出版社内容情報
一九三〇年代の華やかなモダン東京を見事に描いて、読者の憧れをかきたてた江戸川乱歩。都市の魅力を盛り込み大衆の心をつかむ、その知られざる戦略を解明する。
内容説明
江戸川乱歩の作品は、戦前の同時代においては「通俗長編」で圧倒的な人気を集めた。『蜘蛛男』に始まる『黒蜥蝪』『魔術師』『吸血鬼』『人間豹』『黄金仮面』のような怪人対名探偵明智小五郎の冒険活劇である。そこには乱歩の密かな戦略があった。大衆読者のあこがれをかきたてるような一九三〇年代のモダン東京の華やかな部分を活写し、見事に作品展開に生かしたのである。これまで研究されてこなかった通俗長編の中に、大衆の心をつかむ仕掛けとしての大東京の描写を読みといていく。
目次
通俗長編と『探偵小説四十年』
あこがれの文化アパート
帝都復興と昭和通り
京浜国道のカーチェイス
遊園地の時代―鶴見遊園と花月園
巨大ランドマークの迷路―国技館
プチホテルの愉楽
モダン文化住宅の新妻
大東京の郊外
“近代家族”の誕生
戦略としての土蔵
乱歩邸が乱歩のものとなるまで
著者等紹介
藤井淑禎[フジイヒデタダ]
1950年生まれ。立教大学名誉教授。立教大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。専門は近現代日本文学・文化(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
54
少年探偵団シリーズを卒業後、図書館の大人向け書棚にあった江戸川乱歩の通俗長編を読み耽った。残酷な連続殺人、血で血を洗う復讐や欲望、女の苦痛と悲鳴などを初めて教えられたが、明智小五郎と犯罪者が戦いを繰り広げたのが戦争と高度成長で破壊される戦前の東京とは意識しなかった。明智が結婚後にアパートから一戸建てに転居し、関東大震災後に整備された道路や建物をいち早く作中に登場させ読者の心を掴もうとする苦心が浮かび上がる。さらに乱歩邸の土蔵や建築の由来を解き明かすなど、乱歩好きにはたまらないマニアックさを満載した好著だ。2021/04/26
犬養三千代
11
ジャコビアン様式。 明晰な文章で「乱歩」と「明智小五郎」を描いている。住まいや町並みの写真多数で良かった。 東京の地理に疎いので、頭の中と地図で再現する。 このような本にまた巡り会いたい。2022/03/27
bapaksejahtera
11
近代文学研究家による乱歩論。纏まりよく読み易い。冒頭乱歩が改定を重ねつつ自己の作品の評価記述(「探偵小説四十年」等)から大衆文学作品及びその作家としての(低)評価についてわずかに述べられているが、副題からしてももう少し膨らませてほしいところである。とはいえ著作は震災以降市制拡張前後の東京の特に旧郡部を中心とした拡大と気風の変化を上手に捉え、読者の合致した作品群を作り上げた乱歩の感覚の鋭さを見事に分析提示する。洋風アパートの出現、震災復興と合わせた道路改良。旧市内郊外のプチホテル等々が作品と共に紹介される。2021/07/15
Inzaghico
11
個人的にも興味があったのは第2章「あこがれの文化アパート」と第7章「プチホテルの愉楽」だ。乱歩や登場人物の明智が活躍した時代は、マンションはなくアパートだった。明智が住んでいた御茶ノ水の開化アパートのモデルは、1986年まで御茶ノ水と水道橋の間に残っていた文化アパートだという。映画等で今見ると、かえってモダンな感じがするのはなんでだろう。昔も〈あこがれ〉だったかもしれないが、今も往時を偲ぶ意味合いで〈あこがれ〉る。第7章に登場する「プチホテル」にも同じあこがれを抱いている。2021/05/22
ちゅう
5
震災後の復興の様子が、乱歩の作品を通してわかる。2021/07/21