出版社内容情報
澁谷 由里[シブタニ ユリ]
著・文・その他
内容説明
日露の脅威が迫る清朝末期の混沌の中で馬賊は生まれた。混乱の中、軍閥の長となり中原への進出をうかがい、覇権を目指した「東北王」張作霖もそんな一人だった。虚飾にとらわれた従来の張作霖像を解体し、中国社会が包含する多様性にねざす地域政権の上に馬賊を位置づけ、近代へと変貌する激動の中国と日中関係史を鮮やかに描き出した意欲的な試み。
目次
第1章 「馬賊」はなぜ現れたのか?(「馬賊」のイメージ;軍隊へのまなざし ほか)
第2章 張作霖登場―「馬賊」から「軍閥」へ(張作霖はなぜ「馬賊」になったのか?;帰順とその後の活躍 ほか)
第3章 王永江と内政改革―軍閥期の「満洲」(張作霖と王永江の出会い;王永江の奉天省財政改革 ほか)
第4章 日本人と「馬賊」(第一次「満蒙独立」運動(一九一一~一二年)
第二次「満蒙独立」運動(一九一五~一七年) ほか)
終章 現代日本にとっての「満洲」・「馬賊」(「馬賊」とは何だったのか;新しい「満洲」像へ)
著者等紹介
澁谷由里[シブタニユリ]
1968年生まれ。日本女子大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。富山大学教授を経て、帝京大学文学部教授。専攻は中国近代史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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yamatoshiuruhashi
34
歴史は今の瞬間と個々の事件のことだけで語られるのではなく常に繋がっていることを改めて実感させてくれる側面を持つ。大東亜戦争において米国に敗北したことで我々が生きる今がある。日本があの大戦争にのめり込むには生命線と戦前呼称された満州抜きには考えられない。ではなぜ満州なのか。その満州と言えば必ず出てくる「張作霖」という人物と「馬賊」という言葉。この二つを克明に記録をたどることで明確なものとする。それにより「張作霖は日本の傀儡」という通説に対し反論する。気鋭の一書。著者とこれを文庫本にした講談社に敬意を表する。2019/07/18
さとうしん
10
張作霖の勢力が馬賊から地方政権へと脱皮していく様子と、馬賊や土豪から抜け出せないままに討伐されたり没落した他の勢力との対比、張作霖の日本人軍事顧問が、必ずしも日本側の都合に沿って動かなかったという話を面白く読んだ。張作霖の半生の部分は「馬賊の「満洲」」というより「軍閥の「満洲」」という趣きがあったが…2017/10/30
アメヲトコ
8
張作霖およびその政権について再検討を試みた一冊。馬賊の頭目から身を起こし、革命時の混乱に乗じて勢力を拡大し、奉天政府のトップに躍り出る過程は史劇のよう。彼の右腕であった文治官僚王永江の政策などから再評価される政権像は、これまで言われてきたような日本の傀儡とは異なっており、満州事変の前史を考えるうえでの新たな見取り図を示してくれます。しかし関東軍のアレさは……。2017/12/04
はちこう
7
著者は「張作霖は決して日本の傀儡ではなく、中国統一の野心を持っていた」と主張。日本は傀儡化できると思っていたようだが、張政権はしたたかにこれを利用し、決して屈従するつもりはなかったようだ。張の片腕だった財務等を担当する王永江が、政権の重要人物だったことを知る。王は、膨らむ軍事費を抑制しようと張と意見が対立し辞任。この辞任が政権運営に与えた影響は計り知れない。馬賊(匪賊)に関する記述等に紙幅が割かれ、その分、張作霖の歩みに関しては駆け足で中途半端になってしまった感じがする。2022/07/21
MUNEKAZ
7
満州に起こった「馬賊」とは何か、張作霖とその腹心・王永江を通して論じた一冊。張を日本の傀儡と見る考えに強く反論しているのが印象的で、清朝と中華民国、そして日本を等閑視しながらしたたかに自立を目指していくその姿は、戦国日本の国衆たちを思い起こさせて面白い。また清朝の故地として、中華とはまた違った扱いを受けていた満州の特殊性、そしてそこから台頭したのが張作霖という漢人だったことなど興味深い点が多かった。しかし関東軍はいろいろアカンな…。2019/03/23