内容説明
生きとし生けるものすべて、自らの母にあらざるものはなし―。仏の教えを胸に自然と共に生きてきたチベットの人々。かれらを取り巻く現代社会の問題や人間関係の複雑さを鋭く捉え、鮮やかにそして時に幻想的に描き出す。実験的な手法でチベット文学に新風を巻き起こした現代文学の旗手、待望の小説集。
著者等紹介
タクブンジャ[タクブンジャ]
1966年、中国青海省黄南チベット族自治州貴南県の牧畜民の家庭に生まれる。海南民族師範学校を卒業後、小学校教諭を務めるかたわら西北民族学院(現西北民族大学)で文学について学び、現在も郷里でチベット語の教員を務めながら執筆活動を行っている
海老原志穂[エビハラシホ]
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員。専門はチベット語の方言研究
大川謙作[オオカワケンサク]
日本大学文理学部准教授。専門は社会人類学、チベット現代史
星泉[ホシイズミ]
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。専門はチベット語の文法研究
三浦順子[ミウラジュンコ]
チベットに関する多数の翻訳に長年携わる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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taku
17
社会風刺作が多く、独特な表現方法とビターなユーモアで描き出している。犬の擬人化や犬目線の語りもあれば、権力構造内で人の役割を道具に見立てたり、妻が夫を罵るだけ、伝統や風習の匂いが濃い作品がある。表題作は個で考えるなら小憎らしくて人に取り入るヤツだが、集団に広げて考えるとゾッとした。好みの作風とは違うけど、どこの国や地域であれ社会集団での生活には様々な問題があること、その書き表しかたには気を引かれる。ペマ・ツェテンで興味を持った現代チベット文学。また、チベットを映している小説を読みたい。2023/02/16
マカロニ マカロン
11
個人の感想です:B+。東京外国語大学市民講座で知った本。チベット語で書かれた9編の短編小説集。1980年代~2000年代に書かれた作品集。チベットは遊牧民が多く、牧羊犬との関係が深い。ハバ犬は愛玩用の犬で表題作はそれが言葉を喋り、人に取り入ってどんどん出世していく話。ファンタジー含みのユーモア小説なのだが、『犬』、『道具日記』と共に中国共産党の幹部が牛耳るチベット社会でたらい回しが横行する非効率性、賄賂がないと動かない役人と言った問題を比喩やメタファーを使って、遠回しに皮肉っている(検閲対策)ように読める2023/06/03
ハチアカデミー
10
愛玩犬であるハバがしゃべり出す「ハバ犬を育てる話」がのっけから面白い。ヤンブム少年の1日の語りが一生の語りとなる「一日のまぼろし」など、たくらみに満ちた短編が多く納められる。人間を例える単語が人間関係の比喩となる「道具日記」は横光利一の「機械」みたいだ。文化の衰退と老人の悲哀とともに描かれる「村長」はリアリズム作品で、余韻が残る作品。「言葉」が揺らぐ作品が多く、言葉が世界をどのように構築しているのか、そしてそれをどう解体できるのかを、実験的な手法で描かんとしている。チベットで人気の高い作家とのことも納得。2015/05/26
Hisatomi Maria Gratia Yuki
0
宮沢賢治『猫の事務所』のダークな犬版のような表題作から、アニメ映画『木を植えた男』の絵柄で物語が浮かぶ「一日のまぼろし」、筒井康隆『虚航船団』を思わせる「道具日記」、組織ってどこも大変だなあと思い知る「村長」と、一人の作家が書いたとは思えないほどさまざまな作風の作品でできている、とにかくおもしろく興味深く読める一冊。2017/06/08
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