内容説明
ケインズ革命が否定され「小さな政府」論が隆盛を誇る今日、主著『一般理論』はどう読み直されるべきか。英国で公表された資料などをもとに、その意外な成立事情、内在する矛盾、誤った解釈などを論じ、現代日本の不況対策のあり方を考察する。名著『ケインズ』(岩波新書)刊行から四十余年、待望の最新ケインズ案内。
目次
序章 ケインズ没後六〇年―いま問われねばならないもの
第1章 道徳科学としてのケインズ体系―伝統的体系の継承
第2章 ケインズ理論再考―パラダイム転換
第3章 妥協の書『一般理論』(ケインズの金融市場分析―新古典派への妥協とケインズの真意;乗数論の誤った理解―それがケインズ政策批判を生みだした;カーンの提言が新古典派反革命を用意した)
第4章 ヒックスによるケインズ理解―IS‐LM分析の誤り
終章 学説史のなかのケインズ(道徳哲学から道徳科学へ;ケインズの市場観;ホモ・エコノミカス批判)
著者等紹介
伊東光晴[イトウミツハル]
1927年東京都に生まれる。1951年東京商科大学卒業。専攻、理論経済学。京都大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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KAZOO
62
学生時代からケインズの関連の本でお世話になった伊東先生のケインズに関する小論です。現在におけるケインズの位置づけなどを明確にして「一般理論」の現在に即した理解の仕方などを示してくれます。ただ第4章のヒックスによるIS-LM分析については私は今でもその価値はあると思っているのですが。2015/09/04
さきん
24
一般理論はまだちゃんと読んでいないが、ケインズの一般理論を軸にケインズ経済学を著者の読み方も合わせて紹介する内容。ケインズは、人によって解釈に違いが生じ、これがケインズを巨人たらしめているというか、他の学派の存在を許してしまっているというか。利子から所得への影響は、そこまで大きくないという著者の意見には賛成であるが、財政黒字志向には、納得出来なかった。乗数理論も小さな範囲で見ると著者の意見はあたっているように見えるが、仕入れ費よりも心理や資本の流動が与える影響の方が大きいと思う。2017/02/15
佐島楓
18
ケインズの「一般理論」を解析しなおすといった趣向。もう時代に取り残されつつあるというケインズ理論だが、歴史的に支持されてきた意味を再考すると、現代の金融の問題点が見えてくるのだなと思った。しかし数式が多く、難解。2012/08/01
masabi
16
【概要】ケインズ理論の再考とどう誤解されてきたかを解説する。【感想】ケインズ理論の現代的意義を期待していたが、現在までどのように受容されたかを整理する一冊。ケインズは経済効率、社会的公正、自由を経済学を通じて実現しようとした。その点で科学ではなくアダム・スミスに連なる道徳科学だと筆者は指摘する。では「一般理論」でどう誤解されたかというと、ケインズ自身の言動や妥協にあったとする。ケインズが長生きしていたら経済学もまた違った姿になっていただろう。 2020/06/25
Akiro OUED
3
現代日本のように、産業の生産能力が、需要の変動への余裕を持っていると、価格が変動しても、需給曲線は動かない。確かに。将来の明るさが今の利子率を決めるという流動性選好理論。日本の未来が暗いから、ゼロ金利が続くのかな。困ったね、いっそ、政策金利を強引に上げたらどうなるんだろう。2021/11/23