内容説明
朝鮮で植民地官僚の家庭に生まれ、敗戦の年に内地に引き揚げた著者は朝鮮を舞台にした作品を何作も執筆している。創氏改名が朝鮮の人々をいかに蹂躙したかを描いた「族譜」。日本軍の民衆虐殺事件が作品の要となる「李朝残影」。いずれも朝鮮植民地支配と日本人の責任を問いかけ、朝鮮民衆の受難を描いた作品として極めて完成度が高い。昭和二〇年八月十五日を主題にした自伝的小説「性欲のある風景」も収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まつうら
41
日韓併合の時代に京城で生まれ、朝鮮民族とともに生きてきた著者が書く2つの物語。この時代、日本は朝鮮民族をどのように扱ったのか? いまや戦争の記憶とともに忘れ去られようとしている事実がここに描かれる。国を奪われ、名前を奪われつつあった朝鮮民族は、矜持を賭けて争わざるを得なかったのだ。民族の矜持と言ったところで、いまの日本人にはピンとこないかもしれない。だが戦争の記憶は忘れても、矜持を賭けた民族が叫ぶ姿を忘れてはいけないと強く思う。嫌韓感情が渦巻く現代だからこそ、広く知ってほしい作品。汝の隣人を愛せよ。2022/09/29
トンボ玉
17
中国や韓国からの反日の様々な批判や攻撃に対するカウンターとして、盛んに反韓・反中の本が出ています。読みもするし、歴史の掘り下げもして勉強もするけど「どうしようない国、民族」みたいな論調には組みしたくはないですね。独断的な物の見方こそが真実から外れていく。この本はソウル生まれの梶山の経験ではないけど、親日なのに創氏改名で苦しみ自殺に追い込まれた韓国の大地主を書いています(族譜)。保守派の歴史家は創氏改名は強制ではなかったと強弁しますけども、ここでは声高にでなく人々の哀しみで戦争のくだらなさを語っています。2014/06/18
Happy Like a Honeybee
9
佐藤優氏が絶賛していたので、手に取る次第。 巷では反韓やヘイト本が跋扈してますが、まずはこの本を読むべきです。 植民地における創氏改名。 日本史の勉強では上部だけしか学べませんが、その経緯はこの本で解釈できます。 軍国主義、慰安婦問題など安易なナショナリズムに流されないよう、自分の意見を大事にしたいと。2018/12/22
るるるん
7
植民地2世が書いたフィクションであるが日本が戦争という最中にやってきた事実は変わらないとことを我々は知っておかねばならない。2021/01/06
みなみ
6
「族譜」創氏改名。あくまで自主的に志願したことになっているが現実には強制参加、みたいなのは今でも日本のそこかしこにある。ここにもまさに同じ出来事が。役人のノルマ達成のために他の民族の誇りを踏みにじる。日本人である主人公は強制的な創氏改名に憤るが、自分の立場を失ってまで抵抗できるわけではない。良心的存在と言っても、内心で思っているだけだ。自分はあいつらとは違う、と思ったとしても、自分も同じ立場に立ったら同じように黙っているしかない…と思った。2020/02/07