出版社内容情報
小津映画の魅力は何に因るのか。人々を小津的なものの神話から解放し、現在に小津を甦らせた画期的著作。1983年版に3章を増補した決定版。
蓮實 重彦[ハスミ シゲヒコ]
内容説明
「残された作品の画面に何が具体的に見えるか、そしてそのイメージが、見るもののフィルム的感性をどのように刺激するかを論じてみたい。つまり、現実のフィルム体験として生きうる限りの小津安二郎の作品について語ってみたいと思う」(本書序章より)。人々がとらわれている小津的なるものの神話から瞳を解き放ち、その映画の魅力の真の動因に迫る画期的著作。本文庫は、小津の生誕百年(2003年)を機に旧版へ三章を増補した決定版である。名キャメラマン厚田雄春と『美人哀愁』の主演女優井上雪子へのインタヴューほかを併録。
目次
遊戯の規則
否定すること
食べること
着換えること
住むこと
見ること
立ちどまること
晴れること
憤ること
笑うこと
驚くこと
快楽と残酷さ
著者等紹介
蓮實重彦[ハスミシゲヒコ]
1936年東京生まれ。60年東京大学仏文学科卒業。同大学大学院人文研究科仏文学専攻修了。65年パリ大学大学院より博士号取得。東京大学教養学部教授(表象文化論)、東京大学総長を歴任。東京大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おさむ
33
小津安二郎論の金字塔的な本。一時期ハマって集中して作品を観たが、どこが良いのかを言語化する難しさを感じていた。本著は「説話論的」な様々な解釈によって小津作品に底通する哲学を丸裸にしていきます。後期の婚期を迎えた娘を持つ父親の感慨を描く作品における、2階という宙に浮かんだ空間は女の聖域という解説には、膝を打ちました。特に視線のズレや不自然さなどを解析する5章も読み応えあり。外国人は、小津作品にもののあわれや禅を感じて高く評価した。それは、風流を喪失してしまった現代の日本人も同じなのかもしれませんね。2021/07/11
踊る猫
26
小津を観ることはむつかしい、と蓮實は記す。むろん、映画は目を開けていれば観られるものだが、小津に限った話ではないにしろその観ようと思えば観られてしまう安寧さからつい「あれは小津っぽい」「小津的ホームドラマ」と呟いてしまう。それではダメだ、と蓮實は言っているかのようだ。小津を凌ぐ一枚上手の観方を提供し、意外な共通項や矛盾から「小津」らしさを形成しているものを炙り出し、吟味する。むろん、そんな小津論はトリッキーにすぎるしなにかの役に立つというものでもないだろう。しかし、極めて愚直に小津と対峙する彼の言葉が光る2021/07/04
しゅん
17
まず、小津作品未体験の人にはお勧めしません。読んでから観ると蓮實的な見方しかできなくなる恐れがあるからです。それくらい本著の論考は魅力的で説得的。階段、着替え、天気、手ぬぐいなどありとあらゆる細部に注目しながら小津の過剰な作家性を肯定していく。筆者も何作か観て日本的とは凡そ言い難い人工性を感じたので、侘び寂びなどの和の美意識だけで語ることにノーを突きつける論には体感として納得できた。カメラマン厚田雄春さんと今では観られない初期作出演女優井上雪子さんのめっちゃ面白いインタビューと併せて読むと味わい倍増です。2017/04/06
ドラいもん
7
とてもスリリングな映画評論。ストーリーの本筋とは無縁と思える画面の中に、無限に開かれた解釈の可能性がある。よって画面を1秒たりとも見落とさないこと、全てのショットを記憶に残そうと努めることによってはじめて本当の評論ができるのだと思った。2018/12/17
しゅん
6
再読。一章一章ごとの切れ味もさることながら、じわじわと本質的な主張を浮かび上がらせていく全体の構成が勉強になる。少し秘境めいた(というかごまかしている?)印象もあったが。物語を追う見方を意外と否定していないとも思った。2020/05/14