労働問題といえば暗い、売れない、地味。そんなイメージがつきまとったが、それを若者の労働、格差問題として取り上げた立役者である小林美希さんの集大成ともいえる著作ではないだろうか。特に女性の労働問題は長年いろいろな人が取り組んできたが、若い世代でここまで客観的に訴える力のある人はなかなかいない。タイトル『職場流産』には衝撃を受けた。一見、女性の問題のように見えるが、これは、性を問わずに読んでもらいたい客観的なデータに基づく深い内容となっている。
なかでも衝撃を受けたのは、労働環境が改善すれば助かったであろう「いのち」が年間に2万5000人から12万4000人もいるという試算だ。流産を防ぐ職場環境の整備が急務の課題となるだろう。
以前から彼女の特集(エコノミスト誌の「娘・息子の悲惨な職場」など)は全て読んできたが、回を重ねるごとに社会に対する矛盾や怒り、問題点をうまく表現していて、彼女自身の成長も見えてくる。それも膨大な取材の蓄積があるからこそだと容易に推測できるのである。この著書は3年もの時間をかけて取材と執筆に当たったそうだ。労働問題だけでなく、社会の在り方を問いながら、労働者を支える、医療や保育など社会保障の分野にも焦点を当てる。良い企業の事例は、あえて有名な大企業でなく、中小零細企業を取り上げている。モデルケースとされる大企業は実は、実態が乖離しているからという。
労働問題をまた一歩も二歩もリードする内容だ。私も、彼女の著作は、まえがきやあとがきから読むことをお奨めしたい。
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ルポ 職場流産――雇用崩壊後の妊娠・出産・育児 単行本(ソフトカバー) – 2011/8/26
小林 美希
(著)
過労や悪質な労働環境によって起きる「職場流産」ともいえる悲劇。なぜ悲劇は繰り返されるのか。働く女性が迎える妊娠・出産・育児といった局面で、セーフティネットはしっかり機能しているのか。彼女たちが抱える社会的リスクを、当事者の切実な声から描きだす渾身のルポルタージュ。
- 本の長さ256ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2011/8/26
- ISBN-10400023496X
- ISBN-13978-4000234962
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2011/8/26)
- 発売日 : 2011/8/26
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 256ページ
- ISBN-10 : 400023496X
- ISBN-13 : 978-4000234962
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,130,292位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2011年11月22日に日本でレビュー済み
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2011年10月10日に日本でレビュー済み
流産の大半は染色体の異常が原因とは言われるものの、苛酷な労働環境に置かれていなければ救えたかもしれない「流産」の実態。丁寧で厚いインタビューは、キャリア志向の高収入(だった)女性から生活保護ギリギリの夫婦まで幅広く、リアル。随所随所に統計や専門家の意見も出ていて非常に分かりやすい。女性の働き方や、不妊治療を扱った書籍はいくらでもあるけれど、問題をうまく切り取って焦点を当てていると思う。その反面、雇用問題や医療の現場の課題などかなり幅広い問題を扱っているのに、このタイトルだと幅広い人には読まれにくいような気がする。
2011年11月20日に日本でレビュー済み
それにしても、日本の労働市場はなぜここまで、子供を持つ女性に冷たいのだろうか?
この本は、ルポライターの小林美希さんが、職場流産の問題を取材したものであるが、実際にこれを読んでみると、日本の労働市場は、子供を持つ女性に対して冷酷極まりないことがはっきりと分かる。
もちろん、小林さんの言うように、流産は健康な母体であっても起こる場合がある。だが、日本の場合は夫婦共働きの世帯の割合が片働きの世帯の割合を完全に逆転した(なお、そのデータはこの本の54ページにある)現在でも、長時間労働などの問題が全く改善されていない。そのせいで、多くの女性が「キャリアアップを目指すか、子供を産むか」の二者択一を迫られている。
こんな状況では、1.96ショック(2010年の国勢調査で、1組の夫婦が持つ子供の人数が初めて2人の大台を割ったこと)が現実になるのも、この本で書かれているような職場流産が起こってしまう(または、生まれた子供が先天的な障害を抱えてしまう)のも、当然のことだと思う。
なお、この本では職場流産だけでなく、産科医療の崩壊や、待機児童の問題なども描かれていたが、いずれにしろ、職場流産という問題を根本的に解決するためには、まず日本病(重大な問題があることを分かっていながら、それをいつまで経っても解決出来ない体質)を一掃するしか無いと言える。
だから、この本は、特に行政スタッフに必ず読ませるべきだと思う。その上で、女性に「キャリアアップを目指すか、子供を産むか」の二者択一を迫る社会システムを根本から改めるべきではないだろうか。
この本は、ルポライターの小林美希さんが、職場流産の問題を取材したものであるが、実際にこれを読んでみると、日本の労働市場は、子供を持つ女性に対して冷酷極まりないことがはっきりと分かる。
もちろん、小林さんの言うように、流産は健康な母体であっても起こる場合がある。だが、日本の場合は夫婦共働きの世帯の割合が片働きの世帯の割合を完全に逆転した(なお、そのデータはこの本の54ページにある)現在でも、長時間労働などの問題が全く改善されていない。そのせいで、多くの女性が「キャリアアップを目指すか、子供を産むか」の二者択一を迫られている。
こんな状況では、1.96ショック(2010年の国勢調査で、1組の夫婦が持つ子供の人数が初めて2人の大台を割ったこと)が現実になるのも、この本で書かれているような職場流産が起こってしまう(または、生まれた子供が先天的な障害を抱えてしまう)のも、当然のことだと思う。
なお、この本では職場流産だけでなく、産科医療の崩壊や、待機児童の問題なども描かれていたが、いずれにしろ、職場流産という問題を根本的に解決するためには、まず日本病(重大な問題があることを分かっていながら、それをいつまで経っても解決出来ない体質)を一掃するしか無いと言える。
だから、この本は、特に行政スタッフに必ず読ませるべきだと思う。その上で、女性に「キャリアアップを目指すか、子供を産むか」の二者択一を迫る社会システムを根本から改めるべきではないだろうか。
2011年10月14日に日本でレビュー済み
当該著書の著作については、あとがきから読むことをおすすめしたい。一節だけ抜粋させていただくので、その志に感ずるものがあった方には是非とも手にとって欲しい。
『構造問題がある限り、一人でも苦しむ人がいれば、その声を拾い上げ問題提起するのが私の職責である。人の悲しみを数字で捉えることは好ましくないが、問題を理解し得ない人にも気付いてもらえるよう、客観的なデータを見つけることには苦労した。しかし、探せば必ず見つかるもので、書き手として改めて、地道な努力を積み重ねることの大切さを痛感した。』
例えば、妊婦のたらい回しという問題がある。その背景には産科医・小児科医を中心とする医療崩壊があることがクローズアップされたが、それだけではなく非正規雇用あるいは職場環境の劣化という問題もあるというのがこの書の指摘だ。そして医療・介護従事者が妊娠されたケースで露骨に問題「構造」が浮かび上がる。
劣悪化する労働問題に専念すると宣言された著者ならではの観点であり、最終的には労働構造問題に行き着くことが読み進める内に具体的な個人のエピソードにまつわる悲しみと共に腑に落ちる。政権交代の際に労働構造問題に一時的に脚光が当たった時期もあったが、それ以降もこうして好著を世に問い続ける著者には改めて頭が下がる。
『構造問題がある限り、一人でも苦しむ人がいれば、その声を拾い上げ問題提起するのが私の職責である。人の悲しみを数字で捉えることは好ましくないが、問題を理解し得ない人にも気付いてもらえるよう、客観的なデータを見つけることには苦労した。しかし、探せば必ず見つかるもので、書き手として改めて、地道な努力を積み重ねることの大切さを痛感した。』
例えば、妊婦のたらい回しという問題がある。その背景には産科医・小児科医を中心とする医療崩壊があることがクローズアップされたが、それだけではなく非正規雇用あるいは職場環境の劣化という問題もあるというのがこの書の指摘だ。そして医療・介護従事者が妊娠されたケースで露骨に問題「構造」が浮かび上がる。
劣悪化する労働問題に専念すると宣言された著者ならではの観点であり、最終的には労働構造問題に行き着くことが読み進める内に具体的な個人のエピソードにまつわる悲しみと共に腑に落ちる。政権交代の際に労働構造問題に一時的に脚光が当たった時期もあったが、それ以降もこうして好著を世に問い続ける著者には改めて頭が下がる。
2011年10月11日に日本でレビュー済み
「看護崩壊」に続いて読みました。すぐにレビューを書きたいと思いながら、内容の厚さと深さになかなか書けずにいました。タイトルは重々しく、実際、読み始めると「不良品」と呼ばれる派遣社員の実態や、正社員でも無理をせざるを得ない状況が刻々と書かれて、その深刻さに息をのみました。流産の悲しさには胸が詰まり、自分も同じ経験があるだけ泣けてきました。けれど、私もよくよく周囲に聞くと、流産を経験したり、流産しかかった人の多さに驚き、無理して働く前に、この本を読んで欲しいと思いました。読み進めていくうち、最後は明るい話題もあり、最後は子どもを中心とした社会を訴える提言が具体的に提示されていて、その通りに社会が動いてくれることを願いたいです。ただでさえ少子化が叫ばれて久しくないのに、女性を取り巻く環境は変わらない。そこに風穴を開けてくれる一冊ではないでしょうか?あとがきには「構造問題があるかぎり、一人でも苦しむ人がいればその声を拾い上げ、問題提起するのが私の職責である。人の悲しみを数字で捉えることは好ましくないが、問題を理解しない人にも理解してもらえるよう客観的なデータを集めた」とあります。そのような筆者の心意気を一読者として応援したいです。