内容説明
本書は、人間社会の格差の構造について、人の移動と定着の地理学の視点から解明することをめざす試論である。ただし、国籍や宗教のように、明白な基準で区別される人々の関係に注目するのではない。本書が投げかけるのは、一つの国の内側でも、言語や文化を異にする人々が集まる都市産業地域には、複合社会に特徴的な格差の構造が存在するのだろうか、という問いである。そこでは、生活戦略を立てようとするニューカマーが遭遇するホスト社会との隔たり、つまり、やや木目の細やかな日常性の相違というべきものが問題になる。スペイン各地の言語や文化を背負って移動する人々に光を当てながら、地域間に存在する格差が人口移動を媒介としてホスト社会の中に織り込まれ、新たな格差の構造となって立ち現れるプロセスを解き明かすこと、それが本書の中核をなす目標である。
目次
序章 スペインの社会動態分析への接近―人の移動と定着を通じてみる格差の相互連関
第1章 地方間の垂直移動から都市間の水平移動へ―スペインにおける人口移動の波は終息したのか?
第2章 人口移動によって歪む人口再生産の地理―出産行動は人口移動を通じて移植されるのだろうか?
第3章 カタルーニャへの人口流入をめぐる言説―カタルーニャへの流入者はいかにして他者となったのか?
第4章 人口流入が蘇らせる産業都市の人口再生産―カタルーニャの中心都市バルセロナの流入者は多産なのか?
第5章 職業集団の中に埋め込まれた出身地集団―カタルーニャで交錯する属性原理と業績原理とは?
第6章 変容する都市空間を生きる出身地集団―バルセロナへの流入者は永遠に異質な隣人なのか?
終章 スペインの社会動態分析が問いかけるもの―結合する格差、変幻する格差
著者等紹介
竹中克行[タケナカカツユキ]
1966年大阪府生まれ。1998年東京大学大学院総合文化研究科博士課程満期退学。現在、愛知県立大学外国語学部准教授、博士(学術)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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