感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
猫丸
13
テクスト主義と奔放な仮説を併用して東西文化の狭間で苦吟する漱石を照射する試み。いわゆる比較文学的手法というのかな、いかにも古き良き駒場学派の雰囲気。クレイグ先生の実像を追うところは実証的興味。面白いのは看板と微妙にズレる第二章。虞美人草を全編博士号へのアンビヴァレンスの表出と読む。やはり本人は博士になる意思はあっただろう。でもメンドウになると一気に自己放棄する精神のクセが漱石にはある、と僕は思う。四国行き、英国行き。大学辞職、博士辞退など、何かと得にならない方へリセットを図る心性を理解できる気がする。2019/01/06
shinano
9
漱石の著作・書簡・日記などをある程度通読された読者ならば本書は解かり易く、また新たな漱石像を見つけるのに良書といえるのではないかと私は思います。漱石という日本の巨人と中国の魯迅という巨人が、世代は違うが、国費留学生であり精神圧迫と苦悩の経過をたどり、その渡海先の国際観の中での自国の位置や自分の方向の転換など相同的な部分を概括した上で、漱石の「クレイグ先生」と魯迅の「藤野先生」を比較考察論旨は一読の価値はある。また、漱石の劣等感の要因である『顔・あばた・鼻』の作品への落とし込みや諧謔法の論考もいい。2010/10/11
うえ
5
「明治36年の日本で、東京の帝国大学にはいってイギリス文学を専攻しようとしていた学生は、イギリスを理想国のように考えていただろう。…そのような時期に文科大学の新任講師が英文学の講義の合間にイギリスの悪口を洩したら、その人と学生の間には冷たい空気が流れたにちがいない…そのような口吻を洩していた漱石は、その反英気分の代償として、自己のよって立つべき地歩を東洋に求めた。その当時…ニーチェを説くことが流行で、漱石も…英訳で読んだが…日本人にとっては神が死のうが死ぬまいが関係がないではないか、という考えが先行した」2023/01/21
でっていぅ
0
Old pond! the noise of the jumping frog.2010/12/20