げかけています。従来にない脳疾患が分かってきました。
イーグルマンは、脳科学研究の進展で、従来よりも有責性を問うことが出来ない脳疾患が発見されており、法の適用再検討を提唱しています。再犯防止のための脳トレーニングにも触れています。
具体例が多く、楽しい読み物でした。ベストセラーになったのもナットクです。
アメリカの研究費は5800億円で日本の250億円と比べ、格段の差があります。
2013年にはオバマ大統領が「ブレイン・イニシャチブ」を発表し、さらに研究への取組が進んでいます。日本やEUもアメリカの後追いで脳科学研究に取り組んでいます。
「意識は傍観者である」は2013年発行で、最新の脳科学の成果が述べられています。脳研究の進展で、従来の法律判断がどう変わるべきかにも言及しています。
自然科学の成果が、社会科学へ影響が現れ始めています。
前半では、最新の脳科学研究について述べています。科学者達があれこれと色んな実験をして脳の実態に迫っています。なるほどと思うような新たな知識が得られます。
マイケル・サンデルの「これから正義の話をしよう」に出てくる、命の損得勘定のエピソードで「5人の命を救うために、あなたは一人を殺すべきか」という問題が出てきました。
サンデルはこの事例で、倫理・道徳・哲学を問うていますが、イーグクマンは、それぞれの事例で人を殺す時に脳が反応する部分が違っているという研究結果述べています。罪悪感も脳が反応する部分によって違うという研究結果を掲げて、問題を違った角度から捉えています。
哲学の問題でなく脳科学の問題だということです。
これは怖いことで、殺人に対する罪悪感を軽くする方法が可能だということを意味しています。戦場に赴く兵士に対するマインドコントロールに使われる可能性があります。もう使われているかも知れません。躊躇なく罪悪感のなしで敵を殺す兵士を有すれば軍隊の指揮者から見ると頼もしいことでしょう。
浮気の遺伝子解明も進んでおり、バソプレシン受容体遺伝子が多い人間ほど浮気をする傾向が強いことがデータで明確になりました。伴侶選択の際に、この遺伝子結果提出を要求されたら困る男女が出そうです。
今年3月、ドイツの飛行機が精神疾患により将来を絶望した副操縦士の自殺の道連れのような墜落で150名が亡くなりました。
日本でも1982年に統合失調症の機長が、羽田空港に着陸するとき、エンジンを逆噴射させ墜落させ24名が亡くなりました。機長は、心神喪失で不起訴で罪を問われていません。亡くなった乗客とその家族はふんだり蹴ったりでした。
様々な脳疾患による異常行動と犯罪は、罰することが出来るのかという問いを投げかけています。従来にない脳疾患が分かってきました。
イーグルマンは、脳科学研究の進展で、従来よりも有責性を問うことが出来ない脳疾患が発見されており、法の適用再検討を提唱しています。再犯防止のための脳トレーニングにも触れています。
具体例が多く、楽しい読み物でした。ベストセラーになったのもナットクです。
2018年9月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書の原題は『Incognito』で、訳は‘匿名の’‘知られないで’などです。イタリア語を語源としているようです。これを『意識は傍観者である』とするのは意訳が過ぎるようですが、著者はこう言いたかったのだと推察できますので、適切なのではないでしょうか。ただし、意識の生物学的な起源はわかっていないことに変わりはなく、本書に意識の解明を期待することはできません。本書の要約としては、「脳の領域はそれぞれ独立し、互いに競い合っており、ライバルとしてチームをつくる(第5章より)」といったところでしょう。
意識を創り出す脳の仕組みはわかっていませんが、意識はライバルたちの脳の活動を他人のように見ているのです。だから『意識は傍観者』なのですが、意識は自分だけが「私」であると思いこんでいます。「私」の意識は氷山の一角のように小さいにもかかわらず。このような比喩は既にフロイトの無意識論に登場しています。20世紀のフロイトを持ち出すのなら、17世紀の哲学者ライプニッツは、自覚されない知覚があると提唱し、これを「微小知覚」と名付け、さらに意識にはのぼらない希求ないし欲求があると予測しました。(1章より)
また、人は多様性に富んだ世界を5感で認知しています。動物たちがそれぞれ違って世界を認知するように、5感もそれぞれ違った世界を捉えています。いずれも鏡のように外界をあるがままに受け取ったものではありません。(2章と4章)
あるがままでなく錯覚や思い込みをするのは、恐らく効率を上げるためでしょう。哲学的にいえば、対象(存在)は認識される特徴や性質以上のものであるということです。
5感がある理由は、ああでもあり、こうでもあるというふうに冗長性(じょうちょうせい)を増すことによって、安定性・安全性を増すためと思われます。
6章は神経倫理学(neuroethics)への序章です。『意識は傍観者』という発想は、無意識の脳がそうさせたと主張していると取られかねません。つまり、犯罪は無意識脳のせいなので罪を問えないと誤解されかねませんし、それに関連して、自由意思はないのだと主張しているとも取られるかもしれません。
著者は犯罪者の更生策に、前部前頭葉(前頭前野)トレーニングをすることを提案しています(p.243)。恐らく賛否両論があろうと思われますが、著者はトレーニングの目的は、「脳内の政党間討論会のための公平な場を用意し、行動する前に熟慮すること」と述べています(p.244)。不都合な行動の修正に、薬やカウンセリングばかりでなく、脳トレが加わるかもしれません。今後、脳科学から目が離せません。
意識を創り出す脳の仕組みはわかっていませんが、意識はライバルたちの脳の活動を他人のように見ているのです。だから『意識は傍観者』なのですが、意識は自分だけが「私」であると思いこんでいます。「私」の意識は氷山の一角のように小さいにもかかわらず。このような比喩は既にフロイトの無意識論に登場しています。20世紀のフロイトを持ち出すのなら、17世紀の哲学者ライプニッツは、自覚されない知覚があると提唱し、これを「微小知覚」と名付け、さらに意識にはのぼらない希求ないし欲求があると予測しました。(1章より)
また、人は多様性に富んだ世界を5感で認知しています。動物たちがそれぞれ違って世界を認知するように、5感もそれぞれ違った世界を捉えています。いずれも鏡のように外界をあるがままに受け取ったものではありません。(2章と4章)
あるがままでなく錯覚や思い込みをするのは、恐らく効率を上げるためでしょう。哲学的にいえば、対象(存在)は認識される特徴や性質以上のものであるということです。
5感がある理由は、ああでもあり、こうでもあるというふうに冗長性(じょうちょうせい)を増すことによって、安定性・安全性を増すためと思われます。
6章は神経倫理学(neuroethics)への序章です。『意識は傍観者』という発想は、無意識の脳がそうさせたと主張していると取られかねません。つまり、犯罪は無意識脳のせいなので罪を問えないと誤解されかねませんし、それに関連して、自由意思はないのだと主張しているとも取られるかもしれません。
著者は犯罪者の更生策に、前部前頭葉(前頭前野)トレーニングをすることを提案しています(p.243)。恐らく賛否両論があろうと思われますが、著者はトレーニングの目的は、「脳内の政党間討論会のための公平な場を用意し、行動する前に熟慮すること」と述べています(p.244)。不都合な行動の修正に、薬やカウンセリングばかりでなく、脳トレが加わるかもしれません。今後、脳科学から目が離せません。