本書を読むと、これまでいかにわれわれが、万葉集を誤解していたかということがよくわかる。学問的にどの程度蓋然性があるのか専門家ではない私には判然としないところもあるのだが、といっても大学で万葉集を学び、仕事で万葉集の専門家と関わる機会ならびに専門書を読む機会を与えられたという経験もあり、全くの素人ともいえないのだが、万葉の表記論を専門にしている学者といえども、本書で石川氏が取り組んでいるテーマを自らの学問的テーマとして正面から取り組んでいる研究者ならびに研究はたぶん皆無に近いのではないであろうか。だれもが漠然と思ってはいたのだろうが、学者でさえそれをあえて正面に据えて論じることを忌避してきたテーマへの果敢で孤独なる挑戦であるこの論考の試みはそれだけで賞讃にあたいするのであり、またそれは書家・石川九楊にしかなしえない偉業といえるのである(石川氏が何らかのかたちで日本古代の文化・言語形成史について語った書物に『二重言語国家・日本』『「書」で説く日本文化』『日本書史』『日本語とはどういう言語か』などがあり、本書と併読すると石川氏の今回のこの論考の根幹がよくわかるのである)。
漢字(広い意味での万葉仮名)で書かれている万葉集の歌を、平安時代のおよそ900年以降に完成した古今和歌集をはじめとする平仮名(女手)歌である和歌(石川氏は和歌と和歌以前である万葉歌とを峻別しているのであるが)制作の経験を前提に、漢字(万葉仮名)のもつ意味性を脱色し読み直すことによって生まれた万葉集の和歌的な読みそれ自体が無効であることを石川氏は声高らかに宣言するのであり、その事実性に思いいたったときに感じる驚嘆とそれを知ったことによって味わうことのできる至福のひととき、それこそが本書を読む最高の意義なのである。われわれは、和歌的な色メガネをはずすことによってはじめて万葉集(それが漢字で書かれている歌集であるという事実)に直面したのであり、万葉びとの平安びととは全く異なる生(なま)の歌声を聴いたことになるのである。
石川氏が解釈する万葉歌の調べ(意味)はこれまで注釈書(それは岩波の古典文学大系あるいは新古典文学大系であったり、伊藤博・中西進であったりするのだが)でわれわれが聴いてきた調べ(意味)とも全く異なっているのであり、その調べ(意味)こそが万葉びとの真の調べ(意味)なのだと納得させてくれる強い力をもっているのである。
本書の読了後には、もはや万葉集の歌を和歌と呼んで和歌と同列に語ることは許されないのである。
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万葉仮名でよむ『万葉集』 単行本 – 2011/1/29
石川 九楊
(著)
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万葉仮名に戻して読むとき、なじまれた万葉歌が見も知らない姿を現す。名歌の数々を取り上げ、書字の姿から、新しい読みを提示する。漢詩訓読体から平仮名へ、文字体系を変容させようとする創造的な工夫と実験。そこには国造りを背景に、日本語を造り出そうとするエネルギーが渦巻いていた。書記法に力点を置く独創的な日本語創世記。
- 本の長さ240ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2011/1/29
- ISBN-104000248103
- ISBN-13978-4000248105
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2011/1/29)
- 発売日 : 2011/1/29
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 240ページ
- ISBN-10 : 4000248103
- ISBN-13 : 978-4000248105
- Amazon 売れ筋ランキング: - 464,311位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 123,140位文学・評論 (本)
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2011年2月16日に日本でレビュー済み
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2012年3月21日に日本でレビュー済み
著者は碩学・白川静氏と同郷・福井県生まれ、京都で学究生活を送った点も同じです。
白川氏が中国の甲骨文・金文を直接に研究し、『設文解字』の1900年の権威をひっくり返し、東洋学全体のパラダイムに変革をもたらした一つの「波紋」が、石川九楊氏の一連の研究であると私は評価しています。
石川氏は、写本を直接に比較研究し、筆勢や用字を書家の目で「分析」し、日本語及び日本文学研究に新風を送り込んでいます。私自身は本居宣長の学を尊崇してきましたが、石川氏の一連の研究は、宣長の『古事記伝』の偉大さと同居する「三大考」の存在に感じていた「不審」を解消してくれました。『新撰万葉集』『和漢朗詠集』の評価も「目から鱗」の思いで読みました。
一言で言えば、白川学の方法を国文学に応用した「名著」だと思います。国文学界が氏の仕事にどういう「評価」を下すのか、注視したく思います。
白川氏が中国の甲骨文・金文を直接に研究し、『設文解字』の1900年の権威をひっくり返し、東洋学全体のパラダイムに変革をもたらした一つの「波紋」が、石川九楊氏の一連の研究であると私は評価しています。
石川氏は、写本を直接に比較研究し、筆勢や用字を書家の目で「分析」し、日本語及び日本文学研究に新風を送り込んでいます。私自身は本居宣長の学を尊崇してきましたが、石川氏の一連の研究は、宣長の『古事記伝』の偉大さと同居する「三大考」の存在に感じていた「不審」を解消してくれました。『新撰万葉集』『和漢朗詠集』の評価も「目から鱗」の思いで読みました。
一言で言えば、白川学の方法を国文学に応用した「名著」だと思います。国文学界が氏の仕事にどういう「評価」を下すのか、注視したく思います。
2014年7月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
日本語の成り立ちを万葉集を題材にたどって行く本です。
万葉仮名の歌そのものは載っていないので、そこは少し残念でした。
読み物としては良いと思います。
万葉仮名の歌そのものは載っていないので、そこは少し残念でした。
読み物としては良いと思います。