パイロットの実際の感覚を、私たち読者が疑似経験できる筆致が、魅力的です。
テグジュペリ自身の生の経験が、彼の詩的・文学的才能と交わることで、本書『夜間飛行』という傑作が誕生したのでしょう。
主人公である、支配人リヴィエールは常に孤独で、常に闘い続けています。
そして、常に重い責任を背負っています。
前例のない挑戦であるため、いわゆる｢正解｣もありません。
正しい保証すら得られず、多くの矛盾を抱えたまま、リヴィエールはひたむきに自己の本分を全うしようとします。
いっぽう、この物語の最大の悲劇は、パタゴニア便のパイロット・ファビアンと同乗の無線通信士、二名の墜落事故です。
最悪の事態が、最高の美的景色を絡ませて描写されています。
夜間の暴風雨に巻き込まれたファビアンたちは、何時間も闇の嵐を飛び続けました。
そしてついに無謀な上昇をおこない、雲の上に浮かび出たのです。
残りの燃料もほとんど無くなり、墜落は確実となったにも拘わらず、ファビアンと通信士は互いに微笑しました。
そこには、星と雲とが織りなす、光の世界が拡がっていたのです。
本文のうしろに記載されたアンドレ・ジッドの序文、そして訳者・二木麻里氏の解説も素晴らしいと思います。
それぞれの『夜間飛行』への深い洞察と、純粋な思い入れが感じられる文章です。
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