内容説明
国境を接するメキシコとアメリカ。“こちら側”と“あちら側”の人間たちが生きる世界を九つの物語によって多層的に描き出し、登場人物たちの声を響かせ祖国“メキシコ”を高らかに謳いあげる、現代版“人間喜劇”。
著者等紹介
フエンテス,カルロス[フエンテス,カルロス] [Fuentes,Carlos]
1928年、パナマに生まれる。父は外交官。幼少からラテンアメリカ各国やアメリカ合衆国を転々とし、1940年代半ば、メキシコシティに落ち着いて以降は、雑誌の創設や小説作品の執筆など、精力的に文学活動に乗り出す。1960年代から「ブームの索引車」としてラテンアメリカ文学を常にリードし、膨大な数の長編・短編小説、戯曲、エッセイなどを残した。ロムロ・ガジェゴス賞(1977年)、セルバンテス賞(1987年)、アストゥリアス皇太子賞(1994年)など受賞歴が多数ある。2012年5月、メキシコシティにて没
寺尾隆吉[テラオリュウキチ]
1971年、愛知県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。現在、フェリス女学院大学国際交流学部准教授。専攻、現代ラテンアメリカ文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まさむ♪ね
35
傑作。立ち寄ったレストランで何気なく手にとったチリソースの小瓶をこすると、いかにもメキシコな感じの帽子をかぶり、剛毛でひげを生やした小人が飛び出した。おやじの妖精?そいつのピストルが火を噴くたび、運ばれてくる料理が次々と女に変身していく。合法非合法あわせて往来が世界最大というメキシコとアメリカの国境。そこで起こっている事、その歴史、そこに生きる人々の間に巻き起こる感情の嵐、そういったものすべてがこの一冊の書物に収まっている。なんて緻密に計算された骨太な語りだろう、におい立つほどに豊穣な、愛すべき物語たち。2015/10/12
かわうそ
30
メキシコが国境の向こう側・アメリカに抱く憧れ・憎悪・劣等感といった複雑な感情がさまざまな人生を通じて描かれる社会派的要素の強い作品群。幻想性は控え目だけど多様で先の読めない構成・展開は圧巻。これは素晴らしい。2015/09/08
Takashi Takeuchi
11
ガラスの国境とはメキシコとアメリカ間の国境。しかしここでは場所・土地としての国境というよりメキシコ人とアメリカ人の感情に横たわる心理的境界を描いている。メキシコ人を見下すアメリカ人、そんなアメリカ人に憤り、へつらい、へつらう自身を卑下するメキシコ人。互いを理解していく話もやアメリカでの生活に挫折するメキシコ人の話など9話の短編から浮かび上がるのはメキシコとアメリカの複雑な関係性。最後に余白を残した作品たちはいずれも甲乙なく味わい深い逸品揃い。2022/06/05
ちゃっぴー
9
メキシコとアメリカの国境を舞台にした9つの連作短編集。繁栄と貧困、やり場のない怒りに諦念。メキシコの悲哀が伝わってくる。表題作と「女友達」「賭け」が良かった。2015/10/26
rinakko
8
素晴らしい読み応え。覆い重なりあう声たちの向こう、吐き出されては膨れ上がっていく憤りや欲望、欺瞞、理不尽への怒りと諦念…が渾然となった先に、メキシコの哀しみが見えてくる。たとえば国境を、ガラスの幻でしかない…と言い放つ視点もあって、それはそれで誰かにとっては一応の現実だった。でも、様々な境遇に生きる登場人物たち各々の人生に穿たれた楔の如く、国境は動かし難くそこにある。取り返しの付かない意味を持って、“世界で最も豊かな国の隣に貧しい国があるかぎり”。とりわけ好きだったのは、表題作と「略奪」「女友達」「賭け」2015/03/19