ずいぶん前に本書を買って読みはじめたものの、最後まで読まずじまいで終わっていました。今回、ようやく読了となりました。
本書の元版は、岩波セミナーブックスの一冊としてフランス革命200周年の1989年に刊行されたものですが、評者が読んだのは、補論が付された2007年刊行の岩波現代文庫版です。
フランス革命について、マティエやソブールに代表される、戦前から長くフランスで支配的だったマルクス主義的な階級闘争史観に立った捉え方にたいして、戦後になってフランソワ・フュレらが「修正主義」(révisionnisme)」と呼ばれる立場で批判をくわえたということを評者は早くから聞き知っていましたが、ただそれが用語的によく似たいわゆる「歴史修正主義(historical revisionism/ révisionnisme historique)」的な立場と同じものを指すのかどうかずっと気になっていたものの、しかしきちんと読んで調べることを怠ったままでした。
ツン読のままだった本書を読むことで、ようやくその内容を知ったしだいです。そして、どうやらフュレたちの立場は、政治的な意図を持った歴史の書き換えというような、世に言われる「歴史修正主義」ではないということもわかったしだい。
フランス革命はブルジョワ革命だとする従来の主流派の捉えかたにたいして、貴族とブルジョワとのあいだに階級対立などはなく、18世紀に形成されていた両者の混合による新エリート層が革命を主導したのだというのが修正主義派の捉えかたのようです。
ともあれ、フランス革命というと、これもずいぶん前に観たアンジェイ・ワイダ監督、ジェラール・ドパルデュー主演の映画『ダントン』(1983年)がどうしても思い出されます。
この作品はほんらい戯曲だったものを映画化したもので、革命路線をめぐって対決するダントンやロベスピエールをはじめとする革命家たちの息づまる群像劇となっていました。ギロチンの怖ろしさのほか、映画で描かれた革命の中心的人物のひとり、峻厳峻烈なまでに高潔清廉なロベスピエールがとりわけ鮮烈に印象に残ったことを覚えています。
本書で、つぎのようにロベスピエール(1758-1794)の思想が紹介されています:
「彼の考えている理想的な社会では、全員が所有者になる。しかし巨大な所有者がいては、全員がなれないわけですから、全員が小所有者になる平等な共和国という理念です。古代ローマ共和国が理想としてうたわれています。なぜ所有が大事かといえば、人間は所有をもっていてこそ、はじめて自分の祖国を守ろうという気持ちが出てくる。所有こそが「徳」の社会的条件なのだ、とみるのです」
(ロベスピエールの死からほぼ半世紀後、社会主義者プルードン(1809-1865)はしかし、その著『所有とは何か』(1840年)で「所有は盗みである」と正反対の主張をすることになります)
本書は、フランス史の研究者による歴史学の本なので、映画や歴史小説によく見られるような人物本位・人物中心の物語風叙述とはなっていません。そこが、フランス革命を描いた映画や小説などと根本的にちがっているところです。
著者は、フランス革命を1789年から1799年までの約10年間に起こった出来事としたうえで、その経過を四つの時期に分け、反革命貴族、ブルジョワ、民衆という三つの社会勢力の配置関係から革命の展開のプロセスをたどろうとしています。
読了して、歴史学そして歴史学者における歴史把握のひとつのありかたをあらためて認識しなおした次第。思えば、昔読んだ遅塚忠躬『フランス革命―歴史における劇薬』(岩波ジュニア新書、1997年)もそういう書かれ方のものでした。
とにかく日本では、たとえば同じように激動の時代である戦国時代や幕末史・維新史などはどうしても人物本位・人物中心に語られてしまうところがあるので、本書のような歴史のとらえかたは新鮮でもあり興味深いものがあります。
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フランス革命 (岩波現代文庫 学術 189) 文庫 – 2007/12/14
柴田 三千雄
(著)
- ISBN-104006001894
- ISBN-13978-4006001896
- 出版社岩波書店
- 発売日2007/12/14
- 言語日本語
- 本の長さ331ページ
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2007/12/14)
- 発売日 : 2007/12/14
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 331ページ
- ISBN-10 : 4006001894
- ISBN-13 : 978-4006001896
- Amazon 売れ筋ランキング: - 613,705位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 258位フランス史
- - 860位岩波現代文庫
- - 1,599位ヨーロッパ史一般の本
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2015年9月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
大変良くできた著書で非常に役に立ちました。
あっという間に読み終わりました。
楽しく読めました。
有り難うございます。
あっという間に読み終わりました。
楽しく読めました。
有り難うございます。
2015年10月17日に日本でレビュー済み
下のレビューの方と相反するもので申しわけないのですが、とにかく難しかったです。それでもフランス革命に興味があったので、何度も居眠りしながらなんとか読了しました。
ある程度知識がある方にとっては、読みごたえのあるとても面白い本だと思います。でも、難しい言葉、話し言葉ならではの簡潔でない言い回し、図解のなさ…初心者にはハードル高いです。ただ、ちゃんとフランス革命を知りたいと思う人は読んで損はないです。しっかりとした、著者の真剣な研究に基づいた学術書です。
ある程度知識がある方にとっては、読みごたえのあるとても面白い本だと思います。でも、難しい言葉、話し言葉ならではの簡潔でない言い回し、図解のなさ…初心者にはハードル高いです。ただ、ちゃんとフランス革命を知りたいと思う人は読んで損はないです。しっかりとした、著者の真剣な研究に基づいた学術書です。