出版社内容情報
新大陸「発見」以降、世界中の人や物が頻繁に往来する結節点となってきたアマゾン。そこは、「人跡未踏の静謐な秘境」ではなく、欧米各国や日本など、各時代の列強の欲望が交錯し、激しい覇権争いが繰り広げられる開発のフロンティアであり続けてきた。そのグローバルな移植民の歴史を俯瞰し、従来のイメージを大きく覆す。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
73
タイトル通り本書はヨーロッパの進出以降のアマゾンの植民と開発の歴史を綴ったものだが、著者が地理学者であるため、冒頭のアマゾンの地理的特徴の記述がかなり詳細で、アマゾンという環境を理解するのに役立つ。また、植民・開発の主役もポルトガルだけでなく、スペイン、イギリスからアメリカ、そして日本と多岐にわたる。その中で新しい発見は、アメリカのリンカンが黒人奴隷の移住先にアマゾンも考えていたこと。同じ月に発売された岩波新書2冊で、このリンカンの人種主義的政策が奇しくも取り上げられたという偶然には驚いた。こちらも良書。2023/09/13
ゲオルギオ・ハーン
27
アマゾンと聞くとなぜか未開の密林で先住民族や危険な動物たちがいるという先入観持つが、本書を読むと実態との差にとても驚く。まずは開発の面だが、ポルトガル時代、南米の重要性(特に大量の天然ゴムが採れるのが魅力的だった)もあってすでに積極的に行っている。アメリカの参入やブラジルの独立でさらに投資は増えるが、一方でアマゾンの熱帯環境に機械的に投入される数多くの労働者たちが犠牲となる。日本の開発参入の歴史が書かれており、戦前の現地と本国の温度差や煮え切らない本国に神経をすり減らす公使の様子は気の毒に思える。2023/12/08
鯖
21
500年に渡るポルトガルスペイン米英日、そして本国ブラジルによるアマゾン開発史。風土病や自然環境、現地のゴム栽培の知識を顧みず植民地化に失敗するアメリカ。ゴムの種子7万粒を極秘で本国に持ち帰り、勝手知ったるマレー半島でゴムプランテーションを成功させ、ブラジルのゴム栽培を逼迫させる英。きたないさすがえげれすきたない。…つうか東南アジアのゴムってブラジルからもたらされたものだって知らなかった。アマゾンが満州化することを怖れるブラジル。政治情勢の移り変わりによっていともたやすく棄てられる移民たち。どんより。2023/12/23
さとうしん
16
物語ブラジルの歴史+天然ゴムの世界史+日米アマゾン植民史といった趣の本。現地の自然環境や文化に適応しようとせず、植民に失敗するアメリカ人の姿、「ゴム兵」を含む移民たちを「棄民」同然にした日本やブラジル政府の対応、現地での排日に科学を持ち出す態度は現在の日本、アメリカ、ブラジルのありようも示唆するだろう。戦中の日本の植民にブラジルが当時進行していた満洲事変を持ち出して警戒したというのもごく自然な発想で当たり前だろう。2023/08/27
ktf-tk
5
授業の参考資料として購入していた本。ブラジルを中心としたアマゾンの地域は主にポルトガルによる植民地の印象が強かったが、アメリカの介入がとても色濃いものだと感じられた。先住民を授業の中でどのように扱うかももっと考えいないといけなかった。移植者、先住民、開発、環境など含めた授業構成の再検討の材料になった。2024/02/20