内容説明
著者は高名な精神医学者であるだけでなく、ヴァレリーやギリシャ詩の達意の翻訳者であり、優れたエッセイストとしても知られている。自らの研究とその周辺について周到な考察を展開した「知られざるサリヴァン」「統合失調症についての自問自答」「宗教と精神医学」や、学問的来歴を率直に記した「私に影響を与えた人たちのことなど」「わが精神医学読書事始め」「近代精神医療のなりたち」、精神科医の立場から社会との接点を探った「微視的群れ論」「危機と事故の管理」「ストレスをこなすこと」など、多彩で豊かな広がりを示す17篇のエッセイをまとめる。
目次
1(精神科医がものを書くとき;わが精神医学読書事始め;宗教と精神医学 ほか)
2(統合失調症問答;統合失調症についての自問自答;公的病院における精神科医療のあり方 ほか)
3(微視的群れ論;危機と事故の管理;エピソード記憶といわゆるボケ老人 ほか)
著者等紹介
中井久夫[ナカイヒサオ]
1934年、奈良県生まれ。京都大学医学部卒業。現在は神戸大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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みねたか@
39
全体を通し,しっかりと血肉となり自在に言葉に変換される幅広い教養に圧倒される。解説の斎藤環氏の言葉「中井先生のアイデアはまず箴言と言う形をとって現れる。いずれも最終解答ではなく、新たな問を誘発するような言葉である。」おっしゃる通りと思う。医療者向けの精神医学に関するエッセイや講演などが中心なのだが,組織とその中での人々のふるまいに対する深い洞察や,患者への向き合い方など,門外漢の私にも面白く,また,随所で立ち止まって考えさせられるような箴言にあふれている。2020/03/10
chanvesa
31
「人間の自我の働きにはまず、『まとめる力』と『ひろげる力』があります。精神統一なんていいますが、統一ばかりしていたら何もなくなってしまいます。ひろげなければ、新しい経験が入ってきません。しかし、ひろげたものはまとめないと、自分というものがひとつのまとまりでなくなってしまうわけです。(169~170頁)」バランスの問題。生理的な時間の感覚の話は面白い。「十二分遅れてもいいが、十五分遅れるといけません。(298頁~)」こじつけみたいだけど、バランスの問題で、シチュエーションや言い訳の妙味にも左右されるだろう。2020/08/14
マリリン
24
Ⅰは著者が辿ってきた精神医学との関わりや歴史、Ⅱは統合失調症の事や精神科医療の在り方等、Ⅲが一番興味深い事が書かれていたが、特に「不安のにおい」「危機と事故の管理」最後の「ストレスをこなすこと」は、日常生活を振り返りたくなる話が多く大変興味を持った。ストレス解消法と楽しみは区別する。趣味とオタクの違いは楽しみとストレス解消法との違い。人間に備わっている自然なストレス解消法の第一が睡眠、第二が夢、第三が身体の反応。寝過ぎの害は嘘・睡眠薬の害にも言及。身体の反応とはストレス性疾患。ストレスの大きさの違い⇒2019/07/28
yutaro sata
18
ストレスをこなすこと、などは今でもたまに読みますね。2022/08/20
tom
10
最相葉月の「セラピスト」がとても面白かったので、中井久夫の本を読んでみることにした。この本は1冊目。中井久夫という人は、言わずもがなのことではありますけど、すごい人です。実務経験を言語化して、きちんと人に話すことができるということだけでもすごいのだけど、言語化されたものが分かりやすい。こういう人、ほとんどいないと思うのです。精神的問題を持つ人の治療を通じて、世界を見ているというか・・・。うまく書けないなあ。2014/07/18