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花ざかりの森・憂国―自選短編集 (新潮文庫) 文庫 – 1968/9/17
三島 由紀夫
(著)
エロスと大義との完全なる融合――。
その美学が凝縮された、宿命的短編「憂国」を含む、傑作自選短編集。
十六歳で、少年の倦怠を描いた作品「花ざかりの森」を発表して以来、様様な技巧と完璧なスタイルを駆使して、確固たる短編小説の世界を現出させてきた作品群から、著者自らが厳選し解説を付した作品集。著者の生涯にわたる文学的テーマや切実な問題の萌芽を秘めた「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」「詩を書く少年」「海と夕焼」「憂国」等13編を収める。
目次
花ざかりの森
中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃
遠乗会
卵
詩を書く少年
海と夕焼
新聞紙
牡丹
橋づくし
女方
百万円煎餅
憂国
月
解説 三島由紀夫
著者の言葉
一つの考えを作中で述べるのに、私はゆっくりゆっくり、手間をかけて納得させることが好きになって来て、寸鉄的物言いを避けるようになった。思想の円熟というときこえがよいが、せっかちだが迅速軽捷な聯想作用が、年齢と共に衰えるにいたったことと照応している。私はいわば軽騎兵から重騎兵へ装備を改めたのである。
ここに収めたのは、従って、私の軽騎兵時代の作品ばかりである。尤も、一概にそうは言っても、それ自体純粋に軽騎兵的な作品もあれば、重騎兵への移行を重苦しく内に秘め、もっぱらその調練のために書かれた作品もある。
(本書「解説」より)
三島由紀夫(1925-1970)
東京生れ。本名、平岡公威(きみたけ)。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、1954年『潮騒』(新潮社文学賞)、1956年『金閣寺』(読売文学賞)、1965年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。1970年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。
その美学が凝縮された、宿命的短編「憂国」を含む、傑作自選短編集。
十六歳で、少年の倦怠を描いた作品「花ざかりの森」を発表して以来、様様な技巧と完璧なスタイルを駆使して、確固たる短編小説の世界を現出させてきた作品群から、著者自らが厳選し解説を付した作品集。著者の生涯にわたる文学的テーマや切実な問題の萌芽を秘めた「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」「詩を書く少年」「海と夕焼」「憂国」等13編を収める。
目次
花ざかりの森
中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃
遠乗会
卵
詩を書く少年
海と夕焼
新聞紙
牡丹
橋づくし
女方
百万円煎餅
憂国
月
解説 三島由紀夫
著者の言葉
一つの考えを作中で述べるのに、私はゆっくりゆっくり、手間をかけて納得させることが好きになって来て、寸鉄的物言いを避けるようになった。思想の円熟というときこえがよいが、せっかちだが迅速軽捷な聯想作用が、年齢と共に衰えるにいたったことと照応している。私はいわば軽騎兵から重騎兵へ装備を改めたのである。
ここに収めたのは、従って、私の軽騎兵時代の作品ばかりである。尤も、一概にそうは言っても、それ自体純粋に軽騎兵的な作品もあれば、重騎兵への移行を重苦しく内に秘め、もっぱらその調練のために書かれた作品もある。
(本書「解説」より)
三島由紀夫(1925-1970)
東京生れ。本名、平岡公威(きみたけ)。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、1954年『潮騒』(新潮社文学賞)、1956年『金閣寺』(読売文学賞)、1965年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。1970年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。
- ISBN-104101050023
- ISBN-13978-4101050027
- 版改
- 出版社新潮社
- 発売日1968/9/17
- 言語日本語
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- 本の長さ286ページ
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登録情報
- 出版社 : 新潮社; 改版 (1968/9/17)
- 発売日 : 1968/9/17
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 286ページ
- ISBN-10 : 4101050023
- ISBN-13 : 978-4101050027
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 142,787位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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(1925-1970)東京生れ。本名、平岡公威。
1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。
主な著書に、1954年『潮騒』(新潮社文学賞)、1956年『金閣寺』(読売文学賞)、1965年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。1970年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2023年9月26日に日本でレビュー済み
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物語に出てくる表現が美しく、表現を磨く勉強になりました。
2019年6月19日に日本でレビュー済み
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一番面白かったのは作者自身による解説。
いくつかの短編を「コント」と言いきっているところが三島らしいと思った。
「憂国」は文章がそのまま映像に結びつく描写だと思った。「女方」「牡丹」は好きな作品。
いくつかの短編を「コント」と言いきっているところが三島らしいと思った。
「憂国」は文章がそのまま映像に結びつく描写だと思った。「女方」「牡丹」は好きな作品。
2020年8月17日に日本でレビュー済み
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三島由紀夫には短編小説というイメージはなかったのですが、「憂国」を読みたくて、購入しました。この作品がその後の運命と大きく関わっている作品と知っていたからです。ただ、内容についての予備知識は全く無しでした。格調高い、気難しい文章をたくさん読むことになりそうだと覚悟していましたが、全く違いました。
最初の1作「花ざかりの森」はやや不安的中の部分もありますが、多くの作品はユーモアに溢れ、作者の軽妙なエンターテイナーの資質が全開の作品が多いです。上流階級の遠乗りや歌舞伎の世界から、ビート族とジャズや浅草の世界まで。暑苦しい体育会系の大学生達に、少年詩人もいます。多彩です。作者が嫌っていたらしい太宰治も短編の名手で、私はとても好きですが、三島由紀夫の短編は全く違う雰囲気。エンターテイナーを感じるのは共通かもしれませんが、太宰治の方が、装飾や小道具無しで主題の中に作者と読者が一緒に入っていく感じでしょうか。三島の方は装飾や小道具をうまく散りばめて、その世界に読者を引き込んでいく感じがします。名人芸を観客席から観ている感じがします。多彩さも含め、芸能的な要素が強いということですかね。軽妙さとユーモアが楽しい。
「憂国」はユーモア無しの作品で、その後の作者の運命を知っている読者が読むと、凄まじい緊張感と重さ、圧力に圧倒されてしまい、何度か小休止しないと読めない作品でした。ハラキリとはどういうことなのか、先生にはよく分かっていたわけですね。
また、解説を作者本人が書いているのが素晴らしいです。昭和43年9月。自決したのは昭和45年11月25日です。
最初の1作「花ざかりの森」はやや不安的中の部分もありますが、多くの作品はユーモアに溢れ、作者の軽妙なエンターテイナーの資質が全開の作品が多いです。上流階級の遠乗りや歌舞伎の世界から、ビート族とジャズや浅草の世界まで。暑苦しい体育会系の大学生達に、少年詩人もいます。多彩です。作者が嫌っていたらしい太宰治も短編の名手で、私はとても好きですが、三島由紀夫の短編は全く違う雰囲気。エンターテイナーを感じるのは共通かもしれませんが、太宰治の方が、装飾や小道具無しで主題の中に作者と読者が一緒に入っていく感じでしょうか。三島の方は装飾や小道具をうまく散りばめて、その世界に読者を引き込んでいく感じがします。名人芸を観客席から観ている感じがします。多彩さも含め、芸能的な要素が強いということですかね。軽妙さとユーモアが楽しい。
「憂国」はユーモア無しの作品で、その後の作者の運命を知っている読者が読むと、凄まじい緊張感と重さ、圧力に圧倒されてしまい、何度か小休止しないと読めない作品でした。ハラキリとはどういうことなのか、先生にはよく分かっていたわけですね。
また、解説を作者本人が書いているのが素晴らしいです。昭和43年9月。自決したのは昭和45年11月25日です。
2022年4月2日に日本でレビュー済み
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三島由紀夫の代表作と言うと「潮騒」「金閣寺」「豊饒の海」と言ったところで、三島由紀夫の特徴としてはレトリック(例えの表現)を多用する、と言ったところだろう。
本書はその三島由紀夫本人が後書きで述べるところによると「重い鎧から軽い鎧に着替えた過程」だそうだ。
では重い鎧と軽い鎧とは何であろうか?
それは彼の作風の事である。
三島由紀夫のエピソードとして有名な物に、本書に収められている花ざかりの森は学習院在学中の16歳で書き上げて、学内でこいつぁ凄ぇと評判になった初めての作品と言われている。
じゃあその初めての作品てどんなのよ?と読んでみると、これを16歳が書いたのであれば凄い、最初の数ページを読んで出てくる感想だ。
「うまれた家では、夜おそくよく汽車の汽笛がひびいてきた。天井板のこみいった木目におびえて、ねつかれない子供の耳に、それが騒音というにはあまりにかぼそい」
これは花ざかりの森の導入になるのだが、ある程度文字に慣れ親しんだ人がここを読めば「おいおい、これ本当に16歳かよ」と思うだろう。事実私は負けたと思った。
しかし、読み進めて行く内に三島の悪い癖がどんどん酷くなっていく、言うなれば太陽と鉄の様に修辞にこだわり過ぎて美しい文字は書かれているけど「あなた何が言いたいの?」と言う形で物語の内容が全く響いてこなくて、結局この話は何?という感想になった。
つまり過度な修辞=重い鎧なのである。
本書は作家として円熟した時期の昭和38年までの短編が収録されていて、花ざかりの森からスタートして19年の間で三島由紀夫がどう変わったかを知る事が出来る。
と言っても過度な修辞が使われているのは花ざかりの森だけで、後は三島由紀夫を知っていてば、ああこういうのだよね三島由紀夫ってと言うような作品が多い(歌舞伎、男色、エロス、社会的地位の高い人しか出てこない、等)
またこれは私の感覚なのだが、三島由紀夫は実は長編よりも短編に向いているのではあるまいか。
長い文章をだらだら書くとそれっぽく見えるのだが(私の様に)あらかじめ誌面に今回は何ページでと決められた中で起承転結を確立するという事は実は容易ではない。
極右と言う彼の思想に抵抗感がある人も多いが、実はコメディと言える作品も非常に多い。
収録作品の卵と橋づくしは本当に三島由紀夫かと思う様な作品だった。
しかしそれでも登場人物の社会的地位が何故か高かったりと、やっぱり三島だなと思えたりする。
物語は全て短編だから毎日の通勤に使えば1週間程度で読み終わる文量なのも良い。
花ざかりの森で挫折しなければ、三島由紀夫のとりかかりとしては悪くないだろう。
本書はその三島由紀夫本人が後書きで述べるところによると「重い鎧から軽い鎧に着替えた過程」だそうだ。
では重い鎧と軽い鎧とは何であろうか?
それは彼の作風の事である。
三島由紀夫のエピソードとして有名な物に、本書に収められている花ざかりの森は学習院在学中の16歳で書き上げて、学内でこいつぁ凄ぇと評判になった初めての作品と言われている。
じゃあその初めての作品てどんなのよ?と読んでみると、これを16歳が書いたのであれば凄い、最初の数ページを読んで出てくる感想だ。
「うまれた家では、夜おそくよく汽車の汽笛がひびいてきた。天井板のこみいった木目におびえて、ねつかれない子供の耳に、それが騒音というにはあまりにかぼそい」
これは花ざかりの森の導入になるのだが、ある程度文字に慣れ親しんだ人がここを読めば「おいおい、これ本当に16歳かよ」と思うだろう。事実私は負けたと思った。
しかし、読み進めて行く内に三島の悪い癖がどんどん酷くなっていく、言うなれば太陽と鉄の様に修辞にこだわり過ぎて美しい文字は書かれているけど「あなた何が言いたいの?」と言う形で物語の内容が全く響いてこなくて、結局この話は何?という感想になった。
つまり過度な修辞=重い鎧なのである。
本書は作家として円熟した時期の昭和38年までの短編が収録されていて、花ざかりの森からスタートして19年の間で三島由紀夫がどう変わったかを知る事が出来る。
と言っても過度な修辞が使われているのは花ざかりの森だけで、後は三島由紀夫を知っていてば、ああこういうのだよね三島由紀夫ってと言うような作品が多い(歌舞伎、男色、エロス、社会的地位の高い人しか出てこない、等)
またこれは私の感覚なのだが、三島由紀夫は実は長編よりも短編に向いているのではあるまいか。
長い文章をだらだら書くとそれっぽく見えるのだが(私の様に)あらかじめ誌面に今回は何ページでと決められた中で起承転結を確立するという事は実は容易ではない。
極右と言う彼の思想に抵抗感がある人も多いが、実はコメディと言える作品も非常に多い。
収録作品の卵と橋づくしは本当に三島由紀夫かと思う様な作品だった。
しかしそれでも登場人物の社会的地位が何故か高かったりと、やっぱり三島だなと思えたりする。
物語は全て短編だから毎日の通勤に使えば1週間程度で読み終わる文量なのも良い。
花ざかりの森で挫折しなければ、三島由紀夫のとりかかりとしては悪くないだろう。
2018年4月12日に日本でレビュー済み
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三島作品に触れたことのない方はまず、この本をお勧めします。
「憂国」だけでも読む価値があります。
なぜなら、三島由紀夫本人が読んでくれと言っているからです。
彼の思想、文章の美しさ、拙さ、描写の細かさなどが凝縮しています。
僕のような初心者が、三島由紀夫を語るなんて大変おこがましいですが、とても素敵な本なのでつい、レビューしてしまいました。そんな本なのです。
「憂国」だけでも読む価値があります。
なぜなら、三島由紀夫本人が読んでくれと言っているからです。
彼の思想、文章の美しさ、拙さ、描写の細かさなどが凝縮しています。
僕のような初心者が、三島由紀夫を語るなんて大変おこがましいですが、とても素敵な本なのでつい、レビューしてしまいました。そんな本なのです。
2017年11月21日に日本でレビュー済み
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三島由紀夫の短編集は味わい深い。彼は明らかに天才だ。花ざかりの森は、ぜひ読んで頂きたい。
2017年6月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
自選短編集と銘打つだけあって、三島由紀夫自身が「私にとってもっとも切実な問題を秘めたもの・・」と解説で述べている「詩を書く少年(1954年)」「海と夕焼(1955年)」「憂国(1961年)」が収められたこの「花ざかりの森・憂国」には、早熟の天才・三島が16歳の時に執筆した詩的な「花ざかりの森(1941年)」や、浅草を舞台に庶民的かつ健康的な夫婦の秘めたる副業を題材にした「百万円煎餅(1960年)」、1960年代初期の不良・ビート族の生態を突き放したように描いた「月(1962年)」などの代表作もまとめられています。
「もし、忙しい人が、三島の小説の中から一編だけ、三島のよいところ悪いところすべてを凝縮したエキスのような小説を読みたいと求めたら、憂国 の一編を読んでもらえばよい」と三島自身が解説に記したその「憂国」が、やはり本短編集の中で最も重く、一度読んだら生涯忘れられないほど壮絶な傑作だと思います。
1936年の二・二六事件を題材にしたこの小説には、モデル(事件の3日後に、実在した中尉(31歳)が切腹により自死し、妻(23歳)もその後を追った)がいたそうですが、三島はこの原作を監督・主演までして映画化し1966年に公開しており、また、本人も1970年に自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺したことを考えると、「・・ここに描かれた愛と死の光景、エロスと大義との完全な融合と相乗作用は、私がこの人生に期待する唯一の至福である・・」との解説にも、重すぎるほどの重みを感じないわけにはいきません。月並みな表現しかできませんが、ここには、極限的な生(性)と死が描かれています。
深い友情、そして男女の愛の行きつく果てに死が待ち構えていることを、むしろ喜ぶような30歳の中尉・武山信二の心理状態が語られ、そこに読者が同化していくにつれ、過剰なまで仔細にわたる切腹の描写が、読む側に痛みを感じさせるほど克明に迫ってきます。その切腹の描写に比べると、23歳の妻・麗子の後追い自殺は、桜の花が散っていくような儚い美しさに飾られており、ここに三島は、自決を純粋で潔いものとして書きとどめたかったのだと強く感じました。
天才が遺した作品群が、結晶のように煌めいている短編集だと思います。
「もし、忙しい人が、三島の小説の中から一編だけ、三島のよいところ悪いところすべてを凝縮したエキスのような小説を読みたいと求めたら、憂国 の一編を読んでもらえばよい」と三島自身が解説に記したその「憂国」が、やはり本短編集の中で最も重く、一度読んだら生涯忘れられないほど壮絶な傑作だと思います。
1936年の二・二六事件を題材にしたこの小説には、モデル(事件の3日後に、実在した中尉(31歳)が切腹により自死し、妻(23歳)もその後を追った)がいたそうですが、三島はこの原作を監督・主演までして映画化し1966年に公開しており、また、本人も1970年に自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺したことを考えると、「・・ここに描かれた愛と死の光景、エロスと大義との完全な融合と相乗作用は、私がこの人生に期待する唯一の至福である・・」との解説にも、重すぎるほどの重みを感じないわけにはいきません。月並みな表現しかできませんが、ここには、極限的な生(性)と死が描かれています。
深い友情、そして男女の愛の行きつく果てに死が待ち構えていることを、むしろ喜ぶような30歳の中尉・武山信二の心理状態が語られ、そこに読者が同化していくにつれ、過剰なまで仔細にわたる切腹の描写が、読む側に痛みを感じさせるほど克明に迫ってきます。その切腹の描写に比べると、23歳の妻・麗子の後追い自殺は、桜の花が散っていくような儚い美しさに飾られており、ここに三島は、自決を純粋で潔いものとして書きとどめたかったのだと強く感じました。
天才が遺した作品群が、結晶のように煌めいている短編集だと思います。
2017年4月30日に日本でレビュー済み
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憂国という小説が、読みたかったです。私の記憶では、三島さん主演でアメリカで上映されたんだと思います。このDVDがほしいです。