内容説明
ファシズムの脅威のなか書き上げられたフロイトの「遺著」。猛威をふるっていた反ユダヤ主義の由来について、フロイトは、モーセはエジプト人だったとする仮説からユダヤ教の成立と歴史を考察し、みずからの精神分析の理論を援用してキリスト教の誕生との関係から読み解く。
目次
第一論文 モーセ、一人のエジプト人
第二論文 もしもモーセがエジプト人であったなら
第三論文 モーセ、その民族、一神教
著者等紹介
フロイト[フロイト] [Freud,Sigmund]
ジークムント・フロイト。1856‐1939。東欧のモラビアにユダヤ商人の長男として生まれる。幼くしてウィーンに移住。開業医として神経症の治療から始め、人間の心にある無意識や幼児の性欲などを発見、精神分析の理論を構築した。1938年、ナチスの迫害を逃れ、ロンドンに亡命。’39年、癌のため死去
中山元[ナカヤマゲン]
1949年生まれ。哲学者、翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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まると
27
モーセがもたらした一神教がいかにして成立し、幾多の苦難を乗り越えて持続できたのかについて論じた、驚くべき考察です。心理学の理論を用いて、モーセ(原父)殺しなどの仮説を大胆に立てている。ユダヤ教から派生したキリスト教が割礼を廃止し、異民族にも受け入れられていく一方で、土俗的な宗教を捨ててキリスト教に帰依したゲルマン民族は、ユダヤ人を暗に恨むようになったとの推論もまた面白い。フロイトはこれをナチスによる迫害が進行し、亡命先で闘病中の最晩年に、遺作として残したわけだが、その思いがどこにあったのかも知りたくなる。2021/12/19
evifrei
19
フロイトの遺書となった三部の論文からなる書籍。第一部・第二部ではモーセがエジプト人であることを仮定した宗教批判が展開され、第三部では反ユダヤ主義とキリスト教の関係が精神分析の理論を援用しながら説かれる。ファシズムの台頭する時代に当時の社会には受け入れられない思想である事を理解しながらも、自身の見解を明らかにするというフロイトの魂の一冊。精神分析という自らの研究分野に対する誠実さと真摯さを体現したといえるのではないか。神経症と原父殺しについて述べたところなどはフロイトらしい見解だ。2020/04/07
∃.狂茶党
13
宗教的なものに疎いために、フロイトによる宗教の解体は奇妙なものに思える。 父親殺しとその残響。心理学的紐解きはいいとして、民俗学的な考え方について、迂闊すぎないか? パウロによる、キリスト教の成立は、本書で一番納得のいくものだが、『幻想の未来』と、『トーテムとタブー』を読む必要があるっぽい。 で、この本読んでるときに、『家畜人ヤプー』に出てきた、社会システムが浮かんでしょうがなかった。 2023/03/23
(ま)
1
フロイトによるユダヤ教の精神分析的再構成・宗教批判 エジプト人モーセとイクナアトーンの一神教、原父モーゼ殺害という幼年期のトラウマがユダヤ人・ユダヤ教を産んだ?2021/07/15
とむとむ
1
精神分析や当時の文化人類学の理論を元に、ユダヤ教の起源を古代エジプトのアテン神信仰に求めるフロイトの遺作。それは、人類史の分析における精神分析の有用性を試みるものであったと同時に、自身の出自についてフロイトなりの確信を得ようとした、晩年の思索の産物でもある。歴史的事件に対する記憶の断片が、遺伝子のように世代を超えて受け継がれるとする仮定など、立証の難しい記述は多い。しかし、フロイト程の知性による「思い込み」は、その背景に対する考察も含めて、知的好奇心を大いに刺激し、楽しませてくれる。
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