本書には、文化文政期を代表する戯作者のひとり、式亭三馬(1776−1822)のマスターピースの一つ『浮世風呂』(公刊、文化6〜10(1809〜13)年)をはじめ、『戯場酔言幕の外』(公刊、文化3(1806)年)、および、『大千世界楽屋探』(公刊、文化13(1816)年)の合計三作が収録されています。(本書に収められているのは、あくまでも「翻刻」であり、「現代語訳」ではありません。)
翻刻はとても丁寧で、各ページの下部にびっしりと校注が書かれ、ルビの加筆や改行・句読点の補いなども適宜なされており、これらの、時代性を強く反映した会話文の面白み・味わいによって日本文学史に独特の位置を占める作品群を、原文に即して読み通すための工夫が凝らしてあります。また、挿絵もきちんと挿入されており、挿絵中の詞書も活字化されています。
「付録」として、『浮世風呂』の関連資料ともなる「賢愚湊銭湯新話」(山東京伝作。公刊、享和2(1802)年。※文章の翻刻のみで、校注はついていない)と、『洗湯手引草』所収の「店法度書之事」(向晦亭等琳著。公刊、嘉永4(1851)年。同じく文章の翻刻のみ)がついており、さらには、校注者・神保五彌先生(1923−2009)による25頁にもおよぶ詳細な「解説」も、三馬の文学的特色と当時の時代背景・文芸事情とを絡めた興味深い考察となっています。
僕は、非常に丁寧な作りの本書を読み進めるなかで、市井の人々のリアルな「おしゃべり」に身を浸し、その強烈な息づかいを感じられました。その描写をどう受け取るかは、読む人それぞれ思うところがあるでしょうが、本書に収められた作品群が、江戸口語の記録のみならず江戸庶民の生活誌としても重大な価値を持つものであることは確かだろうとも思います。
江戸文化に興味ある方、あるいは、落語等がお好きな方も面白く読めると思います。オススメです。
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新日本古典文学大系 (86) ハードカバー – 1989/6/20
- 本の長さ480ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1989/6/20
- ISBN-104002400867
- ISBN-13978-4002400860
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1989/6/20)
- 発売日 : 1989/6/20
- 言語 : 日本語
- ハードカバー : 480ページ
- ISBN-10 : 4002400867
- ISBN-13 : 978-4002400860
- Amazon 売れ筋ランキング: - 314,995位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2014年11月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
前の評価に同じ。ありがたく感謝していますが、感想をあまりしつこくようきゅうしないでもらいたい。
2018年2月16日に日本でレビュー済み
・サノーさん一言コメント
「裸の空間で繰り広げられる、裸の世間。軽妙な語りと、絶妙な隠喩で、江戸の人々が蘇る」
【サノーさんおすすめ度★★★★★】
・ウノーさん一言コメント
「お風呂に入れば極楽です。飾りや嘘を脱ぎ捨てた江戸の人々を笑いましょう」
【ウノーさんおすすめ度★★★★★】
・サノーさん、ウノーさん読書会
サノーさん(以下サ):「浮世」という言葉には、不思議な風情がある。
ウノーさん(以下ウ):なんとも自由でおおらかなで、それでいて「淫靡」な感じです。
サ:連想するのは「浮世絵」か。
ウ:江戸文化の体表格ですね。版画に封じ込められた市井に暮らす普通の人々の自由闊達な姿は、まさに「浮世」のあり様だと思います。
サ:あとは「落語」だな。浮世を憂い、浮世を笑い、浮世に泣く。日本人のもつ「無常観」を「笑い飛ばす」感覚は「浮世」だ。
ウ:今日の一冊は、落語から生まれた「滑稽本」というジャンルですね。
サ:なにしろ、「娯楽」の選択肢が少ない時代、落語の面白さ、楽しさを直接体験できる機会は限られていて、さらに都会に住む人々の「特権」であったわけで、それを文字にして、日本各地に広げていったのだから「滑稽本」は、江戸文化全体の醸成に貢献した「メディア」だったと言える。
ウ:江戸の大衆にとって安息の地「銭湯」が、舞台です。
サ:文字通り、赤裸々な「やりとり」が展開する。
ウ:今も昔も「人の話題」が変わらないことに、びっくりします。
サ:芸能人のスキャンダルから、身内へのグチ、恋バナ、自慢話、まったく変らないな。
ウ:違うのは場所です。江戸時代は「銭湯でお風呂」、現代は「スマホでネット」です。
サ:この本は、実は「江戸のマナーガイド」の役割も果たしていた。
ウ:桶に着けてある布は「ふんどし」なので、それで顔を洗わないといった実践的なものから、江戸っ子は自分たちの土地に、並々ならないプライドをもっているから、それを直接批難しない、というマナーとしての注意点まで、見事に伝えています。
サ:ちなみに同じシリーズに「浮世床」というのもある。
ウ:こちらは、理髪店が舞台です。こちらも、江戸の昔から、人が「つい本音」で語ってしまう場所だったんですね。
サ:普段、いかに我々が本音を「着飾って」いるかを知るにも、よい本だ。
ウ:200年も前の本なのに、笑いのツボが現代でも通じるのだから、「人なんて、まったく、たいしたことねぇ」というのは、真実ですね。
【了】
「裸の空間で繰り広げられる、裸の世間。軽妙な語りと、絶妙な隠喩で、江戸の人々が蘇る」
【サノーさんおすすめ度★★★★★】
・ウノーさん一言コメント
「お風呂に入れば極楽です。飾りや嘘を脱ぎ捨てた江戸の人々を笑いましょう」
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・サノーさん、ウノーさん読書会
サノーさん(以下サ):「浮世」という言葉には、不思議な風情がある。
ウノーさん(以下ウ):なんとも自由でおおらかなで、それでいて「淫靡」な感じです。
サ:連想するのは「浮世絵」か。
ウ:江戸文化の体表格ですね。版画に封じ込められた市井に暮らす普通の人々の自由闊達な姿は、まさに「浮世」のあり様だと思います。
サ:あとは「落語」だな。浮世を憂い、浮世を笑い、浮世に泣く。日本人のもつ「無常観」を「笑い飛ばす」感覚は「浮世」だ。
ウ:今日の一冊は、落語から生まれた「滑稽本」というジャンルですね。
サ:なにしろ、「娯楽」の選択肢が少ない時代、落語の面白さ、楽しさを直接体験できる機会は限られていて、さらに都会に住む人々の「特権」であったわけで、それを文字にして、日本各地に広げていったのだから「滑稽本」は、江戸文化全体の醸成に貢献した「メディア」だったと言える。
ウ:江戸の大衆にとって安息の地「銭湯」が、舞台です。
サ:文字通り、赤裸々な「やりとり」が展開する。
ウ:今も昔も「人の話題」が変わらないことに、びっくりします。
サ:芸能人のスキャンダルから、身内へのグチ、恋バナ、自慢話、まったく変らないな。
ウ:違うのは場所です。江戸時代は「銭湯でお風呂」、現代は「スマホでネット」です。
サ:この本は、実は「江戸のマナーガイド」の役割も果たしていた。
ウ:桶に着けてある布は「ふんどし」なので、それで顔を洗わないといった実践的なものから、江戸っ子は自分たちの土地に、並々ならないプライドをもっているから、それを直接批難しない、というマナーとしての注意点まで、見事に伝えています。
サ:ちなみに同じシリーズに「浮世床」というのもある。
ウ:こちらは、理髪店が舞台です。こちらも、江戸の昔から、人が「つい本音」で語ってしまう場所だったんですね。
サ:普段、いかに我々が本音を「着飾って」いるかを知るにも、よい本だ。
ウ:200年も前の本なのに、笑いのツボが現代でも通じるのだから、「人なんて、まったく、たいしたことねぇ」というのは、真実ですね。
【了】