出版社内容情報
2億2000万の流域人口を抱え、中国を含む東南アジア主要国を流域に持つメコン河。その流域の水力発電ダム開発の具体的ケースを通じて現状を詳細に分析する。
世銀、アジア開銀、日本政府の動きを紹介しながら、21世紀の開発援助を考える試金石として、メコン河開発を展望。「持続可能な開発」実現のための条件を、四年にわたる現地でのNGO活動と最新の資料を駆使して浮き彫りにする。
【書評再録】
●日本経済新聞評(1997年6月8日)=日本国際ボランティアセンターというNGOのラオス代表として現地に長く駐在した著者が、メコン河開発の柱としてのダム開発と、それをめぐる国際協力のあり方を調べた労作。国際協力の現場からの貴重な報告である。
●図書新聞評(1997年9月13日)=誰のためのダム建設か、誰のための開発か、誰のための援助か、という疑問に対する解答が、一見私たちとは縁遠く思えるラオスのダム建設の事例から明快に浮き彫りにされてくる。開発、開発援助、国際協力などに関心のある幅広い人たち、とりわけ政府機関、国際機関で働く人たちにお薦めしたい一冊である。
●週刊東洋経済評(1997年6月14日号)=国際版公共事業であるODAに多方面からメスを入れた力作。
【内容紹介】本書「あとがき」より
私が本書を通じて投げかけたかったのは、一般的なダムに対する批判でもなければ、環境問題でもない。もちろん、メコン河流域のダムの乱開発を検証し、問題点を提起するという目的はあったが、それと同じぐらいに、開発援助のプロセスの問題を、メコン河のダムを通じて取り上げたかった。
私がラオスにいた4年あまりの間、日本国内では沖縄の米軍基地や、新潟県巻町の原子力発電所の建設、などをめぐって、住民投票条例の制定などを通じて、地域の将来はそこに住む自分たちで決めたいという声が強く表に出始めていた。開発援助の現場でも、まさにその点が重要になってきているのではないかと思う。その代表的な考え方が、住民参加だったはずではないだろうか。開発の主体者は住民であり、その参加が不可欠だからであろう。
本書の中で、住民参加と動員の違いについて触れた。政府による開発計画があり、それに住民を「参加させる」のは、動員である。住民参加とは、住民の思いが行政や援助団体を動かし、そこに住民が参加することではないだろうか。現実はどうか。住民主体の開発どころか、相変わらず開発援助は、政府やコンサルタント会社、さらには援助団体のものであり、住民参加は、手法やテクニックとなって、いかに住民を動員できるかという技があちこちで披露されている。本書のいくつかのダムの例を見てもわかるように、こうなるとほんとうに住民参加という理想は実現できるのかと疑問に思うようにすらなる。
持続可能な開発ということばが使われるようになって10年がたった。今では日本政府も、開発援助の柱に据えるようになった。しかし、本当に日本の開発援助は、持続可能な開発を目指しているのか。いやその前提となる日本国内の開発は持続的なのか。そもそも持続可能な開発という概念は、達成可能なものなのか……。メコン河流域のダム開発を通じて、そうした点を考える糸口になればという思いで本書を書いた次第である。
【主要目次】
▲▲序章・「持続可能な開発」の潮流とメコン河開発
国際環境協力の基本的考え方=「持続可能な開発」
開発援助の政府指針=「政府開発援助大綱」
21世紀の開発援助を考える試金石=メコン河開発
▲▲第1章・まるで、ダムのパッチワーク---メコン河開発
パッチワークのようなダム地図
琵琶湖の半分の面積が水没する
メコン河下流域のダム計画
ラオスという国
森の国ラオス
メコン河
乱立するダム計画---四つの資料
四つの資料の矛盾
計画がすべて実現すると---ダム開発の全体像
ラオスの水力発電計画の特徴
メコン本流ダム計画
メコン河開発の歴史
電力の自給と輸出---ダム開発の背景
村人たちの将来は?---ダムがもたらす影響
注目される、ダムと日本政府の関わり
▲▲第2章・住民移転問題---検証ナム・グム・ダム
ナム・グム・ダムとは……
貯水効率と住民移転の矛盾
住民支援のためのスカープ報告書
平和的に移転できたケース
共産勢力パテトラオと住民移転
ダム水没地住民の流浪の旅
政府の住民移転プロジェクト
住民移転プロジェクトの失敗
避難民の生活苦
日本のコンサルタント会社の認識
▲▲第3章・経済性への疑問---検証ナム・グム・ダム2
費用を問われないダム
ダムの建設コスト
タービン、変電所などの修復コスト
水不足に悩むナム・グム・ダム
水不足はなぜ---集水域管理の重要性
発電しないダム---ダムが招いた新たなダム
ナム・グム・ダムを補完するさまざまな援助
セセット・ダムも水不足
ナム・グム・ダムの教訓
▲▲第4章・援助が援助を呼ぶ---検証ナム・ソン・ダム
水不足を補うはずのナム・ソン・ダム
水が使えないワンキー村への訪問
援助が援助を呼ぶ
洪水を防ぐはずのダムが……
建設誘導型の環境影響評価
ナム・ソン・ダムが残したもの
▲▲第5章・水没地の伐採問題---検証ナム・トゥン第2ダム1
ビエンチャンからタケークへ
小さな町タケーク
小さな町とナム・トゥン第2ダム
ナム・トゥン第2ダムの概要
資金不足と森林伐採
伐採ロード
タケークからナカイ高原へ---国道12号線
マハーサイの合板工場
「東洋のガラパゴス」ナカイ高原の変貌
新種の哺乳動物“サオラー”
伐採を独占する山岳開発公社
伐採と向かい合ったある村長の3年間
▲▲第6章・事前調査に何が欠けているか---検証ナム・トゥン第2ダム2
タイとの電力価格交渉は成立したが……
世界銀行とは
世界銀行使節団のエイド・メモワール
代替プロジェクトの調査
費用便益の考え方
住民参加の考え方
経済効果の調査
環境評価と保全計画
情報公開と住民意見の反映
専門家による独立委員会の設置
国際河川としての政策
エイド・メモワールのまとめ
環境VS経済開発ではない
住民移転が始まった?
ナム・トゥン第2ダムをどうするか---世界銀行の模索
▲▲第7章・タイは本当に電力を買うのか---検証ナム・トゥン第2ダム3
タイに左右されるダム開発
タイによる売電契約の破棄
タイ電力公社
民間発電者によるタイ電力公社の民営化
タイ政府の電力需要予測の混乱
競争力のないラオスの電力
▲▲第8章・声を出せない住民たち
いくつかの言論事件
ダムをめぐる言論統制
あるラオス人の覚悟
住民へのコンサルテーションの実態---A村
住民へのコンサルテーションの実態---B村
住民へのコンサルテーションの実態---C村
十分な情報と時間が必要
▲▲第9章・メコン河をねらう国際社会---メコン河委員会、アジア開発銀行、日本政府
乱立する国際的枠組み
メコン河委員会と流域開発計画
メコン河委員会と住民参加
中国のメコン河委員会への加盟
アジア開発銀行
アジア開発銀行と日本の役割
大メコン圏経済協力とアジア開発銀行
優先プロジェクト、ナム・トゥン・ヒンブン・ダム
アジア開発銀行の融資決定への疑問
矛盾だらけの調査とアジア開発銀行の態度
セコン/セサン川流域ダム計画
セコン/セサン川流域水力発電開発への批判
日本政府とメコン河流域開発
ナム・ルック・ダムへの円借款
ダム開発への日本政府の見方
大メコン圏開発構想タスクフォース
2020年の発展像と水力発電
大メコン圏開発構想の姿勢と位置づけ
▲▲第10章・メコン河開発の今後を考える
問題点の整理
ダムに群がる各国の事情
持続可能な開発とメコン河流域開発
人々や社会の力を引き出す---開発とは何か
今後に向けて……
内容説明
2億2000万の流域人口をかかえ、中国を含む東南アジア主要国を流域にもつメコン河。その流域の水力発電ダム開発の具体的ケースを通じて現状を詳細に分析。世銀、アジア開銀、日本政府の動きを紹介しながら、21世紀の開発援助を考える試金石として、メコン河開発を展望。「持続可能な開発」実現のための条件を、4年にわたる現地でのNGO活動と最新の資料を駆使して浮き彫りにする。
目次
序章 「持続可能な開発」の潮流とメコン河開発
第1章 まるで、ダムのパッチワーク―メコン河開発
第2章 住民移転問題―検証ナム・グム・ダム(1)
第3章 経済性への疑問―検証ナム・グム・ダム(2)
第4章 援助が援助を呼ぶ―検証ナム・ソン・ダム
第5章 水没地の伐採問題―検証ナム・トゥン第2ダム(1)
第6章 事前調査に何が欠けているか―検証ナム・トゥン第2ダム(2)
第7章 タイは本当に電力を買うのか―検証ナム・トゥン第2ダム(3)
第8章 声を出せない住民たち
第9章 メコン河をねらう国際社会―メコン河委員会、アジア開発銀行、日本政府…
第10章 メコン河開発の今後を考える