内容説明
始まりも終わりもない書物。スパイ探しの審問と王の影武者の逸話、二つの物語は写本の中で入り交じり、緊張を増しながら、悲劇的結末へと向かう…現代アゼルバイジャンを代表する小説家=文学研究者の野心作を本邦初紹介。チュルク叙事詩の最高傑作『デデ・コルクトの書』に秘められた謎を解き明かす歴史幻想小説。
著者等紹介
アブドゥッラ,カマル[アブドゥッラ,カマル] [Abdulla,Kamal]
1950年、バクー生まれ。アゼルバイジャン科学アカデミー言語学研究所より博士号。2000年からバクー・スラヴ大学学長兼言語学科教授。現在、アゼルバイジャン言語大学学長
伊東一郎[イトウイチロウ]
1949年、札幌市生まれ。早稲田大学文学部教授。専攻はロシア文学、ロシア音楽文化史、スラヴ比較民族学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
119
作者はアゼルバイジャンの小説家・文学研究者。現在のアゼルバイジャンや中央アジア辺りのオグズ族のチェルク叙事詩『デデ・コクルトの書』を巡る写本の謎が描かれる。12世紀に起きたカンジャ地震で失われたはずの写本が、欠落はあるが発見される設定。その叙事詩も歴史も知らないために、作者が試みた創作を理解したとは言えず、『デデ...』を読んでから再び味わいたい。それでも、スパイ探しの緊張感や国の権力争いの行方、失われた部分の意味、そして、過去と現在の交錯と謎は、読んでいてそれだけで楽しめる。順序を間違えたのが残念。2018/05/22
きゅー
16
15世紀に纏められた民族叙事詩『デデ・コルクトの書』を下敷きにした小説。読み進めるにつれ、『デデ・コルクトの書』では書き記されなかったオグズ民族の対立が明らかになっていく。時代や文化があまりに異質のため導入部では躓きながら読み進めていたが、部族内の人間関係が見えてくるととたんに面白くなってくる。しかし、せっかくの枠構造(写本を見つけた語り手≒作者)が活かされていないようだった。メタフィクション的な要素は見られず、ほぼデデ・コルクトによって書かれた内容で完結していたのはもったいないように感じられた。2018/01/31
rinakko
14
面白かった。所々破れ、焼かれた跡さえある写本をめぐる珍かな話。第一の内容『デデ・コルクトの書』の作者(に擬せられた)コルクトの史詩と相違する覚え書きは、幾度も分断され、そこに第二の内容シャー・イスマーイール1世と影武者の物語が差し挟まれる。平行する二つの筋。その意図の不可解さに惑い、答えらしいものも探しあぐね…。歴史の闇へ埋もれた数多の秘密から、一つ二つの謎を取り出して存分に思いを巡らせてみたような本でもあり。「欠落ある写本」を提示する意義を疑い自問し続ける“私”の言葉も印象深いが、私は謎の解明を堪能した2017/11/28
ヴィオラ
11
楽しかったです…が、その楽しさが作者の楽しんでほしいポイントではないような…うん、つまりはちゃんと読みきれていない感じがヒシヒシと…。読書会とかで他の人の意見を聞いてみたくなる感じです。 もともとの「デデ・コルクトの書」で描かれたエピソードの裏側に実はこんな話が…っていうのが、僕が楽しめた部分なので、これから読もうという人も東洋文庫で出てるものを読んでおいた方がいいかも。2017/11/11
qoop
8
中世アナトリア語で編まれた歴史的な叙事詩をベースに、登場人物の動機を補って物語化したのが本書。突如現れた古い写本が語る歴史の裏面…という体裁が興味をそそる。表題とは逆に歴史の欠落を創作で埋める作業だが、挿入される別の時代の物語は、破綻のない流れに仮構を試みたもので、歴史と創作を共に揺さぶる仕掛けか。当の「デデ・コルクトの書」を未読なため、どこまでが叙事詩に書かれていることで、どこからが作者の創作か分からず戸惑いながら読んだ。良い読者とはいえないだろうが、それゆえに一層の眩惑感を覚えたと云えなくもないか?2017/12/08
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