出版社内容情報
「ポール・ゴーガンはつねに〈異国〉を背負っていた。ゴーガンはその時代と生涯をつうじて、いわば〈異なるもの〉との相剋のなかで生きたのである。彼には、この地上のどこにも、彼自身が自足できる固有の領域というものがなかった。自足できないというこのことが、ゴーガンの〈領域〉をつくりだしたのである」。
今年(2003年)は、ポール・ゴーガン没後100年にあたる。本書は、近年のゴーガン研究や新資料を存分に盛りこんで、この複雑きわまりない芸術家の、想像・表現・現実にわたるドラマを描ききった、本邦における第一級の評伝である。
1848年の2月革命直後の動乱期に生まれ、生後わずかでペルーにわたって幼少期をすごしたゴーガンにとって、〈異国〉とは何だったのか。みずからを《わが意に反して野蛮人となったもの》と呼んだこの画家を、パナマからマルティニックへ、そしてタヒチ島、ヒヴァ・オア島へと駆りたてたものは何だったのか。
著者は言う、「ゴーガンという〈存在〉はゴーガンという〈主体〉には還元できない」――激動の時代と、印象主義からポスト印象主義、象徴主義への芸術思潮のなかに、ゴーガンの生きた脈絡を位置づけながら、主要な絵画と、『ノアノア』などの著作や日記を綿密に読みこむ。そこから浮かびあがるゴーガンの雑種的な個性を、〈異なるもの〉との接点と結ばれ、という一貫したモティーフに沿って追求した、伝記評論の決定版。
丹治恆次郎(たんじ・つねじろう)
1935年、京都市生まれ。大阪外国語大学卒業、京都大学大学院文学研究科修士課程修了、博士課程中退(フランス語フランス文学)。関西学院大学教授。専門分野はフランス思想・芸術論、文化記号論などであるが、ポール・ヴァレリーが主な研究テーマ。編著書:『世紀末は動く』(松籟社)、共同執筆:『フランス・ロマン主義と現代』(筑摩書房)、『象徴主義の光と影』(ミネルヴァ書房)、『アヴァンギャルドの世紀』(京都大学出版会)など。翻訳:『ベルリオーズ回想録Ⅰ、Ⅱ』(白水社)、論文:「ヴァレリーと〈極東〉」、「フランスにおけるワグネリスム」、「良寛の詩歌の風景と西田幾多郎の〈場〉の論理」、「《雨月物語》の記号と映像」、「印象主義とアナーキズム」など。
内容説明
ポール・ゴーガン没後100年に贈る、伝記評論の決定版。激動するヨーロッパの時代と芸術を背景に、画家をタヒチへと駆りたてた衝動を、「“異なるもの”との接点と結ばれ」という主題から描ききる。
目次
第1部 “異国”を離れて(「ボクは悪い子なんだ」;船員として;二重生活―株の仲買人 ほか)
第2部 “異国”へ向かって(パナマからマルティニックへ;ゴッホとの出会い―その端緒;南仏のアトリエ ほか)
第3部 “異国”の内で(最後のフランス;タヒチの内側へ;“異国”のなかの政争 ほか)